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第一章『クラスで異世界転移⁉︎そして僕の異世界物語』

謎空間に転移されて、謎の人に出会う

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 光が弱まっていくのを感じ、目をおそるおそる開けると、真っ白の空間の中にいた。
 同じ教室にいたクラスメイトたちもいて、みんな何が起きたか分からず慌てている。
 しかしこの中で、慌てず冷静に、いや、興奮しているやつらがいる。
 オタ達と僕だ。僕らのように、先ほどまでも異世界に憧れていた者にとっては、興奮せざるを得ない状況だ。
 今もオタ達はお互い顔を合わせて興奮しながら話し合っている。周りは慌てているというのに、どこまでもオタオタしてるやつらだ。
 そうしていると、白い衣を着て、顔を隠すほどの頭巾を被った人がいきなり現れた。転移系の能力でも持ってるのだろうか。

「みなさん、よく来てくれました。私はあなた達をここへ召喚した者です。早速で悪いのですが、みなさんには異世界へ行ってもらいます。」

 おお、まさにザ・異世界転移という感じだ。
 神様によって転移されるのは定番と言っても過言ではない。

「しかし向こうの世界には、モンスターという魔物が存在していて、中には強力なのもいます。今のみなさんではすぐにやられてしまうでしょう。」

 どうやら僕たちが行く異世界は、モンスターがいるところらしい。そうなると戦闘は避けられないことになる。 

「そこでみなさんに、“クラス”を授けようと思います。クラスとは職業という意味であり、そのクラスによって得られるスキルも決まります。」

 はい、スキルきましたー!オタクにとっては夢のような響きを持つ名詞「スキル」。まさか実際に使える日が来ようとは。

(ハァハァ、少し落ち着こうか、一回深呼吸だ。スーハー、スーハー。…よし、落ち着いた。)

 その後、僕たちを召喚した人から、クラスについて色々と教えてもらった。
 話によると、クラスには多くの種類があって、そのクラスに適したエクストラスキルが派生するらしい。
 エクストラスキルとは、さまざまなスキルが集まってできたもので、そのスキルにも攻撃系、魔法系、支援系、耐性系等々、漫画やゲームと同じみたいだ。
 仮に、クラスが《剣士》の場合、エクストラスキル【剣使い】を得て、スキル『斬擊』などを使うことができる。
 また、スキルレベルというのがあって、スキルを使えば使うほど上がるみたいだ。
 スキルを一定のレベルまで上げると進化することがあり、それによって、クラスも進化することがあるらしい。滅多にないらしいけど。

「それじゃあ、それぞれにクラスを授けていきますね。何がくるかお楽しみです。」

 遂にこのときが来た。いよいよ自分のクラスが決まる瞬間だ。ワクワクが止まらない。

「う~ん、あなたは《武闘家》で、あなたは……《錬金術士》。」

 次々とクラスメートがクラスを授けられていく。自分の番が近づいていくと、ドキドキしてくる。

「あなたは《守護者》、あなたは《魔導士》、あなたは~~。」

 いよいよ僕の番がやって来た。なんだか緊張する。手汗も出てきた。ヤバい。

「ふぅ、次はあなただね。え~っと……」

  さぁ、何を授けられるのか、運命の瞬間です。

「あなたは…《引きこもり》です。」

「…えっ。」

 今目の前にいる人は、なんと言ったのだろうか。《引きこもり》?えっ、何それ、職業といってもいいの。

「あっ、あの、すみません。今何と言いましたか?」

「えっ、《引きこもり》ですが。」

  うん。やっぱりひきこもりで当ってたっぽい。

「いやっ、《引きこもり》じゃありませんよ。何ですかひきこもりって。確かにいつも引きこもっていた感じでしたけど、職業で引きこもりはないでしょ。何でそんなひどいことするんだよ。僕への当て付けかこらっ!」

 思わずはや喋りしながら怒っちゃったよ。はや走りならぬ、はや喋りしちゃったよ。結構疲れるよこれ。
 そもそもなんでクラスが《ひきこもり》になってしまったのだろうか。やっぱりこの人の当て付けか何かなのだろうか。

「いきなり怒られても困りますよ。私は授けると言いましたが、みなさんに適正のあるクラスを授けるだけで、私の意思で自由に授けるわけではないんです。」

 なんということだ。この人の言ってることが本当なら、僕は《ひきこもり》の適正があったということになる。
 なんだよひきこもりの適正って。

「あの、ちなみにですが、クラスをいくつか加えるということはできませんか?」

「できません。」

 とんでもないことになった。僕は異世界で《ひきこもり》というクラスを持って、生きていかなければならないようだ。
 はっきり言って、この先お先真っ暗な人生になること間違いなしだ。今もお先が真っ暗だけど。

「おい、邪魔だぞクズ。とっととどけや!!」

 そうこう考えていると、後ろから罵声が飛んできた。不良グループのリーダー、磐上流成だ。

(やっべ!こいつにこのことが知られると、何されるか分かったもんじゃない。)

 そうして、そそくさと後ろへ下がる。
 しかし、これからどうしていくものか。《ひきこもり》って、正直言って使いどころが全然見えない。
 さっきオタ達のクラスが授かるのを聞いてたんだけど、《忍(しのび)》とか、《守護者(ガーディアン)》とかだった。
 すっごいクラスの差を感じる。
 ちなみに、委員長は《魔法剣士(マジックセイバー)》と《守護乙女(ヴァルキリー)》の2つのクラスを授かってたらしい。  

(うん。マジ最強ですわ。)

 他のみんなも、《剣豪(ソードチャンピオン)》だったり、《神官(ブリースト)》、《弓名手(アローマスター)》、《聖騎士(クルセイダー)》等々、ものすごいクラスを授かった人が多い。
 中には、《鍛冶士》、《料理人》、《薬師》という非戦闘員もいるが、僕の《ひきこもり》と比べれば、まだ色々と生産できるからマシな方だ。
 はっきり言って、僕、もういなくてもいいんじゃね。
 そのとき、

「うおー、スゲー、俺《勇者》に選ばれちまったよ!」

 マジか!
 不良グループのリーダー、磐上が《勇者》のクラスを授かったようだ。
 また、他の不良グループもメチャ強のクラスを授かったようだ。
 一瞬、間違いでもあるんじゃないかと思った。だって、あいつら今までろくなことしてこなかったし、いったいどこに勇者につながる適正があったのだろうか。

「意味分かんね~。」

「おい、お前らのクラス言ってみろや。」

 不良グループの一人が、いきなり他の人のクラスを聞いてきた。どうせ自分のクラスの凄さを自慢したいんだろう。 
 その後不良グループの一人一人がクラスを聞きに回った。

(おいおいおい、不味いぞ、おい!)

 そんななか僕は一人焦ってた。僕のクラスを聞いたら、あいつらは僕に何をするか分からない。ここは嘘をついて、乗り切ろう。

「おい、クズ。お前のクラスは何だ。」

「ぼ、僕のクラスは《錬成士》だよ。」

 ふぅ、これで何とか乗り切れた。あとはこいつらから距離をとって一人隅にでもいよう。

「嘘ですよね。それ。」

 その場に一人の女子が現れ、僕の嘘を瞬時に見抜いた。

(えっ、なんでバレたんだ。まさか鑑定スキルを使ったのか。)

 なぜバレたのかは分からないが、とりあえずここは、落ち着いて対処しよう。

「な、何を言ってるんだい。僕は別に嘘をついては…」

「瞳、手の動き、体の動作等々、嘘をついてる証拠よ。」

 ヤバい。よく考えたら相手は【詐欺の女王】山川礼(やまかわ れい)だ。嘘ついても意味がない。
 彼女の名前は山川礼、またの名を【強欲の女王】、【詐欺の女王】と呼ばれている。
 黒髪ロングヘアーで顔立ちも綺麗な美少女だが、性格は最悪で強欲。お金に目がなく、そのためだったらどんなに卑劣な手段も使う女子だ。
 また、嘘をつくのが当たり前で、嘘を見抜くのも得意だ。まさに今の状況じゃ最悪の相手だ。

「おいテメー!俺に嘘つくとはいい度胸だなゴラッ!!」

 磐上が胸ぐら掴んでマジギレしてきた。うるさいし、唾散ってるし、怖いというより気色悪い。

「じ、実は僕、クラスが《魔術師》で、余り目立たないようにと思って、つい。」

「嘘ですね。」

 クソ!やはり無駄か。万事休すじゃないか。いったいどうすれば。

「その人のクラスは《ひきこもり》です。」

 何とクラスを授けた人がバラしてしまった。

(なんてことをしてくれてんだ、この人は!)

「ち、ちょっと、勝手な嘘言わないでくれます!」

「この人の言ったことは嘘ではないですね。」

 最悪だ。史上最悪の結果だ。嘘を見破られ、人の言われたくないクラスをばらされ、そして現在、不良グループにぼこぼこにされている。

「おらっ、ゴミクズ。おまえはとっとと消えやがれ!」

「生きてるだけの無能が!」

「《ひきこもり》ってマジ意味わかんねwww」

「アハハ、○ミ掃除は楽しいですねwww」

「俺たち偉いなwww」

 だんだんと意識が遠退いていく。

「(ああ、力が……欲しい……、みん……な……み……たい……な……)」
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