モブの薬師が精霊王に会いに行ってみたら

ゆら

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森の薬師

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 チュンチュンと鳥の囀りに目を覚まし、キィーと軋む木製の窓を開けると空を見上げる。

「今日もいい天気だなぁ」

 差し込む陽の光に目を細めながら、短い階段をタンタンタンッと小気味よく駆け降りた。二階は寝室、一階はキッチン兼ダイニングと作業スペース、そして狭くはあるが浴槽も置いている。一人暮らしにしては十分な居住だ。いや、こんな小さな家に風呂が完備してあるので十分以上かもしれない。
 キッチンに置いている瓶を手に取るとトーリは外へと出た。

「はいはい、皆おはよう」

 途端、チュン、チュン、と急かすように鳴きながら肩や頭に乗ってくる小鳥達。

「ほら、ご飯だよ」

 簡素な木製の餌台に手にした瓶から取り出した餌を置くと、一斉にその台へと飛び乗っていく。
 それを微笑ましく見ながらぐーっと背伸びをした。

「さ、僕もご飯食べよ」

 王都の外れにあるマシャールの森。その中にポツンとトーリの家はある。元々は薬師だった祖父と住んでいた家だ。その祖父もトーリが16の時他界し、もう2年が経つ。寂しさ蘇ることもあるが薬師として跡を継ぎ、時々王都の馴染みの店や医院に薬を卸しながらのんびりとした生活を送っている。

「あれ?パンも残り少ないな。そろそろ街に買い出しに行かないと。ついでに作った薬も納品して…」

 残り少ないパンと食材に気づき買い出しの予定を考える。

「はぁ……やっぱ車って便利だったよなぁ」

 ここから王都まで買い出しに行くとなると、朝から出かけ、帰るのは日が暮れる頃になる。森の中にも一応整備された道があるが、それでも王都までの往復となると徒歩では一日がかりだ。
 車があれば、と呟いたが、この世界にそんなものはない。正確には、馬車はあるがエンジンを積んだ自動車はないということだ。トーリが懐かしむ車は当然後者である。
 この世界にない物をトーリが知っているのは、前世の記憶があるためだ。
 王都の外れの森に住む薬師。この薬師はRPGゲームに出てくるキャラクターで、精霊王に会うためのヒントをくれるが、数多の名もないモブ。
 それに気づいたのは10歳の頃。祖父と一緒に王都リーラへ初めて行った時、街の名前と見覚えのある街並み、そして広場に象徴的に建てられた銅像を見た瞬間だった。
 前世の記憶を思い出したといっても断罪される悪役でもなければ旅立たなければならない勇者でもない。ただ勇者が来た時にヒントを伝える役割りをこなすだけ。つまり薬師としてこのままの生活を続ければ冒険に出ることも魔物と戦うこともなく平穏に過ごすことができるのだ。

「明日街に行くか。と、なると今日のうちに薬草を採りに行かないとな」

 足りない食材を書き出しながらトーリはパンに齧り付いた。

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