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第一章・学園編

第三話

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「はぁ、今日も課題のレポート作成で山に来たけど、退屈だな。」

 一晩明かし、今日もレポートの作成に取り掛かる。レポートは今のところ三分のニくらいはできている。しかしながら、モンスターの生態レポートは、その時の山の状況なども細かく記入するため、正直言って面倒臭い。

グー

 腹の虫が鳴った。
 昨日はモンスターを二体倒してお金が手に入ったものの、今日の朝食はいつも通りの質素な食事だった。

「今日の食事はいつものパンとスープだけだったし、どこか手頃な獲物とかいないかな。」

 そうして場所を移動して山の中を探索する。山の中なら山の幸が採れるし、ウサギとかの肉になる生き物もいる。

「ここ最近肉食べてないから食べたいな。」

 そうして山の中を歩いていると、10時の方向から人の声が聞こえる。

「ん?…なにか言い争ってる感じだな。」

 気になって声がする方向へ向かう。進んでいくと開けた場所があって、そこには学生たちが言い争っていた。

「だからやめといたほうがいいって!何度も言わせるなよ。」

「黙れ!貴様ら平民どもが命令するな。」

「これは私たちの獲物です。さては私たちからこれを盗もうと。」

「そんなことするか!とにかくもとあった場所に返したほうがいい。」

 なんか修羅場っぽい感じがする。

(…面倒くさそうだし、ここは退散しよう。)

 僕は『隠密』の気配遮断サイン・ブロック忍び足ステルス・ステップでその場を立ち去ろうとする。

「おい、そこで何をしている!」

 その場から立ち去ろうとした途端、先ほどから偉そうな態度の男子生徒がこっち目掛けて言ってきた。
 僕がいるのを見抜いたののには、相手が魔術士だからだろう。魔術士は魔力感知を持ってるため魔力に反応する。正直面倒だ。
 『魔力隠蔽』の技能アーツがあればなんとかなるが、まだ会得してない。 

「…なんかうるさかったから来ただけ。一体何を争ってるの。」

 僕は観念して姿を現す。面倒なことに巻き込まれてしまったものだ。

「…貴様は欠陥だな。貴様こそここでなにをしていた。」

 男子生徒がこっちに剣先を向けて聞いてきた。危ないから剣をこっちに向けないでほしい。

「課題のレポートの作成でここに来てたんだよ。それでなんかうるさかったから、気になって声のする方に向かったら君たちがいたんだ。」

 それで今いかにも面倒臭い場面に陥ってるわけだが。

「それじゃあ僕はレポート作成に戻るんで、それじゃ。」

 このまま絡まれるのは嫌だしさっさとこの場を去ろう。

「おい、なに立ち去ろうとしてるんだ。」

「いや別に僕無関係たよね。勝手に絡まないでくれよ。」

 偉そうな奴に腕を掴まれたが、僕はその手を振り払う。とっととこの場から立ち去りたい。

「先ほどから偉そうな態度を取りおって。私を誰か分かっておいての狼藉か。」

 偉そうって、そっちが僕より数倍偉そうな態度なんだが。

「いつも僕のことを欠陥欠陥と、いちいち嫌味な感じに言ってくるやつになんで礼儀をしなきゃならないんだ。」

 嫌味なことを言ってくるやつや暴言暴動をしてくるやつに礼儀をする必要はないと僕は思ってる。向こうがこちらに礼儀をするのならば僕も礼儀をするけど。

「それで、一体なにを争っていたの?」

 話がずれたが、彼らは一体何で争っていたのだろう。さきほど、ダメだとかやめとけと言ってた男性生徒に聞く。
 偉そうな奴は聞いてもどうせ聞く耳ないし他の人に聞くことにした。

「あぁ、まずはこれを見てくれ。」

 そう言って彼は指先をあるものの方へ指す。
 そこにあったのは大きさが50センチくらいの卵で、黄色の様に見えたがよく見ると金色のようだ。

「金色の卵とは珍しいな、これがどうかしたの?」

「そこにいる彼らがモンスターの巣から持ってきたものらしいんだ。親がいなかったらそのまま持ってきたらしくて。」

「な、なんだって‼︎」

 モンスターの巣から卵を持ってくるなんて。この卵を運んだコイツら、なんてことしてんだ。

「おい、自分達が何をしたか分かってるのか。」

「貴様、お前まで私たちに無礼をするか!」

 そう言って偉そうなやつ含めその他の取り巻きそうな奴らが僕目掛けて剣先を向けてきた。

「馬鹿なこと言ってる場合か!モンスターの卵を盗んだら何が起きると思ってるんだ。親のモンスターがお前たちを追いかけて卵を奪い返しにくるかもしれないんだぞ。」

 普通、モンスターの卵を人間が孵化させると、生まれたモンスターを人間が使役することができる。
 ただそれ以前に、モンスターの卵を手に入れるには条件がある。
 一つは親であるモンスターを倒して卵を奪うこと。
 もう一つは販売されてる卵を購入すること。
 後者の場合、卵を手に入れるにはそれなりのお金を払う必要があるが、前者は奪って自分のものにするためお金を払わなくて済む。
 しかし、もし親が生きていたとしたらどうだ。親は卵を、我が子を奪われたことに怒り盗んだ奴の匂いを探して奪い返しにくる可能性がある。

「ちなみにだけど、これはなんのモンスターの卵?上級モンスターの場合、孵化できても使役するのは大変だし、できないこともあるぞ。」

 中級のモンスターであればまだ一般の調教師でも使役させることができる。
 しかしそれ以上の上級モンスターの場合、複数の調教師で使役させる必要がある。あと、前に本で知ったことだがS級のモンスターを使役させた記録はほとんどない。S級の冒険者や英雄、もしくは勇者でもない限り使役は不可能だ。

「そんなの知らん。仮に使役できなければ売り飛ばすだけだ。」

 なんてやつだ。使役できなきゃ売り飛ばすって、とんだ理不尽な貴族様だな。

「…ちなみにだけど、魔力痕跡は消しておいたか?」

「なに?」

「魔力痕跡だよ。もしこの卵の親が上級モンスターだったら、匂いや足跡の痕跡を消したとしても魔力の痕跡で追いかけてくる。」

 魔力痕跡とは、魔力を持つものが移動した時に残す痕跡のことだ。謂わば足跡のようなものだ。
 足跡を残さず匂い消しで痕跡を残さないようにすれば、低級のモンスターは追いかけてこないし、魔力痕跡を残したとしてもそれを辿るのは難しい。しかし上級モンスターだと魔力痕跡を残してたらそれを辿って追いかけてくる。

「そんなの習ってないぞ。」

「私もですわ。」

 つまり魔力痕跡を残して盗んだわけだ。
 でも彼らが魔力痕跡のことを知らないのは仕方ないといえば仕方ないのかもな。
 魔力痕跡のことで覚える難易度は、冒険者でいうところのC級くらいだ。勿論その痕跡の消し方も含めてだ。
 しかしここにいる学生はまだD級辺りだ。魔力痕跡の消し方を習ってないのも仕方ない。

「ちょっと待て…それじゃあここに集まってる俺たちもコイツらと共犯にならないか。」

 確かに、この卵の周りには僕たちがいる。つまり僕たちは卵を盗んだ共犯者となる。
 …僕もそうなるわけだ。だから面倒なことには関わりたくなかったのに!

「とにかく、急いでここから離れたほうがいい!相手が本当に上級モンスターだったら僕らに勝ち目はない。」

 僕はそう言って真っ先にその場を立ち去り学園を目指す。

「よしみんな、急いで学園まで戻るぞ!」

 僕以外の人たちも急いで学園へ向かって走り出す。

「おい、なに貴様らだけ逃げようとしてる。」

「私たちを守りなさい。」

 すると後ろから卵を盗んだ奴らが僕たち目掛けて走ってきた。

「ふざけるな!そっちが元凶だろうが‼︎」

「俺たちを、待ちこむんじゃねぇーーー‼︎」

 今のところ学園まで距離がまだあるものの、このペースだと数十分くらいで着くはずだ。
 後ろから偉そうでうざい生徒たちがついてくる中、その中の一人が卵を抱えながら走ってるのを目にする。

「おい、なんで卵を運んでんだよ!」

「折角の獲物を捨てるなんてできるか‼︎このまま学園へ持って帰る!」

(おいおい、流石にここまで馬鹿だとは思ってもなかったぞ。)

 まだ親が生きているか上級モンスターであるかは分からないものの、金色の卵となるとすごく希少なモンスターであると予感がする。売れば大金になるはずだ。
 だがしかし、金銭目的に囚われすぎて他のことなんて構わないなんて考えはいけない。

「死にたくなかったらさっさと元あった場所に返して来いよ!これ以上迷惑をかけるな‼︎」

「…そうだな。確かにこれは危険だ。」

 すると卵を抱えていた男子生徒が凄い速さで僕の隣まで迫ってきた。なんて素早さだ。
 すると、何故か身体から力が急に出てこなくなり、走ってる途中に転んでしまった。

「なっ、…んだ…こ、れ…」

 身体が思うように動かない。力もうまく入らず、立ち上がることができない。

「お、おい!」

「どけ!さっさと前に進まないか‼︎」

 僕の後ろを走ってた生徒たちと偉そうな奴らがそのまま学園目掛けて走っていく。

「悪いが、保険として死んでくれ。」

 僕になにかしてきた学生が僕の側に卵を置き、その場から去った。

(これは…筋弛緩薬か。それも強力なやつ。くそっ!)

 体を動かそうにもピクピク動くのが精一杯で、立つことも碌にできない。
 こんなことなら耐性レジスト系のスキルを会得しておくべきだったか。

ケーーン

 どこからか甲高い鳥の鳴き声がする。今までで聞いた鳥の鳴き声の中で聞いたこともない声で、それもかなり大きい鳴き声だった。

(…‼︎⁉︎なにか、来る‼︎)

 今まで感じたことのない強力な気配がする。位置は先程までいた開けた場所より遠くの方だ。
 まさか、上級モンスターか!

(まさか親じゃないよな。もしそうだったら、間違いなく僕が卵を盗んだと誤解される。)

 僕の側には卵がある。こんなところを見つけられたら間違いなく僕が盗人に見られる。

(くそっ、早く動かなきゃなのに。どんだけ強力なやつを打ち込みやがったんだ!)

 動きたいのは山々だがまだ筋弛緩薬が効いてて動けない。

ビュウーーー

 突如として強風が吹き荒れる。なにか災いの前触れのような気がする。

「う、あ…」

 なんだか意識がうっすらとしてきた。まさか…毒なのでは!

(最悪だ。筋弛緩薬と毒のコンボとかありかよ…)

 そうやって未だに動けないまま倒れてると、強い気配が凄い速さで近づいてくる。

「や、…ば…」

バサッ、バサッ

 強い気配が上から感じ、上空から羽根がはばたく音が聞こえる。頭が上がらないため、姿を見ることができない。

(…これは、もうダメか。)

 自分の命がここまでだと感じる。
 予想だが、今から僕は上空にいる鳥型モンスターに食い殺される。世の中が弱肉強食であるから、今の僕は絶好の的だ。

ゴォーーーーー

 上空から炎が燃えるような音が聞こえてくる。モンスターが使う技だろうか。
 そういえば、鳥型で火の属性の持つモンスターを以前本で見たことがある。なんでこんなことを思い出すのだろうか。まさか死に間際での走馬灯がこんなのとは。
 確かそのモンスターはS級で、身体の全てが炎でできている。そしてその名前はーーー

ゴウゥゥゥゥゥゥゥン‼︎‼︎‼︎

 そうして大きな場発音と共に、僕の意識は一瞬にしてなくなった。
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