秘密結社ニヨル世界征服活動

uji-na

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第二話

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「何ですかね……これ」
 やや気の抜けたような、そんな一声で話し合いは始まった。
 会議室に集まった幹部達は長官ちょうかんを含めて三人。
 皆、見目麗しい女人ではあったが、それぞれが奇妙な衣服をまとった姿でもって顔を合わせている光景は、彼女達の美しさよりもカムロキという組織の者達の異様さを引き立てている。
 その異様な者達が眺める巨大モニターの画面には、これまた異様な生き物の静止画が映し出されていた。
「不法滞在者の子供といったところでしょうか?」
 幹部の一人である次官じかんは、表情をピクリとも動かさずに呟く。それに、今度は佐官さかんがやや粗暴ともとれる口調で続けた。
「だとしても、なんでこんな森の中に毛唐けとうの餓鬼がいるんだ。そもそも、私らは市街地に向かっていたんじゃないのか?」
 佐官の疑問の声に、静止画を映す巨大モニターとはまた別の小さいモニターから返答があった。小さなモニターには、長官に此度こたびの異変の報告を行った少女が映し出されている。彼女は史生しせいという雑用を行う事務官であった。
「はい。しかしながら、偵察機からの情報ですと地表部はかなり巨大な森林部であって、都市部の公園や雑木林の映像というわけでもないようですよ。現在地についてと映像の謎の生物については現在調査中ですが、今回の計画実行において地表に先行していた判官はんがん殿とは現在連絡が取れておりません……」
「ハア!? あの野郎、昨日私にコンビニの飯が旨いのどうのってどーでもいい連絡寄こしておいて、計画当日にサボタージュかますのかよ」
 佐官は全身から力を抜くと、椅子の背もたれにどっと身を預けた。
「……で、詳しくは調査を待つとして、私らはこのまま待機かよ。長官殿」
 佐官は全身脱力状態のようで声も間延びしている。そんな佐官に、長官も自分の椅子の背もたれに寄り掛かった。
「ここは我らが結社の本元でもある。現状はこのまま地下で待機が良いだろうな」
「だよなぁ……」
 世界征服計画が第一歩から躓く形になったことで、彼女達の間に流れる空気は明るいものではなかった。そこで史生の少女が暇を持て余す幹部達に提案を出す。
「……あ、偵察機の映像をリアルタイムで映すことも出来ますけど。確認されますか?」
「お、面白そうだな。常世とこよの自律機能がどうしくじったか興味あるわ。移動先がアマゾンのど真ん中とかなら笑えるよな」
「佐官殿、これは遊びではないのですよ」
 軽口を叩く佐官に、それをたしなめる次官。 
 長官は何も言わず、小モニター先の史生へと手の仕草だけで映像確認に入るよううながすのだった。すると、それまで静止画を映していただけの巨大モニターにいくつかの映像が映し出される。どの映像もひたすら森林が広がっていく様子が続くだけだ。
「おー、ほんとにどっかの秘境にでも出ちまったんじゃないのかね」
 人の手などまるで入っていない原生林のような場所は秘密結社カムロキの目的地ではない。世界征服計画の第一段階は、日本の中枢の掌握しょうあく。まずは議事堂の占拠のため市街地へ向けた移動であった。
 しかし、モニターに映るのは、立ち並ぶ大木に地面や岩を覆いつくす程の苔ばかり。
「……あれ、何かの足跡ではないですか?」
 次官が、一つの映像の中に、苔むす地面に連続する足形のような模様があることに気が付いた。偵察機に指示を出し地面に寄ると、確かに生き物の足跡らしかった。
 しばらくは、そのまま地面を映していた偵察機だったが、いきなり映像が砂嵐のように乱れるとモニター画面が暗転。これには彼女達も愕然がくぜんとモニター画面を見つめるばかりだった。
 すぐに別機体が現場へと向かい、同じ場所の映像が流れるが、そこには破壊された偵察機に複数の何者かが、ゆっくりと集まっていくところであった。
 その者達は最初の報告の映像にあった異様な生き物の姿と全く同じ存在である。
 彼らの醜く薄汚れた姿からは知性などまるで感じられない。しかし、申し訳程度に身に着けられたボロボロの腰蓑に、おそらく武器とみられる道具の所持。そして、複数人で意思疎通を図りながら行動している様子から考えるに、何らかの価値観や観念自体は持っている集団のように感じられた。
「どこの土人だ?」
 佐官が小さく呟いた。
 次官は首を傾げ、黙り込んだまま画面を見つめる。
「どうしましょうか。もう二機目ですし、これ以上偵察機が破壊されるのは避けたいのですが……」
 モニターからそんな姿勢の泣き言が聞こえるも、長官は落ち着き払った様子で言った。
「問題ない。丁度良い策がある」
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