呪いの子と公爵令息

ゆら

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ゲームの舞台

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 以前ヴィルフレドだが言っていた通り学園に通うのは義務のようなものなものなので、入学にあたり試験というものはなかった。
 入学志願書の提出と入学金を納めれば基本的に誰でも入学が出来る。必要により入寮届けを提出しなければならないが、寮はタダでは無い。
 学園は王都の中心に据えられ、そこに学生たちは通うのだが、領地が遠い学生は寮を利用しないといけなくなる。辺境伯領など、馬車を使って片道3日の距離だ。そういう貴族の子は必然と入寮するかタウンハウスを利用するようだ。
 地方の貴族は基本的に領地を持ち運営している。それもあって王都にいる貴族より収入が多いらしい。
 ヨゼフは男爵の爵位を賜っているが、継いだ領地がある訳ではなく、家財が潤沢かと言われればノー。
 それを知ったのはアロイスの入学が決まってからだった。
 どうりでリーヌスが通学する姿を見かけると思った。ヴィルフレドは寮に入ったが、リーヌスは男爵邸から通っていたため不思議ではあったのだ。
 ヴィルフレドの公爵邸の方が遠いと言えばそうなのだが。
 男爵邸は隣接するリオルディ領と違い、王都シェルヴェンにある。同じ王都にある学園へ通えない距離ではない。が、通うには馬車でも朝早く出なければならない微妙な距離だ。
 当然アロイスもそうなのだろうと思っていたが、ヴィルフレドは入寮を勧めてきた。
 とてもじゃないが公爵家とは持っている財産が違う。それに、ヨゼフがお金を出すとは到底思えなかった。
 それをヴィルフレドに伝えると、ならば、と代替案を準備してるあたり用意周到だと思う。
 しかもその代替案というのが、公爵家所有のタウンハウスから通うと言うもので、アロイスは唖然とするしかなかった。
 勿論ヨゼフは口を出てきたが、

「貴殿の息子は病弱ということだが、我が公爵家なら医師を常駐させることもできる。親として子のためを考えるならどうするのが得策かわかると思うが」

 と言われ悔しそうに閉口していた。
 冬が終わる前にアロイスはタウンハウスへ移り、ヴィルフレドもそれに合わせて退寮した。
 タウンハウスから一緒に通うためらしいが、そうなると逆になぜ寮に入っていたのか不思議だ。



 慣れない制服に袖を通し、タイを締める。今まで来た中でいちばん上質の服に、入学して幾日か経つが未だ緊張する。

「アロイス、準備出来たか?」

 アロイス用に準備された部屋の扉からコンコンッとノック音が聞こえる。
 さすが公爵家所有のタウンハウス。扉一つとっても造りが男爵邸より遥かに豪華だ。
 鏡の前で確認すると扉を開けた。

「できた!」

 どうだ、とこの数日での出来をヴィルフレドに見せる。

「……だから使用人をつけると言ったのに」

 はぁ、と溜息をつき、タイを整えられてしまう。
 着替えなど自分ですると言い張ってはいるが、今のところ毎日ヴィルフレドに正されているのが現状だ。
 そろそろ観念しないといけないらしい。
 今まで一人でやってきたので、誰かにお世話されるというのが慣れないのだ。

「帰ったら使用人を一人つけるから。もう譲らないぞ」

 確かに毎日整え直すヴィルフレドからみたら、さっさと使用人に任せろと言いたくなるだろう。

「これからのことを考えると、早く慣れた方がいい」
「……わかった」

 アロイスは渋々頷いた。
 部屋を出るヴィルフレドに続き、アロイスも自室を出た。
 このタウンハウスから馬車で登校するのだが、その馬車が公爵家の紋が入っているため、降りる時には生徒達から遠巻きに見られてしまう。
 しかも誰だ?と詮索するような視線付きだ。
 矢張り学内でヴィルフレドは有名なようで、見目の美しさから氷のリオルディ卿などと言われているらしい。
 熱血の方が似合いそうだが。
 授業は学年別で行われるため、休憩時間になるまでは会うことは無い。
 クラスに馴染もうと話しかける相手がいないか探しもしたが、男爵家から話しかけてもいい家柄の人間が誰かなど、今まで交流を持てなかったアロイスには難しい判断だ。
 そう迷っているうちに、大体ヴィルフレドがやって来てしまう。

「アロイス」

 今日もそう。アロイスの席にやってきて名を呼ばれる。
 だが、今日はその隣に見知らぬ人がいた。
 濃い茶の髪にヘーゼル色の瞳。背はヴィルフレドとあまりに変わらないくらいだ。
 不思議そうに首を傾げると、ヴィルフレドが、ああ、と思い出したように教えてくれた。

「以前話したノルオン侯爵家のイールだ」

「初めまして、イール・ノルオンと申します。

噂の子猫ちゃんに漸く会えて感激だ」
「アロイス・サクラーティです。こちらこそお会いできたこと嬉しく思います」

 慌てて席を立ち、ヴィルフレドに合格をもらったお辞儀で返す。
 イールは、おお、と感嘆の声を上げていた。

「噂の猫ちゃんは所作も完璧だね」
「あの……その、猫ちゃんっていうのは」
「ん?ああ、多忙を極めるリオルディ卿が足繁く通う先に可愛い猫ちゃんを囲ってるって噂になってね。そしたら今年その猫ちゃんが入学するって言うでしょ。そりゃあ生徒はみんなその猫ちゃんに注目しちゃうわけよ」
「……はあ」
「しかも入ってきた猫ちゃんが影のある病弱な美少年って…注目しない方が無理でしょ」

 アロイスの事を言っているのなら引っかかることばかりだが、悪い人ではないのだろう。でなければヴィルフレドが態々紹介するとは思えない。
 だいぶ砕けた感じの男だと思ったが、それでも侯爵家の人間。アロイスの男爵家よりもうんと位は上だ。

「俺のことはイールって呼んで」
「でも…」
「イールが許可してるんだ、気にする事はない。話が終わったならランチに行くぞ」

 一緒に登校し、休み時間にはヴィルフレドの迎えで一緒にランチへ。教室まで送り届けられると午後の授業を受け、終わればヴィルフレドが迎えに来て一緒に帰る。
 大体これの繰り返しだ。
 授業は楽しいし、帰れば温かいご飯と布団。ヴィルフレドとも毎日会える日々になんの問題もない。寧ろ今までの生活を考えれば恵まれすぎている。ヴィルフレドはこれが当たり前だと言うが。
 仮に一つ我儘を言っていいのであれば、同学年の友人が欲しい、くらいだろうか。
 自身には分不相応な願いだと分かっている。
 呪いが本当なのか。そうであれば何がトリガーなのか。何が起こるのか。
 アロイスの中で払拭出来ない呪いは、未だ心の奥で燻っていた。

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