【完結】瀧華国転生譚 ~処刑エンド回避のために幼い病弱皇子を手懐けようとしたら見事失敗した~

飛鳥えん

文字の大きさ
20 / 156

先生と生徒(3)

しおりを挟む
いろいろあったが、腹を割って話せたのは大きな前進だ、と蘇芳は大仕事の前の小タスクを完了したときのような、心地よい達成感を味わっていた。
これで少なくとも後嗣の儀までにもっと俺を信用させて、江雪の野郎より俺の言うことを信じるよう育ってくれれば、それが将来この子のためにもなる。

課題は依然としてあったが、それでも、ことが良い方向に向いているのを感じる。
ゲームシナリオからは逸脱し始めているが、それでもこの世界は問題なく進んでいるようだ。

(さて、やらなくちゃいけないこと多いな。まずは遅れてる学問どうにかしないと。李家に置きっぱなしの歴史書と、子供用の教本は早蕨に城下で調達させて……手習い用の筆一式に紙もいるし。あ、あとあれだ、体内の気脈を循環してやるための妙薬!原作でヒロインが雨月皇子に飲ませた神力を高めるアレが、今の俺なら作れるかも)

ゲーム購読者としてファンブックまで買ったアドバンテージがようやく活かせる時が来た!
蘇芳は急いで頭の中にやるべきことと、スケジュールを組み立てていった。

その時、ぼおーん、とやわらかく間延びした銅鑼どらの音が遠く上の方から聞こえてきた。
時を告げる門番が場内を回っている。
「もうそんな時間でしたか。長居してしまいましたね」
薄闇になる前に、早勢に命じて行燈に火を入れさせよう。
家僕を呼ぼうとした蘇芳に、花鶏が「あの」と、そっと手を差し出した。
「これを、蘇芳……先生に」
蘇芳はちょっと感動した。早速先生呼びとは。当たり前だが、28年生きてきた中で、先生なんて呼ばれた経験はない。なんだか嬉しいし、気恥ずかしくもある。
「これは……和紙ですか?」
枕の下に挟んでいたらしき薄い木箱の中に何枚か、白い紙が入っている。そのうちの一枚だ。
どれも白っぽい紙に、うっすらと青っぽい繊維が入っている。
手のひらサイズの正方形で、ちょっとよれているが、きっと元は上等なものだったのだろう。
「姉上が昔くれました。まだ母上がいらっしゃった頃に」
幸福な記憶を思い出すように、手の中の和紙を眺めている。
「大事なものでしょう。私にくださるのですか?」
「……こんなものでよければ、あの、僕はなにも持っていないけど……今持っているものの中では、これが一番きれいだから」
ああ、と蘇芳は花鶏の気持ちがほんの少しだけわかるような気がした。
幼い子供なりに、きっと形のある約束が欲しいのだ。
ふたりが交わした約束は、言ってみれば将来の主従の証立てであり、直近の師弟の誓い立てである。
子供とはいえ、相手は皇族だ。
本来なら、それなりにやんとした場を設けて、献杯して契りを立てるものだが、これは花鶏なりに、その代わりなのだろう。
今持っているもの中で、一番大事なもの。それを主君として臣に下賜する。
同時に、生徒として師に向けて献上する。
ごっこ遊びのようだが、花鶏にとって、きっとこれはとても神聖な儀式なのだろう。

「ありがたく拝領いたします、殿下。まるで新雪のように美しい和紙ですね」
そう言って恭しく蘇芳が受け取ると、花鶏はほっとしたように、嬉しそうな顔をした。
「時に殿下。私からも、本来は生徒として、なにか捧げ物をしなくてはならないところですが」
「そんなの、いいんです」
「いえ、そういうわけには参りますまい。これは殿下の思い出の品でしょう」

蘇芳は外に控えていた早勢に灯りを持ってこさせた。
寝台のすぐそばに置かせて、部屋の一角がぼわんとそこだけ明るくなった。
何をやっているのか、という目で見てくる男を追い払って、蘇芳は膝の上で作業をし始めた。
が、うまくいかず、結局埃っぽい卓を灯りの下へ引っ張ってきて、その上を使うことにした。
花鶏は気になったようで、寝台からゆっくりと降りて傍まで来て覗き込んでいる。
しばらく無言で作業していると、
「……わぁ」
子供の素直な感嘆の声が気持ちよかった。
出来上がったのは、小ぶりな折り鶴だ。ちょうど和紙が白いので、蘇芳は千羽鶴みたいだなと思った。
「すごい、すごい!」
「折り鶴ですよ。久々ですが、ちゃんと出来て良かった。殿下に差し上げるのに、うまく出来なかったらどうしようとかと。気に入ってくださいましたか?」
「貰って良いのですか?あ、でも……それだと僕が先生になにも差し上げなかったということになってしまう」

出来立てほやほやの鶴をつぶさないよう大事に両手の平の上にのせて、目を泳がせている様は何とも可愛らしかった。
本当は返したくない、でもあげるといってしまった手前、どうしよう……。
そんな心の声が聞こえてきそうだ。
蘇芳は思わず笑ってしまった。
確かに、貰ったものをそのまま相手に返しては、ある種の無礼だろう。

「ではこうしましょう。これは殿下と私、ふたりの物ということにしましょう。普段は殿下が持っていらしてください」
「いいのですか?」
「はい。鶴は縁起ものですから。きっとこれからの殿下のお守りとなりますよう」
花鶏は頬を染めて、嬉しそうにもう一度鶴を見下ろした。
「大事にします。一生」

(折り紙くらいで大げさだって)

蘇芳が辞す時も、大事にあの木箱に入れて、膝の上に抱いて見送っていた。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

処理中です...