呪いの子と公爵令息

ゆら

文字の大きさ
11 / 26

侯爵家兄弟

しおりを挟む
  
 11

「君がアロイス・サクラーティ?」

 不躾に声をかけられ訝しげに顔を歪める。
 誰だろうか。
 恥ずかしい話だが、この学園にアロイスの知り合いはいないのだ。この学園だけに限った話ではないが。
 なのに、話しかけてきた男性はどこか見覚えがある顔をしている。
 最近見た気がするのだが。

「アロイス・サクラーティです……あの、どこかでお会いしましたか?」

 嫌味ではなく本心だ。だが相手は尊大に顔を歪めた。

「ルーベンス・ノルオンだ。わからないのか?」

 いやに高圧的な態度だ。しかし名乗ったその家名にアロイスは覚えがあった。

「ノルオン…………あ、イールの……?」
「勝手に名を呼ぶとは失礼な奴だな」

 ルーベンスの眉間に深い皺を刻まれる。
 イールとのやり取りを知らなければ確かに無礼な者にしか見えないだろう。

「あ、すみません」
「兄様に言われなければ、誰がわざわざお前に話しかけたり」

 先程からの態度とこの言葉にさすがのアロイスも察する。どうやらルーベンスには嫌われているらしい。
 どうしたものかと思案するが、今生でのアロイスの対人能力は底辺と言っていい。

「ルーベンス」
「っ……兄様」

 聞こえた声にパチリと瞬きをした。
 ルーベンスはサッと血の気が引いている。

「イール、君の弟君は血の気が多いようだな」

 明らかに不機嫌なヴィルフレドの声。表情に出ていないのは氷のリオルディ卿と言われる所以だろうか。

「ルーベンス言っただろ。アロイスはヴィルフレドの猫ちゃんだって」

 大きな溜息をつきながらイールが諌めるが、ルーベンスは不満顔を隠さない。どうやらその辺は素直ではあるようだ。

「でも彼には別の噂も…」
「噂?」

 ヴィルフレドの眉がぴくりと動く。
 イールは呆れを浮かべながらも顔を顰めている。

「お前は確証のない噂を鵜呑みにするのか?」
「確証というなら、彼の兄が認めています」
「リーヌス兄様が……噂って」

 言いなれない兄の名に、十中八九呪いのことだろうと悟る。

「彼は呪いの子だと」

 矢張り。アロイスは顔を下げた。
 そうだろうと予想はついても、他人の口から聞くと言葉を失ってしまう。
 リーヌスが同じ学園にいる以上避けて通れないとは思っていたが、ずっと心の中に引っかかっていただけにどう行動するのが正解か困惑してしまうのだ。

「彼の兄がその噂を?」
「直接聞いた訳ではありませんが……」

 イールが更に問えばルーベンスも躊躇いを見せる。

「アロイスが呪われてると言うのなら、幼少期から共に過した私は既に呪い殺されてるだろう。だが病に侵されることなく、公爵家も傾いていない。寧ろ新しい事業も成功し領地は更に潤っている」

 凛としたヴィルフレドの声はきっと近くに座る者たちにも聞こえているだろう。
 ちらりとした視線が刺さる。
 貴族然としている時、決してヴィルフレドが大きな声を出すことはない。常に冷静で平常を保っている。もしかするとわざと聞かせているのかもしれない。

「ほら、ヴィルフレドもこう言ってる。そんな街談巷説に振り回されるようでどうする」
「……すみません」

 イールに窘められ、ルーベンスの声が弱々しいものに変わる。一気にしおらしくなり、項垂れてしまった。

「謝るのは俺じゃないだろ」
「アロイス卿……申し訳ない」
「…………」

 頭を下げるルーベンスに、気にしてない、と一言言えば済む話だろう。だが、アロイスは言葉に詰まった。
 それで本当にいいのか。
 事実として、男爵家では呪いの子として扱われてきたのだ。
 真実がどうであれ、リーヌスがそう認識しているのもあながち間違いではない。

「アロイス?」

 返事をしないアロイスにイールが首を傾げた。

「えっと、僕……」

 ルーベンスは指摘され真摯に謝っている。それなのに、ここで事実を告げないのは卑怯ではないだろうか。

「……アロイス、おいで」

 その様子を察したであろうヴィルフレドがアロイスの手を引いた。
 教室から出た廊下の隅。それまでの過程を知らない生徒が好奇の目を向けている。

「話したいのか?」

 眼帯の上を優しくヴィルフレドの指が撫でた。
 何を、と聞くまでもなく、その行動で分かる。
 怒っているわけではない。純粋にアロイスの意見を聞いてくれているのだ。
 いつも自信に満ちた目が、案じるように細くなる。

「その、黙ってるのはなんか違う気がして」

 ジッと青い目を見つめ返した。

「そう……なら、放課後時間を作ろう。家で話す方が色々気にしなくていいだろ」

 そういうとヴィルフレドは、教室でこちらの様子を伺うイールへと声を掛けた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

虐げられても最強な僕。白い結婚ですが、将軍閣下に溺愛されているようです。

竜鳴躍
BL
白い結婚の訳アリ将軍×訳アリ一見清楚可憐令息(嫁)。 万物には精霊が宿ると信じられ、良き魔女と悪しき魔女が存在する世界。 女神に愛されし"精霊の愛し子”青年ティア=シャワーズは、長く艶やかな夜の帳のような髪と無数の星屑が浮かんだ夜空のような深い青の瞳を持つ、美しく、性格もおとなしく控えめな男の子。 軍閥の家門であるシャワーズ侯爵家の次男に産まれた彼は、「正妻」を罠にかけ自分がその座に収まろうとした「愛妾」が生んだ息子だった。 「愛妾」とはいっても慎ましやかに母子ともに市井で生活していたが、母の死により幼少に侯爵家に引き取られた経緯がある。 そして、家族どころか使用人にさえも疎まれて育ったティアは、成人したその日に、着の身着のまま平民出身で成り上がりの将軍閣下の嫁に出された。 男同士の婚姻では子は為せない。 将軍がこれ以上力を持てないようにの王家の思惑だった。 かくしてエドワルド=ドロップ将軍夫人となったティア=ドロップ。 彼は、実は、決しておとなしくて控えめな淑男ではない。 口を開けば某術や戦略が流れ出し、固有魔法である創成魔法を駆使した流れるような剣技は、麗しき剣の舞姫のよう。 それは、侯爵の「正妻」の家系に代々受け継がれる一子相伝の戦闘術。 「ティア、君は一体…。」 「その言葉、旦那様にもお返ししますよ。エドワード=フィリップ=フォックス殿下。」 それは、魔女に人生を狂わせられた夫夫の話。 ※誤字、誤入力報告ありがとうございます!

異世界転生したと思ったら、悪役令嬢(男)だった

カイリ
BL
16年間公爵令息として何不自由ない生活を送ってきたヴィンセント。 ある日突然、前世の記憶がよみがえってきて、ここがゲームの世界であると知る。 俺、いつ死んだの?! 死んだことにも驚きが隠せないが、何より自分が転生してしまったのは悪役令嬢だった。 男なのに悪役令嬢ってどういうこと? 乙女げーのキャラクターが男女逆転してしまった世界の話です。 ゆっくり更新していく予定です。 設定等甘いかもしれませんがご容赦ください。

異世界転移された傾国顔が、アラ還宰相の幼妻になって溺愛されるまでの話

ふき
BL
異世界に転移したカナトは、成り行きでアラ還の宰相ヴァルターと結婚することになる。 戸惑いながら迎えた初夜。衝動のキス、触れあう体温――そして翌朝から距離が遠ざかった。 「じゃあ、なんでキスなんてしたんだよ」 これは、若さを理由に逃げようとするアラ還宰相を、青年が逃がさない話。 ヴァルター×カナト ※サブCPで一部、近親関係を想起させる描写があります。

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

妹の代わりにシロクマ獣人と真っ白婚!?

虎ノ威きよひ
BL
結婚相手が想像以上にシロクマでした!! 小国の王子ルカは、妹の代わりに政略結婚することになってしまった。 結婚の相手は、軍事大国の皇子のクマ獣人! どんな相手だろうと必ず良い関係を築き、諸外国に狙われやすい祖国を守ってもらう。 強い決意を胸に国を渡ったルカだったが、城の前にデンッと居たのは巨大なシロクマだった。 シロクマ獣人とは聞いていたが、初対面で獣化してるなんてことがあるのか! さすがに怯んでしまったルカに対してシロクマは紳士的な態度で、 「結婚相手のグンナルだ」 と名乗る。 人の姿でいることが少ないグンナルに混乱するルカだったが、どうやらグンナルにも事情があるようで……。 諸事情で頻繁にシロクマになってしまう寡黙な美形攻め×天真爛漫でとにかく明るい受け 2人がドタバタしながら、白い結婚から抜け出す物語 ※人の姿になったりシロクマ姿になったりする、変身タイプの獣人です。 ※Rシーンの攻めは人間です。 ※挿入無し→⭐︎ 挿入有り→★ ※初日4話更新、以降は2話更新

処理中です...