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狼伯爵の花嫁 第五話
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「で、結局ここどこなんですかね?」
夕食に出されたパンをむしゃむしゃと頬張りながら、紅牙は俺に質問を投げかけた。
「さあ、どこなんだろうな、ここ」
と、俺は曖昧に答えた。
現在、俺達は夕食を食べながら、今の状況について話し合いをしていた。
とりあえず分かっていることをまとめると、俺たちは人身売買のオークションに出品する商品としてさらわれたらしい。さらうと聞いて、最初はマフィアか何かによる誘拐か何かだと思っていたが、どうやら違うらしい。あの熊達の話によると、今度行われるオークションで、目玉になる商品を探していていたところ、偶然珍しい髪色をした人間を発見。これは目玉になると思い、下校中に誘拐、その時一緒にいた人間もついでにさらったとの事だ。
そして今、俺たちはそのオークションの会場に向けて運ばれているらしい。しかも、明日にはもう着くという話だ。
ここにつく前に、二度ほど脱出できる瞬間はあった。検問所を通った時と、馬車のカギがあけっぱなになっていた時だ。
だが、検問所を通った時は、事前に俺と紅牙をスタンガンのようなもので気絶させ、縄で拘束し、香辛料の詰まった木箱に押し込み検問を抜けた。偶然検問中に目を覚ました俺は、どうにかして助けを求めようとしたが、失敗。偶然箱に空いていた小さな穴から、荷物を確認していた犬獣人(なぜか中世ヨーロッパの兵士のような服装をしていた)と目が合った気がしたが、結局それだけだった。
鍵が開いていた時は、そもそも鍵が開いているということ自体が罠で、俺を捕まえるときに手をかまれたという熊獣人が復讐にと仕組んだことだった。
森の中を歩くことに慣れていない素人二人が逃げたとしても、すぐに捕まるだろうというのが奴らの見立てだった。
その予想は見事に的中し、俺たちは同じところをグルグル回った末、疲れ果てたところを待ち伏せされ捕まった。
その時の仕置きは特にひどく、二人ともひどく痛めつけられ、それが終われば今度は獣人たちの前で自慰を強要させられ、挙句の果てに服従の証にと、獣人たち全員の足にキスをさせられた。
自慰を強制させられたのにはかなり堪え、全て諦めてしまおうとも考えたが、二人で一緒に帰りたいという思いと、紅牙の、あなたが折れない限り、おれも諦めない、だから頑張りましょう、という声が、俺の心を踏みとどまらせてくれた。これには、感謝してもしきれない。
「……結局、分からないことだらけですね……」
「……あぁ、そうだな」
紅牙の言う通りだった。さも分かったかのように情報を並べてみたが、結局はそうなのだ。自分たちがいる場所も、向かっている所も、売られた後も、さらったやつらの事も、獣人たちの事も全て、分からないのだ。
「……おれたち、どうなるんでしょうね……」
「……さぁな、俺にも分らん。ただ、一つだけ言えるのは……」
「のは?」
「このままじゃろくな目に合わない、ってこと」
それだけ、と言うと、俺は床の上にゴロリと寝転がった。
食事中に寝るのはマナー違反だが、そんなのは気にしてられなかった。
「こらこら林さん、食事中に寝るのは行儀悪いですよ」
「うるせー、そんなの気にしてられかっよ」
注意する紅牙に俺はそう返した。
「……はぁ、まったく、仕方無いですね」
今回だけですよ。と紅牙は放っておくことにしたのか、スープを一口飲み、うっ、と顔をしかめた。
「どうした、紅牙?」
「いや、このスープ、いつもより味濃くないですか?」
「へぇ、どれどれ……」
顔をしかめる紅牙に、どれどれと体を起こすと、スープを一口含み、紅牙と同じように顔をしかめた。
これは濃い、ここに入ってからはずっと味の薄いスープばかり飲んでいたせいか、余計にそう感じる。
だが、こんなスープでも飲むしかないだろう、貴重な食糧なのだから。
それに、明日にはオークションの会場に着く。その荷馬車から出されるであろうその時に、二人で逃げ出そうと考えているからだ。
うまくいくかは分からない。正直うまくいく確率は、一割にも満たないであろう。罠にかけられたときのこともある。けれど、それでも今はこれに賭けるしかないのだ。たとえ、どんなに危険であろうと……。
ポスッ。
「……ん?」
肩に何か当たった感触がして、ふと見てみると、そこには器を持ったまますやすやと眠る紅牙の姿があった。
「……っ、ふふっ」
その穏やかな寝姿に思わず笑みがこぼれる。
この寝顔だけでも、向こうに返してやらないとな……。
たとえ、自分のに変えてでも__。
そんなことを考えながら、俺はゆっくりとやってくる眠気の波に身を任せ、二人より添いながら眠りについた。
夕食に出されたパンをむしゃむしゃと頬張りながら、紅牙は俺に質問を投げかけた。
「さあ、どこなんだろうな、ここ」
と、俺は曖昧に答えた。
現在、俺達は夕食を食べながら、今の状況について話し合いをしていた。
とりあえず分かっていることをまとめると、俺たちは人身売買のオークションに出品する商品としてさらわれたらしい。さらうと聞いて、最初はマフィアか何かによる誘拐か何かだと思っていたが、どうやら違うらしい。あの熊達の話によると、今度行われるオークションで、目玉になる商品を探していていたところ、偶然珍しい髪色をした人間を発見。これは目玉になると思い、下校中に誘拐、その時一緒にいた人間もついでにさらったとの事だ。
そして今、俺たちはそのオークションの会場に向けて運ばれているらしい。しかも、明日にはもう着くという話だ。
ここにつく前に、二度ほど脱出できる瞬間はあった。検問所を通った時と、馬車のカギがあけっぱなになっていた時だ。
だが、検問所を通った時は、事前に俺と紅牙をスタンガンのようなもので気絶させ、縄で拘束し、香辛料の詰まった木箱に押し込み検問を抜けた。偶然検問中に目を覚ました俺は、どうにかして助けを求めようとしたが、失敗。偶然箱に空いていた小さな穴から、荷物を確認していた犬獣人(なぜか中世ヨーロッパの兵士のような服装をしていた)と目が合った気がしたが、結局それだけだった。
鍵が開いていた時は、そもそも鍵が開いているということ自体が罠で、俺を捕まえるときに手をかまれたという熊獣人が復讐にと仕組んだことだった。
森の中を歩くことに慣れていない素人二人が逃げたとしても、すぐに捕まるだろうというのが奴らの見立てだった。
その予想は見事に的中し、俺たちは同じところをグルグル回った末、疲れ果てたところを待ち伏せされ捕まった。
その時の仕置きは特にひどく、二人ともひどく痛めつけられ、それが終われば今度は獣人たちの前で自慰を強要させられ、挙句の果てに服従の証にと、獣人たち全員の足にキスをさせられた。
自慰を強制させられたのにはかなり堪え、全て諦めてしまおうとも考えたが、二人で一緒に帰りたいという思いと、紅牙の、あなたが折れない限り、おれも諦めない、だから頑張りましょう、という声が、俺の心を踏みとどまらせてくれた。これには、感謝してもしきれない。
「……結局、分からないことだらけですね……」
「……あぁ、そうだな」
紅牙の言う通りだった。さも分かったかのように情報を並べてみたが、結局はそうなのだ。自分たちがいる場所も、向かっている所も、売られた後も、さらったやつらの事も、獣人たちの事も全て、分からないのだ。
「……おれたち、どうなるんでしょうね……」
「……さぁな、俺にも分らん。ただ、一つだけ言えるのは……」
「のは?」
「このままじゃろくな目に合わない、ってこと」
それだけ、と言うと、俺は床の上にゴロリと寝転がった。
食事中に寝るのはマナー違反だが、そんなのは気にしてられなかった。
「こらこら林さん、食事中に寝るのは行儀悪いですよ」
「うるせー、そんなの気にしてられかっよ」
注意する紅牙に俺はそう返した。
「……はぁ、まったく、仕方無いですね」
今回だけですよ。と紅牙は放っておくことにしたのか、スープを一口飲み、うっ、と顔をしかめた。
「どうした、紅牙?」
「いや、このスープ、いつもより味濃くないですか?」
「へぇ、どれどれ……」
顔をしかめる紅牙に、どれどれと体を起こすと、スープを一口含み、紅牙と同じように顔をしかめた。
これは濃い、ここに入ってからはずっと味の薄いスープばかり飲んでいたせいか、余計にそう感じる。
だが、こんなスープでも飲むしかないだろう、貴重な食糧なのだから。
それに、明日にはオークションの会場に着く。その荷馬車から出されるであろうその時に、二人で逃げ出そうと考えているからだ。
うまくいくかは分からない。正直うまくいく確率は、一割にも満たないであろう。罠にかけられたときのこともある。けれど、それでも今はこれに賭けるしかないのだ。たとえ、どんなに危険であろうと……。
ポスッ。
「……ん?」
肩に何か当たった感触がして、ふと見てみると、そこには器を持ったまますやすやと眠る紅牙の姿があった。
「……っ、ふふっ」
その穏やかな寝姿に思わず笑みがこぼれる。
この寝顔だけでも、向こうに返してやらないとな……。
たとえ、自分のに変えてでも__。
そんなことを考えながら、俺はゆっくりとやってくる眠気の波に身を任せ、二人より添いながら眠りについた。
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