呪いの子と公爵令息

ゆら

文字の大きさ
20 / 26

ラミアの焦り

しおりを挟む
  
 20

 第三学年へと進学し、どちらかといえば平穏な日々が過ぎていた。
 ヴィルフレドに付き纏うことが減っていたラミアも、未だレオナルドに執着しているようで、アロイスに関心のかの字も見せない。
 入学して暫くはアロイスにベッタリだったラミアの態度の変化も、周囲は学園に慣れたのだろうと興味を薄れさせていた。
 王宮へ通い始めたヴィルフレドだが、学生時代とは違い、学園が終わる時間より遅くに帰ってくる。
 二人で過ごす時間が減って寂しくなるかと思ったが、晩餐が終わると就寝前にヴィルフレドがアロイスの部屋を訪ねてくれるため杞憂に終わった。
 僅かな時間だが、それでも二人で過ごす時間が嬉しかった。
 そんなある日。
 晩餐を終え自室に戻る時だ。もう遅い時間にも関わらず、玄関ホールの方から声が聞こえてくる。

「騒がしいな」
「なんだろう?」
「ヴィルフレド様、実は…」

 二人で首を捻っていると、ルーシャンが慌てた様子でヴィルフレドの元へ来て耳打ちをした。
 見る見るうちにヴィルフレドの眉間に深い皺が刻まれる。

「どうしたの?」

 妙な胸騒ぎがした。何故かラミアの顔が脳裏を過ぎっていく。
 最近のラミアはレオナルドにベッタリとは言え攻略が上手くいっているかと言えば微妙である。肝心のヴィルフレドが全く関心を示してないからだ。
 辺境伯爵がどうなっているかは分からないが、三人の好感度が上がらないと攻略が進まなくなるため、ヴィルフレドの好感度も当然重要になってくる。
 レオナルドと仲良くなって終わりでは無いのだ。

「いいじゃないっ!ヴィルフレド様に会わせてよ!!」

 ホールの方から女性の大きな声が響いてくる。
 ラミアだ。ラミアが二人が住むこのタウンハウスへと押しかけてきたのだ。
 驚きのあまり放心するアロイスの横で、ヴィルフレドとルーシャンが呆れを含んだ驚愕の様を見せる。

「早く会わせなさいよっ!」

 怒声に似た声にアロイスはビクリと肩を竦ませた。
 騒ぎ続けるラミアに、ヴィルフレドは憤怒の表情を隠すことなく玄関へと向かっていく。アロイスも恐る恐る後を追った。

「どうしてアロイス兄様は一緒に住んで、私は一緒に住めないのよっ!?」

 エーレンフリートが対応していたようで、見当違いな八つ当たりを受けている。

「どうした」
「ヴィルフレド様ぁ!」

 ヴィルフレドが顔を見せると、それまで歪ませていた顔を一瞬で変え、ラミアが甘ったるい声を出した。

「ヴィルフレド様、私もこの家に一緒に住まわせて下さい。兄様だけずるいですわ!私ももっとヴィルフレド様と仲良くなりたいです」

 体をしならせながらヴィルフレドに縋ろうとするラミアを、エーレンフリートがサッと手を出し遮る。

「みだりに触れませんよう」
「別にいいじゃない、ちょっと触るくらい」
「婚姻前の女性が家に住まわせろと宣わったり、異性の体に触れようとするなど…男爵家の淑女教育は随分斬新なようだな。婚約者であってもそんなはしたない事を言えば貞操観念の低さに婚約解消されてもおかしくないぞ」

 明らかな嫌悪を示し、到底女性に向けるものではない顔をラミアに見せている。まるで汚物でも見ているようだ。

「なによ!私はこの世界のためを思ってやってるのに!なんでそんな事言われなきゃなんないのよッ」

 心外だと騒ぎながら、エーレンフリートに誘導されとうとうラミアは外へと追い出されてしまった。

「なんなんだ、あの女は…」

 ヴィルフレドの顔が珍しく引き攣っている。
 アロイスの前でラミアのことをあの女呼ばわりしたのも初めてだ。一応アロイスの妹として最低限の礼節を保っていたが、沸点を超えてしまったのだろう。
 だが、アロイスの頭の中はラミアの言葉でいっぱいになっていた。

『この世界のためにやってる』

 矢張りスタンピードを防ぐ為に動いているのだ。強引に押しかけてきたということは攻略に躓いているからだろう。
 だが今からヴィルフレドの好感度を上げるのはかなり困難だ。アロイスが見る限りラミアに対する好感度は底辺に等しく、今のラミアが必死に足掻けば足掻くほど下がってしまう。
 好感度を戻すためには期間を開けて冷静な立ち振る舞い見せないといけないが、既にラミアは第二学年に上がっている。スタンピードまで二年を切っているのだ。あまりにも時間が無い。
 アロイスがなにかフォローしようにも、それくらいでヴィルフレドが流されるほどヤワな意思じゃないことは重々承知だ。

(スタンピードさえ起こらなければ…)

 何かヒントがないか過去の記憶を辿るが、これといって思い出せない。第一ラミア視点でストーリーが進んでいったのだからスタンピードについても王から要請された事くらいしか記憶にない。
 歯痒さを感じながらアロイスは、ラミアが連れ出された扉を見つめた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

憎くて恋しい君にだけは、絶対会いたくなかったのに。

Q矢(Q.➽)
BL
愛する人達を守る為に、俺は戦いに出たのに。 満身創痍ながらも生き残り、帰還してみれば、とっくの昔に彼は俺を諦めていたらしい。 よし、じゃあ、もう死のうかな…から始まる転生物語。 愛しすぎて愛が枯渇してしまった俺は、もう誰も愛する気力は無い。 だから生まれ変わっても君には会いたく無いって願ったんだ。 それなのに転生先にはまんまと彼が。 でも、どっち? 判別のつかないままの二人の彼の愛と執着に溺死寸前の主人公君。 今世は幸せになりに来ました。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)
BL
第13回BL大賞 奨励賞 受賞しました。 皆さまありがとうございます。 「ねえ、私だけを見て」 これは受けを愛しすぎて様子のおかしい攻めのフィンと、攻めが気になる受けエリゼオの恋のお話です。 エリゼオは母の再婚により、義妹(いもうと)ができた。彼には前世の記憶があり、その前世の後悔から、エリゼオは今度こそ義妹を守ると誓う。そこに現れた一人の騎士、フィン。彼は何と、義妹と両想いらしい。まだ付き合えていない義妹とフィンの恋を応援しようとするエリゼオ。けれどフィンの優しさに触れ、気付けば自分がフィンを好きになってしまった。 「この恋、早く諦めなくちゃ……」 本人の思いとはうらはらに、フィンはエリゼオを放っておかない。 この恋、どうなる!? じれキュン転生ファンタジー。ハピエンです。 現在番外編を連載中。 リナルド×ガルディア。王族と近衞騎士の恋。 ――忠誠を誓った相手を、愛してはいけないと思っていた。切ない身分差、年の差の恋。恋の自覚は、相手が成人してからになります。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

【完結】嫁がされたと思ったら放置されたので、好きに暮らします。だから今さら構わないでください、辺境伯さま

中洲める
BL
錬金術をこよなく愛する転生者アッシュ・クロイツ。 両親の死をきっかけにクロイツ男爵領を乗っ取った伯父は、正統な後継者の僕を邪魔に思い取引相手の辺境伯へ婚約者として押し付けた。 故郷を追い出された僕が向かった先辺境グラフィカ領は、なんと薬草の楽園!!! 様々な種類の薬草が植えられた広い畑に、たくさんの未知の素材! 僕の錬金術師スイッチが入りテンションMAX! ワクワクした気持ちで屋敷に向かうと初対面を果たした婚約者、辺境伯オリバーは、「忙しいから君に構ってる暇はない。好きにしろ」と、顔も上げずに冷たく言い放つ。 うむ、好きにしていいなら好きにさせて貰おうじゃないか! 僕は屋敷を飛び出し、素材豊富なこの土地で大好きな錬金術の腕を思い切り奮う。 そうしてニ年後。 領地でいい薬を作ると評判の錬金術師となった僕と辺境伯オリバーは再び対面する。 え? 辺境伯様、僕に惚れたの? 今更でしょ。 関係ここからやり直し?できる? Rには*ついてます。 後半に色々あるので注意事項がある時は前書きに入れておきます。 ムーンライトにも同時投稿中

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

処理中です...