18 / 156
先生と生徒(1)
しおりを挟む
「罰を?そ、そんなのだめです!」
慌てて手を振り回した拍子に、蘇芳の手を払いのけてしまった。
あ、っと思ったときには遅く、花鶏は惜しいことをしてしまったと落ち込んだ。
「それくらいしなくては、殿下の信を得るという私の願いは叶いません。殿下は今から私を厳しく採点してくださらなくてはいけませんよ」
蘇芳はふと首を傾げるようにして、面白いことを思いついたようにくすりと笑った。
「採点、とは我ながら良い案です。殿下、私の先生になってくださいませんか?」
「せんせい……?」
蘇芳はにこにこしている。自分の思い付きに機嫌がよくなっているのか、饒舌で表情も明るい。
花鶏の方はといえば、さっきから突拍子もないことばかり言われて、頭がついていかない。
(おっと。「先生」ってこっちの世界で言うと、目下になんのかな?)
蘇芳は少し躊躇してから、いや、と思い直した。
「師」はいくら皇帝であろうと、師弟関係で言えば上の存在だ。中華ファンタジーなら、世界観の土台は儒教だろう。知らんけど。
「ぼくがあなたの先生?」
「はい、先生」
蘇芳がまじめな顔で返事すると、花鶏はきょとんとして、やがてぷはっ、と噴き出した。
泣き顔のまま、くすくす笑っている。変なツボに入ったのか、ちょっと不自然なくらいくすぐったそうに笑っている。
「先生、おかしいですか」
「う、やめて、ふふっ」
「先生、蘇芳をそんなに笑わないでください。悲しいです」
そう言いながら泣き真似をして、布団の上、ちょうど花鶏の伸ばした足の上にがばっと突っ伏してみせる。
「あはは」
とんだ茶番だが、花鶏は堪らない風に笑い続けた。
(笑った顔、初めて見たな。こどもの笑い声って、こんな風だっけ)
ぱっと顔を上げると、
「先生」
「っ、もういいです!……僕があなたの先生なら、何を教えてあげることができるんですか?僕はもの知らずなのに」
「それはもちろん、殿下のことを教えてください」
「……僕?」
「ええ。だってこれから、先生は私を採点しなくてはなりませんから。私が良い点が取れるように、先生が何を好きで、何が嫌いで、どんな時に楽しいのか、悲しいのか。知っておかないと、生徒はどうしたらよいか困るでしょう。ですから生徒が落第しないよう、教えてください」
花鶏はどぎまぎした。なにか、とてもすごいことを言われているような気がして、頬が熱い。耳の奥がじんじんする。
(やっぱりなにかの病気かも……)
「まあとはいえ、期限は決めておきましょうか」
そうとは知らない蘇芳が、ぽんと手を打つ。あっさりした言い方に、花鶏はちょっと梯子を外された気分になった。
「期限、ですか……先生と生徒の?」
(つまりそれが終わったら?)
「無論、私は生涯を賭して殿下を臣下としてお支えする所存ですが」
花鶏の不安を読み取ってか、早口に添える。
「しかしやはり殿下からのお許しは欲しいのです。生徒としても、先生から満点をもらって試験合格をしたいですし。ですから、この時までと、期限を定めていただけたらありがたいのですが……」
駄目でしょうか、というように上目にこちらを伺うのを見ると、はい、としか言えない。
(これ、もう試験なんてする意味がないのでは……)
花鶏はなんだか情けない気分になってきた。
「いつまでにしたら?」
「でしたら、殿下が後嗣の儀を無事に終えるまで、というのはいかがですか?」
慌てて手を振り回した拍子に、蘇芳の手を払いのけてしまった。
あ、っと思ったときには遅く、花鶏は惜しいことをしてしまったと落ち込んだ。
「それくらいしなくては、殿下の信を得るという私の願いは叶いません。殿下は今から私を厳しく採点してくださらなくてはいけませんよ」
蘇芳はふと首を傾げるようにして、面白いことを思いついたようにくすりと笑った。
「採点、とは我ながら良い案です。殿下、私の先生になってくださいませんか?」
「せんせい……?」
蘇芳はにこにこしている。自分の思い付きに機嫌がよくなっているのか、饒舌で表情も明るい。
花鶏の方はといえば、さっきから突拍子もないことばかり言われて、頭がついていかない。
(おっと。「先生」ってこっちの世界で言うと、目下になんのかな?)
蘇芳は少し躊躇してから、いや、と思い直した。
「師」はいくら皇帝であろうと、師弟関係で言えば上の存在だ。中華ファンタジーなら、世界観の土台は儒教だろう。知らんけど。
「ぼくがあなたの先生?」
「はい、先生」
蘇芳がまじめな顔で返事すると、花鶏はきょとんとして、やがてぷはっ、と噴き出した。
泣き顔のまま、くすくす笑っている。変なツボに入ったのか、ちょっと不自然なくらいくすぐったそうに笑っている。
「先生、おかしいですか」
「う、やめて、ふふっ」
「先生、蘇芳をそんなに笑わないでください。悲しいです」
そう言いながら泣き真似をして、布団の上、ちょうど花鶏の伸ばした足の上にがばっと突っ伏してみせる。
「あはは」
とんだ茶番だが、花鶏は堪らない風に笑い続けた。
(笑った顔、初めて見たな。こどもの笑い声って、こんな風だっけ)
ぱっと顔を上げると、
「先生」
「っ、もういいです!……僕があなたの先生なら、何を教えてあげることができるんですか?僕はもの知らずなのに」
「それはもちろん、殿下のことを教えてください」
「……僕?」
「ええ。だってこれから、先生は私を採点しなくてはなりませんから。私が良い点が取れるように、先生が何を好きで、何が嫌いで、どんな時に楽しいのか、悲しいのか。知っておかないと、生徒はどうしたらよいか困るでしょう。ですから生徒が落第しないよう、教えてください」
花鶏はどぎまぎした。なにか、とてもすごいことを言われているような気がして、頬が熱い。耳の奥がじんじんする。
(やっぱりなにかの病気かも……)
「まあとはいえ、期限は決めておきましょうか」
そうとは知らない蘇芳が、ぽんと手を打つ。あっさりした言い方に、花鶏はちょっと梯子を外された気分になった。
「期限、ですか……先生と生徒の?」
(つまりそれが終わったら?)
「無論、私は生涯を賭して殿下を臣下としてお支えする所存ですが」
花鶏の不安を読み取ってか、早口に添える。
「しかしやはり殿下からのお許しは欲しいのです。生徒としても、先生から満点をもらって試験合格をしたいですし。ですから、この時までと、期限を定めていただけたらありがたいのですが……」
駄目でしょうか、というように上目にこちらを伺うのを見ると、はい、としか言えない。
(これ、もう試験なんてする意味がないのでは……)
花鶏はなんだか情けない気分になってきた。
「いつまでにしたら?」
「でしたら、殿下が後嗣の儀を無事に終えるまで、というのはいかがですか?」
243
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる