8 / 34
第1部:城塞都市の翳り
第8章:見張り台
しおりを挟む
アラードと同期の戦士ガモフは、かがり火の燃える城壁の上で見張りに就いていた。背後には隊長のボルドフが立っていた。
ずんぐりした体格のガモフは敏捷さよりは力で戦う資質の持ち主だった。もちろんまだ若く経験不足であるため、ボルドフから見れば未熟さは覆いがたいものだったが、オークやコボルト相手なら今のアラードよりむしろ安定した戦いができた。訓練所でもアラードと張り合ってきたガモフはアラードより先に洞門番に登用され、倒した亜人の数でもアラードに差をつけていた。
しかし洞門が急襲を受けたとの知らせに宿舎から駈けつけたガモフたちを出迎えたものは、亜人とは次元の違う存在だった。
獅子ほどもある醜悪な魔獣の死体。戦いに臨んだ仲間たちの話も凄まじいものだった。それは自分たちの前の班の若者を四人も瞬時に噛み殺し引き裂いたというのだ。
ボルドフがラーダ寺院から戻ったとき、ガモフたちは明らかに動揺していた。事態の悪化を感じているのを隠せずにいた。
ボルドフはガモフたちを集め、宝玉の結界に異変が起こり魔物の行動への制約が弱まったために強力な魔獣が洞門に現れたことを説明した上で、当分のあいだ夜は城壁の下へは降りずに城壁の上から洞門を見張るよう指示した。そして、今夜は自分も見張りに立つから、一人ずつ交代で見張りに立ち他の者は階下で仮眠をとるよう命じた。
ガモフが見張りに立ったのは、もう少しで空が白みはじめる頃だった。
「自分もあんな化け物を倒せるようになれるでしょうか」
ガモフはボルドフに声をかけた。それは仲間たちも一様に隊長に発した問いだった。
「生き残り、戦い続ければ必ず」
ボルドフもまた、同じ答えをガモフにも返した。
そのときラーダ寺院の見習い僧が城壁の上に現れ、ボルドフを手招いた。そして近づいたボルドフに小声でなにかを告げた。
ガモフにはその声は聞こえなかったが、ボルドフが顔色を変えたのがゆらめくかがり火の光でもはっきりと見て取れた。
ボルドフは足早にガモフのところへ戻った。
「ラーダ寺院からの招集だ。俺はすぐ行かねばならん。他の者を起こすから見張りをこのまま続けてくれ」
そういうと、ボルドフは見習い僧と共に階下へ姿を消した。
ついに空が白み始めた。だがそのせいで、洞門の影はかえって深まったようにガモフには感じられた。
もしも洞門に異変が起きたら。若者はひたすら洞門を凝視していた。見張りのためというより恐怖にかられ、己の首に背後からのびる、やつれた、けれど鋭い爪を生やした手に、気づくこともできぬまま。
ずんぐりした体格のガモフは敏捷さよりは力で戦う資質の持ち主だった。もちろんまだ若く経験不足であるため、ボルドフから見れば未熟さは覆いがたいものだったが、オークやコボルト相手なら今のアラードよりむしろ安定した戦いができた。訓練所でもアラードと張り合ってきたガモフはアラードより先に洞門番に登用され、倒した亜人の数でもアラードに差をつけていた。
しかし洞門が急襲を受けたとの知らせに宿舎から駈けつけたガモフたちを出迎えたものは、亜人とは次元の違う存在だった。
獅子ほどもある醜悪な魔獣の死体。戦いに臨んだ仲間たちの話も凄まじいものだった。それは自分たちの前の班の若者を四人も瞬時に噛み殺し引き裂いたというのだ。
ボルドフがラーダ寺院から戻ったとき、ガモフたちは明らかに動揺していた。事態の悪化を感じているのを隠せずにいた。
ボルドフはガモフたちを集め、宝玉の結界に異変が起こり魔物の行動への制約が弱まったために強力な魔獣が洞門に現れたことを説明した上で、当分のあいだ夜は城壁の下へは降りずに城壁の上から洞門を見張るよう指示した。そして、今夜は自分も見張りに立つから、一人ずつ交代で見張りに立ち他の者は階下で仮眠をとるよう命じた。
ガモフが見張りに立ったのは、もう少しで空が白みはじめる頃だった。
「自分もあんな化け物を倒せるようになれるでしょうか」
ガモフはボルドフに声をかけた。それは仲間たちも一様に隊長に発した問いだった。
「生き残り、戦い続ければ必ず」
ボルドフもまた、同じ答えをガモフにも返した。
そのときラーダ寺院の見習い僧が城壁の上に現れ、ボルドフを手招いた。そして近づいたボルドフに小声でなにかを告げた。
ガモフにはその声は聞こえなかったが、ボルドフが顔色を変えたのがゆらめくかがり火の光でもはっきりと見て取れた。
ボルドフは足早にガモフのところへ戻った。
「ラーダ寺院からの招集だ。俺はすぐ行かねばならん。他の者を起こすから見張りをこのまま続けてくれ」
そういうと、ボルドフは見習い僧と共に階下へ姿を消した。
ついに空が白み始めた。だがそのせいで、洞門の影はかえって深まったようにガモフには感じられた。
もしも洞門に異変が起きたら。若者はひたすら洞門を凝視していた。見張りのためというより恐怖にかられ、己の首に背後からのびる、やつれた、けれど鋭い爪を生やした手に、気づくこともできぬまま。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる