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謝罪とこれから(4)
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胸の内をすべて、とは言わないまでも、溜まっていた分を出し切ったのだろう。
反動でぐったりとした花鶏の顔は、それでも幾分すっきりして見えた。正確に言うなら、あとはどうにでもなれ、というやけっぱちにも見えた。
蘇芳は複雑な気持ちだ。
(誰でもいいから優しくされたい、なんて)
いたいけな少年が、5年という月日を、どんなに孤独な中で、他人に脅かされながら暮らしてきたのか。
いや、むしろ蘇芳に出会うまでは、空気のように無視されてきたのだろう。
唯一自分を見てくる男が、執拗に虐げてくる人間だったなんて、悲惨な運命というほかない。
蘇芳ははじめて……そう、本当の意味で初めて「蘇芳」に対して明確な嫌悪感をもった。
これまでは、ゲームの小悪党、むしろ最後は悲惨な裏切られ方をする雑魚キャラとして、何なら同情とまでいかなくとも、哀れな奴くらいには思っていたかもしれない。
でも、もう無理だ。目の前でこんな風に泣く花鶏が、あまりにも幼気で、可哀想で、不憫で、胸が詰まる。
(こっちもゲームのキャラクターなのは同じなのに。でも、目の前にいるし、生身の人間と変わらないし。ああ駄目だ、頭が混乱する。しっかりしろ、俺!)
「殿下」
思い出したようにひっくひっく、しゃくりあげている少年の拳を上から両手で包む。
拳は落ちた涙でひんやりしていた。時刻が夕刻を過ぎ、半地下の部屋は少しづつ肌寒くなってきている。
今日もここにこの子供を残して、自分は簡素だが温かい家に帰って寝るのだ。
(だめだ、考えるな。今そんなこと考えたって何になるんだよ)
「お気持ちを教えてくれて、ありがとうございます。殿下」
「……怒っていますか?」
「いいえ、まさか。殿下がお心を打ち明けてくださったこと、蘇芳は嬉しく思います」
蘇芳は安心させるように微笑んで首を振った。花鶏の胸がカッと熱くなった。
こんな時でも、蘇芳のきれいな顔が優しい目をしてほころぶと、くらくらめまいがしそうなほど、なんだかふわふわした心地になってしまう。
(どうしてだろう……)
直接触れられたしっとりした肌の感触が、今になって意識されてしまう。
自分より大きな大人の男の手だけれど、なんでこんなに白くてきれいで、いい匂いがするのだろう。
かつて自分を虐めていた時は、恐ろしくてそんなことに気付きもしなかったのに。
優しくなってからの蘇芳は、今まで見た中で、美姫と謳われた母上よりも、ずっときれいな人だ。
いや、本当を言えば、初めて会ったときも、なんて綺麗な人なんだろうと思った。
自分を無視せずまっすぐ見てくるその人にびっくりして、同時に泣きそうなほど嬉しかった。
仲良くなれたらなんて高望みはしなかった。たまに視界に入れてもらって、思い出したように声をかけてもらえたら。
そりゃ妄想の中ではちょっとくらい、都合の良い夢は見たかもしれない。
現実はよっぽど悪夢のように、蘇芳は花鶏を虐げて楽しんでいた。花鶏にはその理由もわからなかった。
それなのに数か月前から、かつての妄想が現実になりつつあった。
こんなことがあるのだろうか。自分は騙されているのではないか。母上の時のように、突然捨てられてしまうではないか。
でも、もし真実なら。本当に、蘇芳が心を入れ替えて、これからは花鶏を大事にしてくれるというのなら。
まるで花鶏が見ている都合の良い夢が、そのまま形を成したようだ。
「殿下、すぐに私のことを信じてくださいとは申しません。それだけのことを、私は殿下にしてまいりましたから」
まるで花鶏の思いをくみ取ったように蘇芳が言った。
「こうしましょう」
少しだけ明るい声に、花鶏は顔を上げた。
「私が本当に改心したのか、殿下がこれから私を『試験』するのです」
「試験、ですか?」
「さようです。もし私が殿下が嫌がるようなことや、役に立たないようなことをしたら『減点』してください。持ち点を下回ったら、私は『罰』を受けて、殿下の言うことを何でも聞きます」
反動でぐったりとした花鶏の顔は、それでも幾分すっきりして見えた。正確に言うなら、あとはどうにでもなれ、というやけっぱちにも見えた。
蘇芳は複雑な気持ちだ。
(誰でもいいから優しくされたい、なんて)
いたいけな少年が、5年という月日を、どんなに孤独な中で、他人に脅かされながら暮らしてきたのか。
いや、むしろ蘇芳に出会うまでは、空気のように無視されてきたのだろう。
唯一自分を見てくる男が、執拗に虐げてくる人間だったなんて、悲惨な運命というほかない。
蘇芳ははじめて……そう、本当の意味で初めて「蘇芳」に対して明確な嫌悪感をもった。
これまでは、ゲームの小悪党、むしろ最後は悲惨な裏切られ方をする雑魚キャラとして、何なら同情とまでいかなくとも、哀れな奴くらいには思っていたかもしれない。
でも、もう無理だ。目の前でこんな風に泣く花鶏が、あまりにも幼気で、可哀想で、不憫で、胸が詰まる。
(こっちもゲームのキャラクターなのは同じなのに。でも、目の前にいるし、生身の人間と変わらないし。ああ駄目だ、頭が混乱する。しっかりしろ、俺!)
「殿下」
思い出したようにひっくひっく、しゃくりあげている少年の拳を上から両手で包む。
拳は落ちた涙でひんやりしていた。時刻が夕刻を過ぎ、半地下の部屋は少しづつ肌寒くなってきている。
今日もここにこの子供を残して、自分は簡素だが温かい家に帰って寝るのだ。
(だめだ、考えるな。今そんなこと考えたって何になるんだよ)
「お気持ちを教えてくれて、ありがとうございます。殿下」
「……怒っていますか?」
「いいえ、まさか。殿下がお心を打ち明けてくださったこと、蘇芳は嬉しく思います」
蘇芳は安心させるように微笑んで首を振った。花鶏の胸がカッと熱くなった。
こんな時でも、蘇芳のきれいな顔が優しい目をしてほころぶと、くらくらめまいがしそうなほど、なんだかふわふわした心地になってしまう。
(どうしてだろう……)
直接触れられたしっとりした肌の感触が、今になって意識されてしまう。
自分より大きな大人の男の手だけれど、なんでこんなに白くてきれいで、いい匂いがするのだろう。
かつて自分を虐めていた時は、恐ろしくてそんなことに気付きもしなかったのに。
優しくなってからの蘇芳は、今まで見た中で、美姫と謳われた母上よりも、ずっときれいな人だ。
いや、本当を言えば、初めて会ったときも、なんて綺麗な人なんだろうと思った。
自分を無視せずまっすぐ見てくるその人にびっくりして、同時に泣きそうなほど嬉しかった。
仲良くなれたらなんて高望みはしなかった。たまに視界に入れてもらって、思い出したように声をかけてもらえたら。
そりゃ妄想の中ではちょっとくらい、都合の良い夢は見たかもしれない。
現実はよっぽど悪夢のように、蘇芳は花鶏を虐げて楽しんでいた。花鶏にはその理由もわからなかった。
それなのに数か月前から、かつての妄想が現実になりつつあった。
こんなことがあるのだろうか。自分は騙されているのではないか。母上の時のように、突然捨てられてしまうではないか。
でも、もし真実なら。本当に、蘇芳が心を入れ替えて、これからは花鶏を大事にしてくれるというのなら。
まるで花鶏が見ている都合の良い夢が、そのまま形を成したようだ。
「殿下、すぐに私のことを信じてくださいとは申しません。それだけのことを、私は殿下にしてまいりましたから」
まるで花鶏の思いをくみ取ったように蘇芳が言った。
「こうしましょう」
少しだけ明るい声に、花鶏は顔を上げた。
「私が本当に改心したのか、殿下がこれから私を『試験』するのです」
「試験、ですか?」
「さようです。もし私が殿下が嫌がるようなことや、役に立たないようなことをしたら『減点』してください。持ち点を下回ったら、私は『罰』を受けて、殿下の言うことを何でも聞きます」
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