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第一話
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(ふふふ……我々の長い地下活動も今日で終わる。これから我々がこの世界を乗っ取り、そして、あんなことやこんなことも……)
「くく……くふ……くふふうふ……ひひっ」
物々しい装いの女が肩を震わせた。
彼女の戴く厳つい丸帽子には、風変わりな帽章が付けられている。
放射状に広がる線の中心に、甲殻類のような奇妙な姿の生き物が据え置かれたそれこそ、【秘密結社カムロキ】のシンボルマークに他ならない。
しばらくの間、彼女は帽子の鍔に手を添えて機嫌良さげに身をくねらせていた。
(はっ……いけない。冷静にならねば)
「ん゛ん゛んっ……では、これより我々は作戦の第一段階に入る。いいな」
号令が静まり返った部屋に響く。
と、辺りが激しく揺れ動きはじめ、轟々たる響きを鳴らす。
部屋は縦にも横にも強く揺れ、そのまま潰れてしまうのではないかという衝撃が起こった。彼方此方からミシリミシリと音が鳴っても、部屋の主である女は腕を組んで――時折ベキャリと響く、壁が拉げたような物音には、ぎゅっと体を縮ませて、腕組みというより両腕で自分の身体を抱くような姿勢をとっていたのだが――まるで涼しい顔だ。
「『自律式移動城・常世』現在、議事堂方面ニ進行中。議事堂方面ニ進行中。地下約六十メートル状態ヲ維持……」
ここは、秘密結社カムロキの根城。
日本の大深度地下に潜んでいた常世という名の巨大な城が移動を始める。
神州日の本復古せんと機会を窺い、神州本来の種族を蘇らせ、また現代に眠るそれらの類縁達の覚醒を企む集団の大本。
やがては、原初の【迦微】による世界支配という夢想をも抱く、そんな秘密結社がとうとう世界征服計画の実行に踏み切ったのだった。
「現在、地下約五十メートル。議事堂方面ニ進行中。議事堂方面ニ進行中……」
揺れが続く中、抑揚のない中性的な機械音声だけが響き続けている。
「議事堂方面ニ進行中。議事堂方面ニ進行チュ」
突如、ブツリと機械音声が途切れた。
ゆっくりと地下を移動していた城が動きを止めたらしく、それまでの振動とは質の異なる揺れが部屋を襲った。佇んでいた女は、慣性により、まるで突き飛ばされたかのようによろめくと、そのまま床へと叩きつけられる。
しばらく呻き声を上げていた彼女だったが、やがて蹲って動かなくなった。
静まり返る部屋の中、壁に備え付けられた数多くの液晶モニターの一つが明かりをともす。画面の先には、未だ蹲っている彼女と似たような服装の少女が画面に映し出された。
「長官殿、少々報告があるんですが……大丈夫ですか?」
「こちらは全く問題ない」
長官と呼ばれた女はそのままの姿勢で答えた。
「なら良いですが。ところで、大分、市街地方面にやって来たわけなんですけど、不思議なことに周囲にまるで地下構造物がないんですよね」
「……そうか」
「ええ。そろそろ防災施設の巨大放水路や地下商業施設なんかが確認できるかと思い、先行偵察機を遣ったんですけども。地下施設はまるでないうえ、先程地上まで出た偵察機からこんなものが送られてきましてね」
画面上に一枚の画像が表示される。
それは、森林が鬱蒼と広がるだけの景色だった。まるで富士の樹海で撮影したかのような写真に続けて、一つの映像が立ち上げられた。
森の中、二足歩行をする奇妙な獣が奇声を上げながら駆け寄ってくる。そして手に持った槌とも斧とも似たある種の道具を振りかぶると、それを勢い良くこちらへと叩きつけたようだった。
映像は一瞬乱れると、すっかり止まって真っ暗になった。
「くく……くふ……くふふうふ……ひひっ」
物々しい装いの女が肩を震わせた。
彼女の戴く厳つい丸帽子には、風変わりな帽章が付けられている。
放射状に広がる線の中心に、甲殻類のような奇妙な姿の生き物が据え置かれたそれこそ、【秘密結社カムロキ】のシンボルマークに他ならない。
しばらくの間、彼女は帽子の鍔に手を添えて機嫌良さげに身をくねらせていた。
(はっ……いけない。冷静にならねば)
「ん゛ん゛んっ……では、これより我々は作戦の第一段階に入る。いいな」
号令が静まり返った部屋に響く。
と、辺りが激しく揺れ動きはじめ、轟々たる響きを鳴らす。
部屋は縦にも横にも強く揺れ、そのまま潰れてしまうのではないかという衝撃が起こった。彼方此方からミシリミシリと音が鳴っても、部屋の主である女は腕を組んで――時折ベキャリと響く、壁が拉げたような物音には、ぎゅっと体を縮ませて、腕組みというより両腕で自分の身体を抱くような姿勢をとっていたのだが――まるで涼しい顔だ。
「『自律式移動城・常世』現在、議事堂方面ニ進行中。議事堂方面ニ進行中。地下約六十メートル状態ヲ維持……」
ここは、秘密結社カムロキの根城。
日本の大深度地下に潜んでいた常世という名の巨大な城が移動を始める。
神州日の本復古せんと機会を窺い、神州本来の種族を蘇らせ、また現代に眠るそれらの類縁達の覚醒を企む集団の大本。
やがては、原初の【迦微】による世界支配という夢想をも抱く、そんな秘密結社がとうとう世界征服計画の実行に踏み切ったのだった。
「現在、地下約五十メートル。議事堂方面ニ進行中。議事堂方面ニ進行中……」
揺れが続く中、抑揚のない中性的な機械音声だけが響き続けている。
「議事堂方面ニ進行中。議事堂方面ニ進行チュ」
突如、ブツリと機械音声が途切れた。
ゆっくりと地下を移動していた城が動きを止めたらしく、それまでの振動とは質の異なる揺れが部屋を襲った。佇んでいた女は、慣性により、まるで突き飛ばされたかのようによろめくと、そのまま床へと叩きつけられる。
しばらく呻き声を上げていた彼女だったが、やがて蹲って動かなくなった。
静まり返る部屋の中、壁に備え付けられた数多くの液晶モニターの一つが明かりをともす。画面の先には、未だ蹲っている彼女と似たような服装の少女が画面に映し出された。
「長官殿、少々報告があるんですが……大丈夫ですか?」
「こちらは全く問題ない」
長官と呼ばれた女はそのままの姿勢で答えた。
「なら良いですが。ところで、大分、市街地方面にやって来たわけなんですけど、不思議なことに周囲にまるで地下構造物がないんですよね」
「……そうか」
「ええ。そろそろ防災施設の巨大放水路や地下商業施設なんかが確認できるかと思い、先行偵察機を遣ったんですけども。地下施設はまるでないうえ、先程地上まで出た偵察機からこんなものが送られてきましてね」
画面上に一枚の画像が表示される。
それは、森林が鬱蒼と広がるだけの景色だった。まるで富士の樹海で撮影したかのような写真に続けて、一つの映像が立ち上げられた。
森の中、二足歩行をする奇妙な獣が奇声を上げながら駆け寄ってくる。そして手に持った槌とも斧とも似たある種の道具を振りかぶると、それを勢い良くこちらへと叩きつけたようだった。
映像は一瞬乱れると、すっかり止まって真っ暗になった。
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