【完結】瀧華国転生譚 ~処刑エンド回避のために幼い病弱皇子を手懐けようとしたら見事失敗した~

飛鳥えん

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二度目の対面(2)

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「神力ほど偉大なお力ではないので、占いが出来たり、ちょっとした怪我や病気を治したり、簡単な先見をしたり……そんな程度のものですが、中には何人も集まって操る塵の量を増やして、悪いことをしようとする奴らがいるのです」
蘇芳は言葉を切って、盃に入った液体に目を落とす。
家僕と花鶏の二人の視線も、つられたようにそちらへ向かった。
「少し前、城下で蟲よけの札と偽って、実際には家の者たちが病にかかるまじない札を売っている悪い奴らが捕まりました」
「……むし」
ひとり言のように、小さく花鶏がつぶやく。すぐにはっとして俯いてしまった。蘇芳からの攻撃を恐れるように。
「蟲というのは、昆虫のことではありません。殿下」
花鶏はまた驚いたように蘇芳を見上げた。
敵としか見ていたなかった男が、今日はやけに優しいし、はては教師のように花鶏の疑問を拾って教えようとまでしてくる。戸惑いが蘇芳にも伝わってくる。

「蟲というのは、まじないの中でも特定の相手を苦しめたり、凶兆を呼び込むための悪いものをそう呼ぶのです。
蟲術、というおそろしい方法が由来で……いえ、この話はまた今度」
こほん、と咳払いする。
「瀧華国寵姫譚」におけるこの手のエピソードを読むのが好きだったので、ついつい脱線しそうになってしまった。

「とにかく、そういう悪い奴らが、今城下町で民を苦しめています。その中の下っ端何人かが、捕史に捕まりました」

「蘇芳様、話が見えません。市井の捕り物と、何の関係があるのです?」
それまで黙っていた家僕が、ややいら立ったように口を挟んだ。

蘇芳はじろ、と家僕を肩越しに睨んだ。
「私は今殿下と話しているのだ。私の話を遮るは、殿下に対する無礼でもある。わかっているのか」
背後が静かになったので、蘇芳は驚いた様子の花鶏ともう一度目を合わせた。
少年は気づいていないようだったが、さっきから自然と目を合わせてくれるようになった。いい兆候だ。

「この蟲を防いで安全に暮らすために、行政は各家に『蟲札』を発行して年の初めと半年後に配ります。
まあ、使わずに済んで紙が古びて効力がなくなることが多いですね。滅多に蟲の被害などないので。
ーところが、今年に入って半ば、城下で何件か続いて蟲の被害がありました。どれも羽振りのいい商家や、貴族。
ちょうど2回目の配布前だったので、追加の注文が間に合わなくて、効力の弱くなった蟲札で凌いでいたのですが、そこに新しく強い蟲札をくれるといって、さっき言った悪い奴らが法外な値段で札を売りさばいていたのです」

買い手は裕福な商人や貴族だから、凶事が起こるよりは、家人が病気になるよりはと言い値で買った。

「殿下はこれをどう思われますか?」
花鶏はそんな風に質問されると思っていなかったのだろう。おどおどと目を泳がせていたが
「……いけないことだと思います。でも、勝手にまじないを作ったり、売ったりすることは法では禁じられてるわけじゃないから……?」
蘇芳はうなづいた。
「そうですね。確かに、我が国の法はそこまで厳しく取り締まってはいません。ではなぜ捕まったのかというと、その札が全く効力のない偽物だったからなのです」
「本物を作れないから、偽物を売ってお金をだまし取った?」
「いいえ。札は本物でした」
花鶏が訝しげに何か言おうとしたのを遮って、蘇芳ははっきり口にした。後ろにもよく聞こえるように。
「あれは蟲札ではなく、徳の高い人物を呪うめの呪殺の札です」
花鶏の目が大きく見開かれる。

瀧華国を含め、この世界の大陸には4つの国がある。
春夏秋冬をイメージしたと思われる国には異なる民族が暮らしているが、呼び名は違えど、国民は巫術……大気中の神気を帯びた塵を操るまじないの力を持っている。
と言っても、これは個人差がある能力であり、またいくら大きくとも皇族が生まれながらに持つ「神力」の足元にも及ばない。
所詮は塵なのだ。あってもなくても、そこまで生活に影響はないのである。

だが、一人の人間が操れる塵を集積できたならどうか。
まじないの力を寄せ集めて、大きな大きな塊にできはしまいか?
まさに、塵も積もればなんとやらだ。

だから4国すべての国では、国民に巫術の集団使用を禁じた。
同時に、巫術に基づいたあらゆる集団活動も禁じている。

例外的に許されているのが、行政と民間医療機関である。

蟲札程度なら、個人の力の範囲で何とか作ることができる。
しかし呪殺を目的とする札は、ひとりの巫術……いや、ある程度の人数がいなければ為せない。

数百人規模の巫術を集めなくては為せないはずだ。
しかし、今回捕まった者たちをどれだけ尋問しても、せいぜいが数十人程度の仲間の名前しか出てこない。

だから誰もが気づいていない。
これは国家転覆を狙った反逆行為の布石、いわば実験行為だということに。

(……て、ゲーム展開を見てきた俺だから知ってるだけなんだけど)

「今回、捕らわれた者たちの中に草見(そうけん)という男がいました。調べたところ、帆世はその男の遠縁にあたります」

ここにきて、やっと話がつながった。
少なくとも花鶏と後ろの男はそう思ったはずだ。
間違ってはいないが、蘇芳にとって帆世も草見も正直どうでもいい。
国家転覆にしても、言ってしまえばそっちも主人公たちに何とかしてもらえばいいと思っている。

「帆世がかかわっていると?まさかその徳の高い人物というのは殿下……」

言っておいて、自分でもおかしいと思ったらしい。いやまさか、というように花鶏を見る。

(ほんとに失礼だな。まあ気持ちはわかるけど)

花鶏は今の時点ではまだ後嗣の儀に参加を許されるかも怪しい。母親の身分は低くないが、没落して後ろ盾もない。
虚弱で神気も弱く、江雪の庇護で何とか生きながらえているようなもの。
わざわざ呪殺を企て間者を王宮に忍び込ませても誰が得をする?

「失礼ですが……本当に帆世が殿下を?誰の差し金で、それに何の目的で」
「それは知らん」
「は?」
蘇芳は呆れる男に胸を張って見せた。
こういう時は堂々と!
さもお前が間違っているんだぞと決めつけるように。

「帆世が本当に殿下に危害を加えようとしたのか、それは分からん。だが問題なのは、当の本人が行方をくらまし、
かつ私が調べるまで、誰もこのことに気付かなかったということだ」

え、と花鶏が声を上げた。
彼は今まで、帆世を遠ざけたのが蘇芳だと思っていたのだから驚いて当然である。

(うんまあ、たぶん俺なんだけど。やったの)

「これまで殿下の身辺は江雪殿の采配で人選されておりましたので、私も特に気に留めておりませんでした。
ですが、今回のことがあって、もしも大事な殿下の身の上に何かあればそれこそ取り返しがつきません。
今後、殿下のお世話をする者は来歴や人物を調査し、本心から殿下に仕える者のみをお傍に置くべきかと存じます」

ちょっとの間、白けた空気が室内に漂った。
その場合真っ先にクビになるのはお前ではないのか……?

そんな声が聞こえそうだったが、気にしていられない。

さりげなく江雪の株を下げておこうと目論むが、さすがにこれは欲張りだろう。
まだ10歳の子供にこちらの意図が通じるとは思えない。

「殿下の身辺を今一度、安全に整える必要があると思うのですがいかがでしょうか」
「僕は……僕のことは、江雪が」
「殿下」
蘇芳は優しく、けれどもきっぱりと言いかぶせた。
ここで言いくるめて、少年の言質を取っておく必要がある。
「江雪殿は殿下の後ろ見ですが、臣下の一人にすぎないことをお忘れなきよう」
「臣下……」
「そうです。この私も、殿下より下の身分で、いづれはおいそれと殿下と言葉を交わしたり会ったりするようなことはできなくなります」
花鶏は、何ならこの日一番驚いた顔を見せた。
そんなことは思ってもみなかったという表情で蘇芳を凝視している。

外側からストレスを与えられ続けている人間というものは、得てして今より先のことを想像できないことが多いと何かで読んだことがある。
辛い時期に誰も助けてくれない状態で長く過ごしていると、その状況からの脱却や改善がイメージできない。
できないから、自分の心の方を麻痺させる。
そうすることで、少しでも苦痛をしのげるよう誤魔化す。
今の花鶏の心理状態はまさにそれだろう。それに加えて、少量ずつ花柳草の毒を盛られて神経過敏と鬱が促進されつつある。

「おそば仕えの者たちのことは、いったん私から江雪殿に上申いたしましょう。取り急ぎこの薬は」
蘇芳はすっと盃を自分の方に引き寄せた。
「私が毒見役を勤めましょう」
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