サラ・ノールはさみしんぼ

赤井茄子

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本編

晴天の霹靂※

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 最初、夢を見ているのだとマクシムは思った。
 それほどまでに、その夜の彼女は扇情的だった。そして、夢のように都合の良い展開であった。





 長い治療を終え、右腕を解放されたマクシムは、自室にある浴槽の中で愚息を扱いていた。サラがやってくる時間までに、右腕のリハビリがてら、体を隅々まで洗ってついでに欲を吐き出しておかねばならない。
 自身の妄想で、泣いて嫌がるサラを何度も何度も何度も蹂躙し孕ませてきたマクシムだが、現実でそんなことはしない。妄想の中では、最終的に身に余る快楽に堕ちたサラがうっとりした瞳で「まくしむさま、らいしゅき」と愛を返してくれるけれど………現実はそう都合良くいかないことを、変態なりに分かっているからだ。


 さて、浴室を出て全裸で涼んでいると、約束の時間になった。時間ぴったりにやってきたサラは、全裸のマクシムに叫び声を上げる。しかしこの部屋は防音なので、サラが泣こうが喚こうがあまり意味がない。やんわりとマクシムがその事を伝えたところ、彼女は顔色を青くしていた。そういう表情もいい。先程吐き出したというのに、マクシムの愚息は半分ほど顔を上げてしまった。

 この日、マクシムは大いなる決意を秘め全裸サラを待ち構えていた。

 そう、今夜こそ、『サラを自身の肉体でもって陥落してみせるという決意』だ。
 言い換えると『今日こそ犯す』になるが、言い方は大切だ。マクシムは変態だが、言葉には割と気をつける変態なのである。言葉責めにも彼なりのこだわりがあるのだ。



 じっくりねっとりと追い詰めてやろうと思っていた彼だったが、自身のパンツを広げて跪いた彼女を見たら……いとも簡単に箍が外れ、なし崩しにベッドに押倒してしまった。
 考えてみてほしい。いつもマクシムの愚息を絶妙なフィット感で支え、護り、包んでくれるこの世で最も大切な布。それがパンツだ。そんな大切な布をサラは鷲掴み、あまつさえあんなに力いっぱい広げたのである。………これは、まさに間接的で情熱的な愛撫ではないか!その時、マクシムとパンツは繋がりあい、彼女の手のひらが愚息に触れ乱暴に擦り上げたような心地であった。

 いつもならそれだけでも、一ヶ月は妄想の素に困らないというのに、その日はそれだけで終わらなかった。

 話がある、というサラの為に昂ぶる愚息を懸命に鎮めたマクシムの目の前で――――サラが、服を脱ぎ始めたのだ!
 いつもの快活な表情はなりを潜め、その瞳には苦悩と羞恥が入り交じっている。その少し陰った眼球を舐めたい。だが状況はそれどころではない。サラがワンピースのボタンを外すと、そこには、白いレースをあしらったキャミソールに…………程よい大きさの胸が、桃色の乳首が、透けて見えていたのである。

 胸当てのない装飾過多のキャミソール、透けた生地、羞恥と期待で勃起し透けた生地を押し上げる桃色の乳首。
 まさにそれは、彼が夢にまで見た、『勝負下着でお強請りするサラ』だ!!!その妄想に十二回ほど世話になったマクシムはもう間違えようがなかった。

 だからこそ、夢ではないかと思ったのだ。

 本当のマクシムは浴槽で溺れていて、死ぬ間際に夢を見ているとか。そういうことならまだ分かる。サラの話を聞きつつ、そっと自分の尻あたりを抓ってみたが、とても痛かった。痛いということは、夢でない可能性が格段に高くなる。これは、紛れもない現実なのだ!マクシムは度を超した喜びと爆発寸前の性欲で驚愕し、硬直した。
 すると、硬直したマクシムに近づき、下からサラが見上げてくるではないか!
 透け透けの勝負下着を身につけたサラが、上目遣いでマクシムを見つめている。恋と欲に蕩ける媚びた瞳で、マクシムを見上げているのだ。
 マクシムは、理性の糸がブチブチ切れる音を聞いた。切ったのはもちろん、眼前で自ら皿の上に乗り腹を上に向けたウサギ……ではなく、彼女を欲する男の前でいやらしい下着を身に纏い、無意識な上目遣いでマクシムを煽る女サラである。


 そこから先は、本当に夢のような時間であった。その夜……マクシムは、サラの全身を余す所なく味わいつくした。さくらんぼのような唇から、熱く甘い口内と喉の奥、小さな果実のような桃色の頂、手のひらに収まる程よい大きさの美乳、想像よりも少し肉のついた腹を辿って臍の窪み、むっちりとした太腿にすらりとした脹脛ふくらはぎ。そして、最も魅力的で蠱惑的な……二つの花弁と、蜜を垂らし咲き綻ぶ赤い華。
 その全てが、マクシムを捕らえて放さない。舐めてもしゃぶっても、何度となく奥に突き入れ白濁を流し込んでも、彼の欲が尽きることはなかった。

『こんな残り滓のサラでいいなら』

 残り滓?とんでもない!マクシムは内心で叫びながら、彼女を何度も貪った。
 確かに、サラは処女ではなかった。彼女の『初めての痛みに耐える表情』を見られなかったのは惜しいが、だから何だというのだろう。確かに、サラの初めてを奪い捨てた男は一度殺してやりたいが、それとこれとは話が別だ。
 ………それに、恐らく『後ろ』は初めてだろうから、自分にもまだ機会はある…………思考が逸れ始めたので、揺さぶられ喘ぎ絶頂するサラを見つめマクシムは心の軌道修正を図った。呆けた顔もたまらない。

 自分を『残り滓』と形容するほど、自己肯定感の低いサラだからこそ、マクシムに想いを伝えたら拒絶されるという思考に陥ったのだ。彼女にそんな思想を植え付けた、一部は未だ顔と名前を調べられていない過去の男共を、マクシムは頭の片隅で切り刻んだ。彼女の自己肯定感を上げなければ、何かのはずみで自分の元から逃げていくかもしれない。その可能性に思い至ったマクシムは、彼女の内から過去の男共とその影響を駆逐することを胸に誓った。



「嗚呼、サラ……………出るッ!!」

 彼女の膣内ナカで果てた瞬間、マクシムは言葉で語り尽くせぬほどの充足感に包まれた。妄想ではない、サラの温かい内臓を自身の体液で染め上げ侵していく感覚。それは、何にも代えがたい快感だ。
 その後もマクシムの欲は際限なく、朝まで貪り尽くされたサラは、疲労と筋肉痛でしかめ面だったがそれでも嬉しそうだった。
 マクシムはというと、愛しい女をやっと手に入れた歓喜で満ち溢れていた。これから始まる慌しい日々を思い、知らず心が踊って回る。

 ――――――――まずは正式に婚約して毎晩サラを愛で尽くし、サラの腹が大きくなる前に婚姻、主人や同僚の立会のもと盛大な結婚式を上げ、サラを法律的にも社会的にもマクシムに一生縛り付け逃げられないようにしなくてはならない。子どもを孕ませるだけでは生温い。そう、マクシムは気づいたのだ。彼女は下手に行動力もあって有能なので、どこかで乳母などまた適当に職を見つけて高飛びすることも考えられる。
 サラの逃げ道を徹底的に潰し、必ずや彼女を人生の墓場に引きずり込んでみせる――――――マクシムは謎の使命感に燃えていた。そして、初めて彼らが結ばれた日から一週間後



「明日から半年、実家に帰るんですぅ!」

「…………………………………は?」




 サラの無邪気な一言によって、マクシムの炎はさらに大きく燃え上がったのだった。
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