12 / 27
荒らされた家
しおりを挟む翌日、祭りの余韻に浸る間もなく足早に帰路についた。
街を出る時も周囲を警戒してみたが、あの妙な視線はない。
森に入り、家が見えてくる頃には張り詰めていた緊張も解け、段々とあの視線は気の所為だったのではとすら思い始めた。
どう考えても目をつけられる理由が思い浮かばないのだ。もし作った薬に対する苦情なら卸し先のペール先生や店の店主から話があるはずだ。
うんうん、とひとり納得しながら帰り着いた玄関の扉を勢いよく開いた。
「ただいまー」と開いた口をそのままに、目を見開いて止まる。心臓が、ドクドクッ、と忙しなく鳴り、背中に嫌な汗が流れた。
「トーリッ!」
途端、スイハの腕が後ろから伸びる。そして目の前に広がる蛮行から守るように腕の中へと閉じ込めた。
「なんだコレ!?」
「空き巣…にしては手荒すぎるし、やり方が杜撰だよね」
「……周囲に人の気配は無い……が、念の為周囲を見回って欲しい、ライアン」
「わ、わかった!」
スイハの言葉に駆け出したライアンを見送ると、家の中へと視線を戻す。何かを探すように荒らされた家の中は玩具箱をひっくり返したように物が散乱していた。壁や床についた傷に背筋がゾクッとする。
「……犯人は逃げたあとみたいだね」
ぐるりと家の中を見て回ったニコの言葉に、怖々と中へと足を踏み入れた。
一体何が目的だったのか。食料は荒らされたためか多少傷んでいるが持ち去った形跡はない。仕事道具や薬草も散乱していたが取られたものはないようだ。
「外の足跡は森の中に消えている。追ってもいいが、草木に紛れた足跡を探しながらとなると……結構時間がかかるだろうな」
戻ってきたライアンが外の様子を伝えてくれるが、恐怖と混乱に支配されたトーリの頭はろくに働きもせず返事をしてしまう。
「と……取られた物もないし…、ただの空き巣だろうし」
バクつく心臓を抑えながら必死に口角を上げてみせた。
取られた物もないし、少し荒らされただけ。そう自分に言い聞かせ、気丈に振る舞うが、ショックな気持ちは消えない。
前世なんて平和な日本に生まれ、事件どころか事故にすら巻き込まれたことがない。耐性なんてあるはずがない。だからだろう。心の中は不安でいっぱいなのに、自分の身にそんなたいそうな事件が起こるはずないと、現状を理解することを脳が回避しようとしている。
「ただの空き巣って……こんなに荒らされて許せるわけないだろ!」
「コレは立派な犯罪だよ。昨日の視線だってそう。トーリは怖い思いをしたんだから、強がる必要なんてない」
ライアンとニコの言葉に息が詰まった。
深く考えないようにしていたのも、一種の防衛反応だったのかもしれない。感じた恐怖心は当然だと言われたことで、堰を切ったように涙が次から次へと流れた。
41
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
英雄の溺愛と執着
AzureHaru
BL
転生した世界は前世でどハマりしたBLゲーム。最推しは攻略対象!ではなく、攻略対象達の剣術の師匠である、英雄の将軍閣下。メチャクチャイケオジでドストライクだった主人公はこのイケオジみたさにゲームをやっていた。その為に、ゲームの内容など微塵も覚えていなかった。
転生したからには将軍閣下を生でみないとというファン根性で付きまとう。
付き纏われていることに気づいていた将軍だか、自分に向けられる視線が他とは違う純粋な好意しかなかったため、戸惑いながらも心地よく感じていた。
あの時までは‥。
主人公は気づいていなかったが、自分達にかけらも興味を持たないことに攻略対象者達は興味をそそられ、次第に執着していく。そのことにいち早く気づいたのは剣術指南役の将軍のみ。将軍はその光景をみて、自分の中に徐々に独占欲が芽生えていくのを感じた。
そして戸惑う、自分と主人公は親子ほどに歳が離れているのにこの感情はなんなのだと。
そして、将軍が自分の気持ちを認めた時、壮絶な溺愛、執着がはじまる。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
泥酔している間に愛人契約されていたんだが
暮田呉子
BL
泥酔していた夜、目を覚ましたら――【愛人契約書】にサインしていた。
黒髪の青年公爵レナード・フォン・ディアセント。
かつて嫡外子として疎まれ、戦場に送られた彼は、己の命を救った傭兵グレイを「女避けの盾」として雇う。
だが、片腕を失ったその男こそ、レナードの心を動かした唯一の存在だった。
元部下の冷徹な公爵と、酒に溺れる片腕の傭兵。
交わした契約の中で、二人の距離は少しずつ近づいていくが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる