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犬も食わない
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「そろそろお開きでーす!二次会行く人は俺のとこ集合で。みんな気をつけて帰ってね!」
主催の声掛けでのこ打ち上げも解散となる。流石に二次会は無理だ、とバッグを手にした。
Joxは二次会に参加するようで「また!」と挨拶を終えると、主催の元へと行ってしまった。
「そらくんちゃんと帰れる?」
ケラケラと笑いながらも一応心配してくれているのだろう。旬莉もスマホを操作しながら一緒に店の外へと出る。
「エン、泊めて」
駅から徒歩圏内に住むとういう柧木澤にお願いすると二つ返事で了承してくれた。
帰り際、色んな人が代わる代わる話しかけて来たので唯斗と心花がどうなったのか分からない。正直今は考えたくないとも思う。
店の前でタクシーを待つ人、駅に向かって歩く人。色んな人がいる中、茉昊はふらつく体を柧木澤に支えてもらっていた。
「エンくん本当に頼んでいい?」
「はい」
「そらくん本当にエンくんでいいの?ゆさこさんに言った?」
唯斗の名前に首を振ると、旬莉が大袈裟に溜息を吐く。
どうせ心花と一緒にいるのになぜわざわざ声掛けないといけないのか。
酔いもあって茉昊の心は頑なになっていた。
「もう……喧嘩したんなら早く仲直りしなよ」
「仲直りも何も……喧嘩してないし」
ただ心花と話す唯斗が楽しそうで嫌だっただけ。
言わずもがな、ただの嫉妬だ。それを関係を知っているとはいえ、わざわざ旬莉に聞いてもらうなんて情けないくて出来ない。
「じゃあタクシー来たから…て、ゆさこさん?タクシー乗るの?」
いつの間に店を出てきたのか、隣には唯斗がいた。
そしてジロリと茉昊を睨んでいる。
「旬莉、悪いけどまたタクシー呼んで」
「は?」
「ほら、帰るよ」
何が何だかわからないうちに腕を捕まれ、唯斗によってタクシーに押し込まれた。
冷たい表情で「ここまで」と運転手に地図を見せている。
「……心花さんは?」
「さぁ。帰ったじゃない?」
意味がわからないままタクシーに押し込まれ、口を尖らせた。自分なんかに構わず、先程まで楽しそうにしていた相手と二次会でもなんでも行けばいいのに。と不貞腐れるが、唯斗は相手の行方に興味もないような反応を見せる。
「送るんじゃ」
「なんで?俺が送る必要ないよね。てか茉昊はなんで他の人に送ってもらおうとしてんの」
「送って貰うって言うか……家近いから泊めてもら」
「はぁ!?何考えてんの!!?なんで知らない男に泊めてもらおうとしてんの!?マジ意味わかんない」
言葉を遮り、声を荒げる唯斗はタクシーの中ということも忘れてしまっているようだ。
「知らないって、事務所の後輩なんだけど」
「それでも!俺がいるのになんで泊まんのさ!?目離した隙に勝手にお酒も飲んでるし!」
「目離した隙にって……ずっと心花さんと話してたくせに」
「ランク上げのこと聞かれてただけだよ!何!?俺が他の人と話してたらお酒飲むの!?意味わかんない」
「意味わかん……ないわけないだろ!なんだよ鼻の下伸ばしてデレデレと!俺に一言でも話しかけてきたかよ!?」
売り言葉に買い言葉。だが酔いもあるせいかタガが外れてしまった。
自分だって話しかけに行かなかったのに、それを棚に上げて口から出るのは不満ばかり。
「それは……だからってこんななるまで飲まなくても」
「俺がいるんだから俺に構えよ!」
「……ごめん。ねぇ、今日は大人しく帰ろ。いっぱい構ってあげるから」
一転して唯斗の声が落ち着きをみせる。
宥めるように頭を撫でられた。まるで駄々捏ねる子供をあやす様な対応に急に恥ずかしくなってしまう。
「心花さんとは本当に何もないから。信じて」
唯斗の言葉に頷く素直さなど見せれず、それでも大人しく頭を撫でさせた。
ただただ子供のように拗ね、放ったらかした唯斗が悪いといじけてみせる。
「お客さん、ここでいいですか?」
酔っ払いの痴話喧嘩にも静かに耐えていた運転手だけが冷静な声をしていた。
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