【完結】瀧華国転生譚 ~処刑エンド回避のために幼い病弱皇子を手懐けようとしたら見事失敗した~

飛鳥えん

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先生と生徒(2)

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「僕が後嗣こうしの儀に出れると本気で思っているのですか?」
「殿下はできない、とそればかり口にされるのですね。最初は学舎、次は後嗣の儀。まだ何も決まったわけではないのに」
我ながらちょっと意地悪な言い方だな、と蘇芳は思った。
実際、ここまで少年の劣等感や不安が根深いのは、間違いなく江雪や蘇芳、そしてこれまで周りにいた大人の責任である。
「僕のほかに体も丈夫で文武に秀でた皇子が何人もいるってきいています。僕がみんなの前で、霊獣を呼び出せるわけない。恥をかいて、笑われるだけに決まってる」
「そうならないために、私がいるのですよ、先生」
すでにみじめな未来を想像したのか、暗い顔の花鶏に微笑みかける。
「殿下が二人だけの時に内緒で私の先生をしてくださるなら、私は表向き、殿下の先生ということにしていただけませんか」
「……今度は蘇芳どのが先生ですか?」
「勉学や、神力の特訓にお付き合いいたします。私も科挙を経てここに居りますから、きっとお役に立ってみせます。どうか私と、二人三脚で頑張ってみてはいただけませんか。決して殿下お一人に重荷を背負わすことは致しませんから」

(ニニンサンキャクってなんだろう)
花鶏は一瞬そんなことを思ったが、すぐに別のことが気になった。
(ここでうんといえば、蘇芳殿はぼくのそばにいてくれる、ということ?)
話を聞く限り、きっとそうだ。花鶏の願望が、ほんとうに現実になろうとしているのだ。
蘇芳殿には宮中での仕事もあるから、日がなずっととはいかないだろう。それぐらいは花鶏にもわかる。
でも今のように、2,3日に一度、あるいは5日あけて数刻だけ、とはいくまい。
学舎に入れば、他の皇子皇女と同じように花鶏も後宮に居を移すことになるはずだ。そうなったら、蘇芳の仕事場にも近いし、自分に優しいきれいな蘇芳を独り占めできるのではないだろうか……。

花鶏は誘惑に駆られて、頑張ります!と言ってしまいたかった。実際、口から出かかっていた。
けれども、どうしてもここで蘇芳に嘘をつきたくなかった。

「本当を言うと、僕は皇帝になりたいと思っているわけではないんです」

立身の向上心がない子供だと、がっかりされるだろうか。
蘇芳は文官だ。貴族出身で、いずれは皇子皇女のいづれかの派閥傘下に入るかもしれない。
それが花鶏に付きっきりとなれば、ゆくゆくは見返りを望んで当然だ。
花鶏だって、何か価値があるものを差し出せるなら、それを餌に蘇芳を引き留めたい。
でも、残念ながらそんなものはないのだ。
花鶏は自分が世間知らずなことを自覚していたが、それなりの年数を後宮の隅で過ごし、大事にされてこなかった分むしろ、政情というものの後ろ暗さには敏感な子供だった。

(何の見返りも期待できないと知ったら、僕に構うのなんか、時間の無駄だと思うんじゃ……)
じわりとまた泣きそうになった。
(言わなきゃよかった。せめてもうちょっと長く、いい思いをしてから言えばよかった)
そんな小狡いことを考える自分が嫌になる。
しかし、
「おや、そんなことですか」

え、と花鶏は顔を上げた。いま、一世一代の告白をしたような気になっていたのは、どうやら花鶏だけだったとでもいうように、蘇芳は何でもない顔をしていた。

「なにを深刻そうにしているのかと心配いたしましたよ。良いのです。別に私も、これ以上の出世だとか、皇帝になったあなたに取り立ててもらって宰相にしてほしいだとか、気に入らない誰それを牢屋に入れてほしいだとか、隣家の木の枝が伸びすぎているから切らせてほしいとか、職場の上司が気に食わないから左遷させてほしいだとか、そんなことは望んでいませんので」
「で、でも」
(それじゃあ何のために? それに、そのわりには具体的にいろいろ出てきたけど……)
「食堂の献立が不味いので改善してほしいとか……」
「蘇芳殿!」
まだまだ不満が出てきそうだった蘇芳が、ぴたりと止まった。
「僕が皇帝にならないでもいいなんて、それじゃあ蘇芳殿は、何のために僕を助けるのですか」
「あなたに幸せになって欲しいのです。今のあなたのまま、変わることなく、皇子として与えられるべき温かい場所で、良い暮らしをしてもらいたい。穏やかに好きなことをして、誰も恨まず楽しく生きてほしい。健やかに不安なくあって欲しい。それが私の望んでいる全てです」
花鶏はもう言葉がなかった。言葉に質量というものがあるなら、あるいは言霊というものが本当にあるなら。
蘇芳の言葉は押しつぶされそうなほど、重く、空虚だった身にはあまりに染みた。これが毒だったなら、甘くて美味くて、死ぬと分かっていてもいくらでも飲んだに違いないと心から思った。

嘘でもいいと、花鶏は思った。
けれども同時に、もし嘘だったら、これ以上ないほどに恨んで、決して許さないとも思った。
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