恐ろしき魔女とやさしい物の怪

uji-na

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第四話

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 安酒場でエレナとユノハラが、魔女の城の調査依頼についての件でやり取りをした夜から数日後のこと。
 エレナの説得もあり、一度は依頼を受けるのを止めようと考え直したユノハラだったが、結局のところ彼らは依頼を受け、城内へと潜入していたのであった。
 理由は簡単、彼らのやり取りを盗み聞きしていた同業者の連中から、「臆病風に吹かれて、せっかくのもうけ話をふいにする愚か者だ」と言われたユノハラが、鼻息荒く依頼を受けてしまったからだ。たったそれだけのこと。
 そんな相棒の短絡的な行動に巻き込まれた形で、エレナも魔女の城の調査依頼を受けることになったが、それはそれとして依頼料で懐が潤ったこと自体は彼女にとっても喜ばしいことだった。

「でも、見つけた宝の分け前は私の方が多めに貰うからね」

「それはいいけど……本当に良かったのか? 俺が勢いで依頼を受けたんだしエレナは来なくてもよかったんじゃ」

 後に冷静になり、気落ちして今日まで謝り倒しで元気のないユノハラの背中を軽くパンとエレナは叩いた。

「何年あんたの相方やってると思ってるの。もう慣れてるから別にいいよ」

 それに、と懐から彼女は事前に用意していた道具を取り出す。

「いざとなったら、道具屋で手に入れたこの転移の指輪があるからね。パーッと城の外までひとっ飛びよ」

「……その指輪って、胡散臭い行商人のおっさんから買ったやつだろ。ほんとに大丈夫なのかよ……騙されてない?」

 妙なところで細かいことを気にするユノハラに対して、エレナは「大丈夫だ」と自信満々に答えた。
 しんと静まり返った廊下に、二人の足音が響く。

「……そんなことより、うかうかしてたら、めぼしいもの他の人に根こそぎ取られちゃうんじゃない?」

 依頼の参加者は、各地の冒険者組合から人が集められたらしくかなりの人数であった。 
 今頃は巨大な城のあちこちを冒険者たちが探っている最中である。城の外では国から派遣された最低限の数の、魔女の城の管理員や、護衛の兵士が待機している。
 彼女たちはと言うと、ユノハラが大物狙いであるため、城の出入り口からかなり進んだところまでやって来ていた。
 二人が廊下を進んでいくと、突き当たりの立派な扉に行きつく。

「他の奴らもここまでは来てないみたいだな。ここは魔女の私室の一つだとか言われてる場所だし、きっとすんごい宝があるに違いない」

 管理員や護衛兵から手渡された城の地図を片手にユノハラは軽口を叩いた。
 そして彼は足を使って、蹴破るように勢いよく扉を開けた。
 ユノハラが意気揚々と部屋に入り込んだのと同時に、奇妙な毛むくじゃらの塊がとてつもない勢いで飛び込んでくる。
 その塊の突撃をもろに腹部で受け止めてしまった彼は、たまらずその場に倒れ伏した。

「な、なんだ……っ!!」

 倒れた自身の腹の上に乗った、もぞもぞ動く毛むくじゃらの塊と見つめあい困惑していた彼だったが、部屋に先客がいることに気が付いて、今度は息が止まる程に驚愕する。
 笏杖を手にし、黒いドレスを身にまとった美しい女が立っている。古びた城の、埃だらけ魔女の私室に死人のように表情もない彼女の姿をユノハラは見た。
 彼は悲鳴のような声で辛うじて言葉を出すことができた。

「ま、魔女だぁ……ひいっ!!」

 棒立ちの先客にそんなことを言って、毛むくじゃらの塊を払い落すと、腰砕けのようになりつつもユノハラは這って逃げようとした。
 そんな彼の脳天に、エレナの一撃が撃ち込まれる。

「んぐっ!……エ、エレナなんで!? ま、魔女の魔法に操られてるのか!」

「そんなわけないでしょ。……あんたは、なーにを失礼なこと言ってんのよ」

 そう言って、彼女は「うちの馬鹿がごめんなさいね」と部屋の先客に対して謝罪した。
 自分たちが来るよりも前に先行していた冒険者なのだろうとエレナは落ち着きを取り戻しつつあったユノハラへと伝える。
 「よく確認しなさい」とエレナに促されてユノハラは先客を見た。
 確かに化け物の化身ではなさそうだし、むしろ姿形すがたかたちは美しい。

「いや、でも魔術師みたいな格好してデカイ杖持ってたら驚くだろ」

「……大体、魔女って悪龍王ダラアカの化身とか言われてたのよ。ダラアカって言ったら、人なんかそれこそ出会ったらひとたまりもない化け物よ? 初対面でそんな化け物の化身扱いされてる身にもなりなさいよ」

「……」

 エレナの言葉に、援護フォローされているはずの先客の冒険者らしき女は、何とも言えない複雑そうな表情を浮かべていた。

「っと、ごめんなさい。私はエレナ。こっちの馬鹿はユノハラ。アングレーの村を根城にしてる冒険者よ。それであなたは――」

「ガワタラ!」

「……え?」

 それまで部屋の端に居た毛むくじゃらが言葉を発して、エレナとユノハラは驚いて思わずそちらへと顔を向けた。
 毛むくじゃらの塊が彼女たちの方へと飛び跳ねながら寄ってくる。
 
「その人はガワタラ。モーはモーだよ」

「……喋るのっ!?」
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