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眼帯の下
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冬季休暇を目前にした学園は浮かれた生徒たちが行き交い、休暇をどこで過ごす、何をするなどの話題で持ちきりだ。
そんな賑わいを見せる中庭でアロイスもまたルーベンスとランチをしながら休暇について話をしてた。
「ルーベンスは領地に戻るんだ」
「うん。兄様も短期間だけど休暇をもらって帰ってくるって」
「イールも忙しそうだね」
イールは希望していた通り騎士団に所属している。ヴィルフレド同様忙しいらしく、騎士団の詰め所に入り浸っているとのこと。
騎士団も魔術師団同様、第一騎士団、第二騎士団など分かれているそうだが、イールが所属となった第一騎士団は王族の警護がメインらしく、殆どを王宮で過ごしているらしい。
そんな話をしているとランチを食べ終え、教室へ戻ろうかと思った矢先。
「アロイス兄様」
感情を抑え込んだようなラミアの声に呼ばれた。
その表情は険しく、とても感情を抑えられていない。
「ラミア…?」
その表情に困惑しながらもアロイスはラミアを見つめた。
「ラミア嬢、どうかした?」
ルーベンスもその様子を不審に思ったのだろう、警戒するようにアロイスの側に立った。
最近のラミアの行動を考えれば当然かも知れない。
学園内でもチラチラとラミアの行動も問題視する噂が流れていた。特にミアと口論を皮切りに悪化の一途を辿っている。
ルーベンスの行動に苛立ちを覚えたのか、そのオレンジの瞳を細めた。
「アロイス兄様、ヴィルフレド様と婚約したと言う噂は本当ですか?」
それでも冷静に努めようとしているのだろうが、その口元はへの字を描いている。
ヴィルフレドの婚約については公爵を通じ男爵家へと伝えられた為、既にラミアも知っているものだと思ったが、ヨゼフは話さなかったのだろうか。
そんな疑問を感じながらもアロイスは頷いた。
忽ちラミアの表情が般若のように変貌していく。
「ッ……ふざけないでよっ!なんでアンタがヴィルフレドと婚約なんかしてんのよ!?」
「ラミア嬢!」
突然言動を一変させ罵声を浴びせるラミアにアロイスは竦然とし、身を竦ませた。
周囲も何事か、と騒然としている。
ルーベンスの制止も聞かずラミアはアロイスに近づくと、衆人環視の中、勢いよく眼帯を奪い取った。
「アンタなんて呪いの子のクセにっ!いつまでもしゃしゃり出てこないでよッ!!」
ラミアの手に握られた眼帯と開けた視界に、アロイスは左目が晒されたことに間をおいて気づいた。
側にいたルーベンスのパチリとした大きな目が更に見開き、アロイスを惚けたように見ている。
見られてしまった。
話はしていたが、実際に見せたことはない。それを今日、とうとう見られてしまったのだ。
「ッ!!」
瞬間、アロイスは左目を隠すように手で覆うと、その場を駆け出した。
「あっ!アロイスッ!?」
周囲がどんな反応をしているかなど怖くて確認することなど出来ない。この目に向けられる感情など、アロイスは冷たく差別的なものしか知らないのだ。
兎に角この場から逃げ出すことしか考えられなかった。
どのくらい走ったのかわからなかったが、日は暮れ始め、気づけば男爵家の古びた小屋に息を潜めていた。
二度と過ごすことがないと思って出たはずの小屋の中は、アロイスが出て行ってから誰も使っていなかったのだろう。埃に塗れ、カビの臭いがする。
この部屋でいったい何年過ごしたのか。苦い思い出が蘇ってくる。
そんな埃が溜まった部屋の奥。そこでアロイスは蹲った。
脳裏に浮かぶのは昼間の出来事。そして子供の頃の記憶。
この小屋から出ただけで短鞭で叩かれた痛みと蔑む目。思い出しただけで身を守りたい衝動に駆られ、その身を丸めた。
またあの目を向けられると思うと一歩も動けなくなってしまう。
この小屋から出たのが間違いだったのかも知れない。そんな考えが頭を占めていく。
ギィィっと錆びついた扉の音。
ギッ、ギッと軋む音に警戒するようにアロイスは顔を上げ更に息を潜ませた。
男爵家の誰かに気付かれたのか。もしヨゼフに知られたらまた折檻を受けるかも知れないと恐怖に襲われ身を竦ませた。
迷うことない足音はアロイスがいる奥の部屋へと向かって来る。
徐々に近づく足音にアロイスはビクッと肩を震わせた。
「アロイス?」
「ッ!?」
聞こえた声は聞き慣れた愛しい声。
その光景にふと既視感を覚えた。昔もこんなことがあった気がする。
あの時も不審者が入ってきたと思い息を潜めていたらヴィルフレドがいた。
「ヴィルフレド…」
「そんな所でどうしたんだ?」
あの時と一緒だ。
あの頃の支えはヴィルフレドだけだった。
今はルーベンスやイール、ルーシャン達もいるが、それでもこうして駆けつけてくれるのはヴィルフレドなのだ。
側に寄るとヴィルフレドがアロイスの手を取った。
「帰ろう、アロイス」
「僕が一緒にいると、ヴィルフレドも変な目で見られるから…」
思わずアロイスはその手を払った。
「ルーベンスから聞いた。学園のことは気にしなくていい。もしどうしても気になるなら、しばらく領地で過ごすのはどうだ?明日から冬季休暇だろう?俺も休みが取れたら領地に顔を出すし」
「だから、僕が一緒だとヴィルフレドが」
「それはアロイスが気にすることじゃない」
「気にするよッ!ヴィルフレドのことが好きなんだから、気にしないわけないじゃんッ!」
声を荒げ悲痛な表情を浮かべる。
自分が辛い目に合うのはこんな目に生まれてしまったのだから自業自得だ。だが、ヴィルフレドは違う。いつでも優しくしてくれたヴィルフレドに同じような思いをして欲しくない。
「すまない…」
そう言うとヴィルフレドはアロイスの手を掴んだ。
「いくらアロイスが望んだとしても、それだけは聞けない。言っただろう。初めて会った時からこの瞳に心奪われていると」
「ッ…」
そっと左目の下をヴィルフレドの指がなぞっていく。
「これ本当に呪いだと言うなら甘んじて受け入れよう。たとえ周囲からどれだけ反発があったとしても。それぐらいとっくに覚悟している」
「ヴィー…」
アロイスの視界が涙で滲んだ。
「帰ろう、アロイス」
掴まれた手をアロイスは握り返した。
その右手に嵌められたままの指輪をヴィルフレドが愛しそうに撫でる。
「アロイス、約束通り卒業したら結婚しよう」
ゆっくりとした動作をじっと見つめていれば、掴まれた手がヴィルフレドの口元へと引かれていく。
誓うように口付けられ、アロイスは静かに頷いた。
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