モブの薬師が精霊王に会いに行ってみたら

ゆら

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荒らされた家

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 翌日、祭りの余韻に浸る間もなく足早に帰路についた。
 街を出る時も周囲を警戒してみたが、あの妙な視線はない。
 森に入り、家が見えてくる頃には張り詰めていた緊張も解け、段々とあの視線は気の所為だったのではとすら思い始めた。
 どう考えても目をつけられる理由が思い浮かばないのだ。もし作った薬に対する苦情なら卸し先のペール先生や店の店主から話があるはずだ。
 うんうん、とひとり納得しながら帰り着いた玄関の扉を勢いよく開いた。
「ただいまー」と開いた口をそのままに、目を見開いて止まる。心臓が、ドクドクッ、と忙しなく鳴り、背中に嫌な汗が流れた。

「トーリッ!」

 途端、スイハの腕が後ろから伸びる。そして目の前に広がる蛮行から守るように腕の中へと閉じ込めた。

「なんだコレ!?」
「空き巣…にしては手荒すぎるし、やり方が杜撰だよね」
「……周囲に人の気配は無い……が、念の為周囲を見回って欲しい、ライアン」
「わ、わかった!」

 スイハの言葉に駆け出したライアンを見送ると、家の中へと視線を戻す。何かを探すように荒らされた家の中は玩具箱をひっくり返したように物が散乱していた。壁や床についた傷に背筋がゾクッとする。

「……犯人は逃げたあとみたいだね」

 ぐるりと家の中を見て回ったニコの言葉に、怖々と中へと足を踏み入れた。
 一体何が目的だったのか。食料は荒らされたためか多少傷んでいるが持ち去った形跡はない。仕事道具や薬草も散乱していたが取られたものはないようだ。

「外の足跡は森の中に消えている。追ってもいいが、草木に紛れた足跡を探しながらとなると……結構時間がかかるだろうな」

 戻ってきたライアンが外の様子を伝えてくれるが、恐怖と混乱に支配されたトーリの頭はろくに働きもせず返事をしてしまう。

「と……取られた物もないし…、ただの空き巣だろうし」

 バクつく心臓を抑えながら必死に口角を上げてみせた。
 取られた物もないし、少し荒らされただけ。そう自分に言い聞かせ、気丈に振る舞うが、ショックな気持ちは消えない。
 前世なんて平和な日本に生まれ、事件どころか事故にすら巻き込まれたことがない。耐性なんてあるはずがない。だからだろう。心の中は不安でいっぱいなのに、自分の身にそんなたいそうな事件が起こるはずないと、現状を理解することを脳が回避しようとしている。

「ただの空き巣って……こんなに荒らされて許せるわけないだろ!」
「コレは立派な犯罪だよ。昨日の視線だってそう。トーリは怖い思いをしたんだから、強がる必要なんてない」

 ライアンとニコの言葉に息が詰まった。
 深く考えないようにしていたのも、一種の防衛反応だったのかもしれない。感じた恐怖心は当然だと言われたことで、堰を切ったように涙が次から次へと流れた。


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