呪いの子と公爵令息

ゆら

文字の大きさ
17 / 26

第二王子と魔力鑑定の儀

しおりを挟む
  
 17

 話は少し前に遡る――。
 この学園には年に二回の休暇がある。入学後三ヶ月経った頃に二週間の春秋季休暇、そして冬の時期を迎えてから約一ヶ月の冬季休暇だ。
 そしてその二週間の休暇を迎える際、アロイスは魔力鑑定の儀を受けないかとヴィルフレドに提案されていた。
 それもこれも、あまりにアロイスの魔力コントロールが上手くいかないからなのだが。
 基礎は第一学年の時に習い、なんとか発動出来た。しかし火力が強過ぎたり、抑えようとすると発動しないなどの問題もあり、ヴィルフレドへ相談していたのだが、そこで根本的に自分の魔力について知らないことに気づいたのだ。

「あの頃のアロイスは鑑定の儀を受けれる環境になかったのだから仕方ない。王宮に上申すれば鑑定を受けることが出来るから一度受けてみたらどうだろう。もちろん強制はしないが、どちらにしろ一度王宮に行かなくてはいけない。ついでと思えばいい」
「僕だけ特別に、とかいいの?」
「そこは心配無用だ。稀だが、魔力の性質が途中で変化する者も中にはいるので、申請すれば誰でも臨時鑑定を受けることができる。そういう制度なのだから気にしなくて大丈夫だ」
「それなら……受けてみたい」



 そんな話をして数カ月。とうとう王宮で魔力鑑定の儀を受けることになった。
 10歳の時受ける魔力鑑定の儀は教会で行われるが、臨時鑑定はこの王宮で行われるらしい。受ける人数が少ない割に訳ありな場合が多いため厳重な管理の元行われるということだ。

「ここが王宮…」

 馬車の窓から眺めた先にある幾重にも聳え立つ白壁の塔。市街地から眺めることはあったが、ここまで近くに来たの初めてだ。

「いつ見ても立派だ」

 見慣れているはずのヴィルフレドも感嘆の声を上げている。
 感動している間に馬車が止まり、ルーシャンが扉を開けた。

「さぁ、降りよう」

 ヴィルフレドが馬車を降り、それに倣ってアロイスも腰を上げた。
 ステップに足を掛ける際ヴィルフレドが手を差し出してくる。それにスっと手を添えアロイスも降りた。
 このヴィルフレドの行動に今こそ慣れはしたが、初めはかなり戸惑った。
 男なのにここまでしてもらう必要があるのか、と。
 だが、馬車から降りるという慣れない動作に見事ステップを踏み外して以来、これは欠かさず行われるようになってしまった。

「お待ちしておりました、リオルディ卿」

 使用人の案内で通された豪華絢爛な部屋は王宮内にある応接間の一つらしい。
 一体どのくらいの部屋があるのか分からないが、ここに案内されるまでにもいくつもの部屋があった。
 光沢を放つ扉は彫刻が施され、パッと見どの部屋が私室でどの部屋が応接間なのか分からないほど重厚だ。

「すごいね」
「接客用の部屋だからな。うちのタウンハウスが変わってるだけで、イールの家も凄いぞ」
「そうなんだ」

 確かにリオルディ家のタウンハウスは公爵家所有の割にゴテゴテとした豪華さがある訳じゃない。品良く煌びやかさを纏っている。
 この部屋が品が無いという話ではない。アロイスにとっては公爵家の方が好みと言うだけの話だ。

「遅くなった」

 ガチャっとその重厚な扉が開く。レオナルドが颯爽と入ってくると慣れた足取りでソファへと腰を下ろした。
 普段王子として公務の手伝いをしている、そんな忙しい中時間を作ってくれたのだ。

「忙しいのにすまない」
「私とヴィルフレドの仲だろう。彼は…」

 レオナルドの青い目がチラリとアロイスに向けられた。

「紹介する。アロイスだ。今はうちで引き取っている」
「は、初めまして、アロイス・サクラーティです」

 お辞儀をすると、レオナルドの目が柔らかくなった。

「君があのサクラーティ家の……なるほど」

 なにが「あの」なのだろうか。
 含みを持たせた口調にアロイスは思わず狼狽してしまう。
 もしかすると呪いのことを知っているのだろうか。
 そんな考えに顔が強ばっていくのが分かる。

「ヴィルフレドが足繁く通っていたサクラーティ家…私と同学年の令嬢のことかと思った時期もあったが、勘違いだったな。学園内では遠目でしか見かけたことは無いが、噂通りだ」

 饒舌に話し始めるレオナルドに、アロイスは話を聞き逃さないようにするのがやっとだった。
 足繁く通っていた?
 噂通り?
 なんの事だろう。

「レオ」
「すまない」
「あ、あの…噂って」

 ヴィルフレドが窘めるように名前を呼ぶが、アロイスはなんの噂なのか気になって仕方なかった。

「ん?耳に入ってこなかったか?薄明の君とか隻眼の君とか。君の容姿を称える噂が時々聞こえてきていたが」

 中庭で令嬢たちが話していたことを思い出す。

「そ、そんな風に言われるような者じゃありません」
「なかなか謙遜深いな。そんな所がヴィルフレドは好ましかったんだろう」
「謙遜し過ぎな気もするがな。それに、アロイスはその辺の令嬢よりも素直で淑やかだぞ」

 そんな話を広げられるが、令嬢なら喜ぶような褒め言葉と自分の名が一緒に出てくるのは乖離性が強く、アロイスはなかなか飲み込めずにいた。
 たわいもない話をしていると扉からコンコンッと音がする。

「魔力鑑定の準備が整いました」



 案内された部屋は、王宮の敷地内にある神殿のような造りをした建物。
 中には神官が一人立っており、その前には大きな水晶が置かれている。
 誘導されるままその水晶の前へと立つと、神官から説明が始まった。

「この水晶に手をかざすと色が変わります。その色によって得意な属性が分かり、色の具合によって魔力量が分かります。水晶の一部しか色が変わらないこともあれば、他の宝石に変わったのかと思うほど全体が濃く染まることも」
「へぇ…」

 どうせ大したことは無いと分かっているので話半分で聞いてしまうが、見透かされたのだろう、神官がゴホンと咳払いをした。
 思わず姿勢を正してしまう。
 得意な属性というなら、やはり風魔法だろう。
 幼少期からそれだけは使えたので何となくそう思った。
 火や水は使えても上手くいかないことが多い。
 この世界の魔法は火、水、風が基本で、それ以外は無属性とされている。ラミアの癒しの力と呼ばれるものがこれにあたるが、前世の記憶を借りて言うなら光属性だろうか。

「では、水晶に手をかざし、魔力を流してください」

 ヴィルフレドが一歩後ろへ下がった。
 水晶に手を近づけ、魔法を使う時のように魔力を集中させる。

「……な!?これは…っ」
「色が二色……いや三色か?」
「え?え、なに?」

 魔力を流し始めた途端水晶の色が変わり始めた。初めは緑。次に青。そして薄らと赤に染まり始め、三色のコントラストへと変わっていった。
 色が混ざり合い、水晶全体を濃く染めていく。
 その意味がわからず戸惑うアロイスだが、ヴィルフレドとレオナルドも戸惑いの色を見せる。

「神官、これはどういうことだ!?」
「ど、どうと言われましても……ご覧の通り三色に染まり、その色が水晶全体を染めていることから出る鑑定結果は、彼が火、水、風属性を得意とし、その魔力量は強大ということです」
「そ……そんなはず無いです!僕、全然魔力をコントロール出来なくて、発動しない時もあるし」

 急かされた神官が鑑定結果を述べるが、それにアロイスは意を唱えた。

「それはコントロールの問題であって、アロイスの体内にある魔力量とは別だ。魔力は十分…いやそれ以上にあるし、この三属性なら難なく発動させられる」
「そうだね。王宮で行う鑑定は最高級の水晶を用いて行うし、神官も経験豊富だ。この鑑定結果に間違いはない。今までも魔法が全く使えなかった訳じゃないんだろう?この結果を信じていいよ」

 そう説き伏せられるとアロイスも結果を受け入れるしかない。
 三属性も使う事ができるのだ。前向きに考えれば喜ばしいことしかない。

「分かりました」
「得意な属性もわかったし、風属性と水属性はヴィルフレドが得意だから教えてもらうといい」
「はい」
「火属性はイールに頼もう。コントロールさえ身につければ王宮魔術師も夢じゃないな」
「王宮魔術師!?」

 大層な響きだが、本当に大層な身分ではある。
 王宮騎士団と並んで人気も名誉もある職だが、当然実力がないとなることは出来ない。

「そうそう。これだけの素質があれば是非なって欲しいね」
「頑張ります!」
「期待してるよ」



 王宮から戻ると早速ヴィルフレドから基本中の基本である魔力コントロールを教えてもらった。
 子供の頃は読んだ本の中途半端な知識で試していたのが悪かったのだろう。
 学園での授業も基礎を知らないまま始まったので躓いてしまっていたのだ。
 どうやら、魔力コントロールの基本は家庭で習うものらしい。通りで授業は座学だけで、実践がなかったわけだ。
 知らずに一年半も無駄にしてしまったが、これからまた覚える楽しみと、僅かな希望が増えたのは嬉しくもあった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

憎くて恋しい君にだけは、絶対会いたくなかったのに。

Q矢(Q.➽)
BL
愛する人達を守る為に、俺は戦いに出たのに。 満身創痍ながらも生き残り、帰還してみれば、とっくの昔に彼は俺を諦めていたらしい。 よし、じゃあ、もう死のうかな…から始まる転生物語。 愛しすぎて愛が枯渇してしまった俺は、もう誰も愛する気力は無い。 だから生まれ変わっても君には会いたく無いって願ったんだ。 それなのに転生先にはまんまと彼が。 でも、どっち? 判別のつかないままの二人の彼の愛と執着に溺死寸前の主人公君。 今世は幸せになりに来ました。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)
BL
第13回BL大賞 奨励賞 受賞しました。 皆さまありがとうございます。 「ねえ、私だけを見て」 これは受けを愛しすぎて様子のおかしい攻めのフィンと、攻めが気になる受けエリゼオの恋のお話です。 エリゼオは母の再婚により、義妹(いもうと)ができた。彼には前世の記憶があり、その前世の後悔から、エリゼオは今度こそ義妹を守ると誓う。そこに現れた一人の騎士、フィン。彼は何と、義妹と両想いらしい。まだ付き合えていない義妹とフィンの恋を応援しようとするエリゼオ。けれどフィンの優しさに触れ、気付けば自分がフィンを好きになってしまった。 「この恋、早く諦めなくちゃ……」 本人の思いとはうらはらに、フィンはエリゼオを放っておかない。 この恋、どうなる!? じれキュン転生ファンタジー。ハピエンです。 現在番外編を連載中。 リナルド×ガルディア。王族と近衞騎士の恋。 ――忠誠を誓った相手を、愛してはいけないと思っていた。切ない身分差、年の差の恋。恋の自覚は、相手が成人してからになります。

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結】嫁がされたと思ったら放置されたので、好きに暮らします。だから今さら構わないでください、辺境伯さま

中洲める
BL
錬金術をこよなく愛する転生者アッシュ・クロイツ。 両親の死をきっかけにクロイツ男爵領を乗っ取った伯父は、正統な後継者の僕を邪魔に思い取引相手の辺境伯へ婚約者として押し付けた。 故郷を追い出された僕が向かった先辺境グラフィカ領は、なんと薬草の楽園!!! 様々な種類の薬草が植えられた広い畑に、たくさんの未知の素材! 僕の錬金術師スイッチが入りテンションMAX! ワクワクした気持ちで屋敷に向かうと初対面を果たした婚約者、辺境伯オリバーは、「忙しいから君に構ってる暇はない。好きにしろ」と、顔も上げずに冷たく言い放つ。 うむ、好きにしていいなら好きにさせて貰おうじゃないか! 僕は屋敷を飛び出し、素材豊富なこの土地で大好きな錬金術の腕を思い切り奮う。 そうしてニ年後。 領地でいい薬を作ると評判の錬金術師となった僕と辺境伯オリバーは再び対面する。 え? 辺境伯様、僕に惚れたの? 今更でしょ。 関係ここからやり直し?できる? Rには*ついてます。 後半に色々あるので注意事項がある時は前書きに入れておきます。 ムーンライトにも同時投稿中

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる

彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。 国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。 王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。 (誤字脱字報告は不要)

処理中です...