スパダリ族はお断り!

赤井茄子

文字の大きさ
上 下
53 / 54

夢のような現実

しおりを挟む
 先走って体の関係をなし崩しに結んでしまったが、オーソドックスな恋愛はまず告白からだろう。舞花が今まで嗜んできた少女漫画や恋愛小説(教科書の数々)は大抵告白して恋人同士になっていたと思う。

「……食べ合わせ悪かったか?」
「いやそれは全然。むしろ美味しくて……んむっ」
「そりゃ良かった。ほらこっち向け、ヨーグルトついてる」
「むぐ……む……」

 さりげなく口元をウェットティッシュで拭かれながら、悶々と考える。
 王道はやはり「貴方が好きです」だろう。しかし、それだと「分かった。で?」となる可能性も少なくない。
 ならここは、「私とお付き合いして下さい」では……?しかしそれだと、将来性が薄い気がしないでもない。でも「お付き合いして下さい。そして頃合いをみて結婚しませんか」は流石に将来を見据えすぎて逆に重すぎでは……?

 ぐるぐると回る思考が知らず表情に出ていたのか、舞花の百面相に吉弘が噴き出した。

「何だお前、赤くなったり青くなったり忙しいな」
「ちょっとまって……今考えてるから……」
「何を?」
「そりゃ告白の仕方を……あ゛っ!!」

 バッと自分の口を抑えるも、時すでに遅し。
 吉弘の方を薄目で伺えば、ニヤニヤと……何とも腹の立つ顔で舞花を見ている。

「ほぉ、誰に?」
「や、やー! やっぱ今のナシっ……うわっぶ!!」
「そんなに悩ませるくらいなら、早く俺から言やあよかったな」

 太い腕が伸びてきて、照れて逃げ腰の舞花を引き寄せる。逞しい胸元が頬につくほど近くに抱き寄せられ、見上げれば先ほどとは打って変わって真剣な顔をした吉弘がじっとこちらを見つめていた。

「――木下舞花さん」

 小さな頃とは違う、筋張って大きな手のひらが、ゆっくりと舞花の両手を包む。
 彼の黒い瞳の中に、眉を下げた情けない顔の自分が映り込んでいて、それが見えるほど近くにいることが恥ずかしい。
 恥ずかしいのに、先を聞くのが居た堪れないのに……期待している自分がいるのがさらに居た堪れない。

 ――恋愛した姉さんも、こんな気持ちだったのかな。

 拗らせていた舞花は、姉夫婦のプロポーズ話を聞きたくなくて避けまくっていた。今更だがそんな自分をぶん殴りたくなる。
 いやでも完璧な姉のことだ、きっと幸せいっぱいな気持ちで受け入れたに違いない。

 思考が明後日の方向へ飛んでいく中で、夢のような現実が目の前で口を開いた。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ご令嬢が悪者にさらわれるも、恋人が命がけで助けにくるお話

恋愛 / 完結 24h.ポイント:433pt お気に入り:25

"出られない部屋"を作ってしまった公爵令嬢

恋愛 / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:399

渡りの乙女は王弟の愛に囚われる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:204

【R18】今夜、私は義父に抱かれる

umi
恋愛 / 完結 24h.ポイント:575pt お気に入り:567

【R-18】復讐を遂げた仮面王は愛妻の音色に微笑む

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:521

悪女に駄犬は手懐けられない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:184pt お気に入り:333

【完結】嫌われているはずの婚約者が妻になった日から可愛くて仕方ない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:6,136pt お気に入り:2,333

処理中です...