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侯爵家兄弟
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「君がアロイス・サクラーティ?」
不躾に声をかけられ訝しげに顔を歪める。
誰だろうか。
恥ずかしい話だが、この学園にアロイスの知り合いはいないのだ。この学園だけに限った話ではないが。
なのに、話しかけてきた男性はどこか見覚えがある顔をしている。
最近見た気がするのだが。
「アロイス・サクラーティです……あの、どこかでお会いしましたか?」
嫌味ではなく本心だ。だが相手は尊大に顔を歪めた。
「ルーベンス・ノルオンだ。わからないのか?」
いやに高圧的な態度だ。しかし名乗ったその家名にアロイスは覚えがあった。
「ノルオン…………あ、イールの……?」
「勝手に名を呼ぶとは失礼な奴だな」
ルーベンスの眉間に深い皺を刻まれる。
イールとのやり取りを知らなければ確かに無礼な者にしか見えないだろう。
「あ、すみません」
「兄様に言われなければ、誰がわざわざお前に話しかけたり」
先程からの態度とこの言葉にさすがのアロイスも察する。どうやらルーベンスには嫌われているらしい。
どうしたものかと思案するが、今生でのアロイスの対人能力は底辺と言っていい。
「ルーベンス」
「っ……兄様」
聞こえた声にパチリと瞬きをした。
ルーベンスはサッと血の気が引いている。
「イール、君の弟君は血の気が多いようだな」
明らかに不機嫌なヴィルフレドの声。表情に出ていないのは氷のリオルディ卿と言われる所以だろうか。
「ルーベンス言っただろ。アロイスはヴィルフレドの猫ちゃんだって」
大きな溜息をつきながらイールが諌めるが、ルーベンスは不満顔を隠さない。どうやらその辺は素直ではあるようだ。
「でも彼には別の噂も…」
「噂?」
ヴィルフレドの眉がぴくりと動く。
イールは呆れを浮かべながらも顔を顰めている。
「お前は確証のない噂を鵜呑みにするのか?」
「確証というなら、彼の兄が認めています」
「リーヌス兄様が……噂って」
言いなれない兄の名に、十中八九呪いのことだろうと悟る。
「彼は呪いの子だと」
矢張り。アロイスは顔を下げた。
そうだろうと予想はついても、他人の口から聞くと言葉を失ってしまう。
リーヌスが同じ学園にいる以上避けて通れないとは思っていたが、ずっと心の中に引っかかっていただけにどう行動するのが正解か困惑してしまうのだ。
「彼の兄がその噂を?」
「直接聞いた訳ではありませんが……」
イールが更に問えばルーベンスも躊躇いを見せる。
「アロイスが呪われてると言うのなら、幼少期から共に過した私は既に呪い殺されてるだろう。だが病に侵されることなく、公爵家も傾いていない。寧ろ新しい事業も成功し領地は更に潤っている」
凛としたヴィルフレドの声はきっと近くに座る者たちにも聞こえているだろう。
ちらりとした視線が刺さる。
貴族然としている時、決してヴィルフレドが大きな声を出すことはない。常に冷静で平常を保っている。もしかするとわざと聞かせているのかもしれない。
「ほら、ヴィルフレドもこう言ってる。そんな街談巷説に振り回されるようでどうする」
「……すみません」
イールに窘められ、ルーベンスの声が弱々しいものに変わる。一気にしおらしくなり、項垂れてしまった。
「謝るのは俺じゃないだろ」
「アロイス卿……申し訳ない」
「…………」
頭を下げるルーベンスに、気にしてない、と一言言えば済む話だろう。だが、アロイスは言葉に詰まった。
それで本当にいいのか。
事実として、男爵家では呪いの子として扱われてきたのだ。
真実がどうであれ、リーヌスがそう認識しているのもあながち間違いではない。
「アロイス?」
返事をしないアロイスにイールが首を傾げた。
「えっと、僕……」
ルーベンスは指摘され真摯に謝っている。それなのに、ここで事実を告げないのは卑怯ではないだろうか。
「……アロイス、おいで」
その様子を察したであろうヴィルフレドがアロイスの手を引いた。
教室から出た廊下の隅。それまでの過程を知らない生徒が好奇の目を向けている。
「話したいのか?」
眼帯の上を優しくヴィルフレドの指が撫でた。
何を、と聞くまでもなく、その行動で分かる。
怒っているわけではない。純粋にアロイスの意見を聞いてくれているのだ。
いつも自信に満ちた目が、案じるように細くなる。
「その、黙ってるのはなんか違う気がして」
ジッと青い目を見つめ返した。
「そう……なら、放課後時間を作ろう。家で話す方が色々気にしなくていいだろ」
そういうとヴィルフレドは、教室でこちらの様子を伺うイールへと声を掛けた。
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