モブの薬師が精霊王に会いに行ってみたら

ゆら

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視線

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「アレ食べてみたい!あ、あっちもいいなぁ」

 漂ってくる食欲を唆る香りに、活気のある声。ずらりと並ぶ屋台に目移りする。

「食べたいものを食べるといい」
「そうそう。滅多にない祭りだからな」

 そう言われてしまえば祭りの雰囲気に気分も上がり、焼き串、チーズを挟んだベーグルにワッフル。ホットワインで体を温めながら色んなものを食べ歩いた。

「そろそろメイン通りだな。パレードも始まってるみたいだ」
「あの豪華な馬車に乗ってるのがロイス殿下だよ」
「へぇ、初めて見た」

 人混みから覗けばロイヤルブルーに身を包んだ青年の長い金髪がチラリと見える。そして中央広場で馬車を降りるとステージの上に立った。

「私の生誕に多くの人が集まってくれたこと、心より嬉しく思う。此度隣国シーミュ帝国への進軍を国王より仰せつかった。皆も知っての通り、シーミュは押し寄せる魔物の対応で手一杯の状態だ。この与えられた好機に乗らない手はない。国民の皆には穏やかに生活ができるよう尽力していく」

 ロイスのスピーチに市民も「おお!」と歓声を上げて盛り上がっている。

「ロイス殿下、バンザーイ!」
「うわッ」

 勢いよく腕を上げる市民の手がトーリにぶつかった。瞬間、被っていたフードがふわっと外れてしまう。

「え!?トーリ、どうしたんだその頭!?」
「え?……あ、これはスイハが」

 トーリの淡い青い髪。この辺りでは珍しいと言われることが多いその髪をスイハの魔法で赤茶へと変えられていた。スイハの独占欲に辟易としてしまうだろうが、それで安心できるならと素直に受け入れた。

「そこまでする必要あるのか?」

 首を捻るライアンの脇をニコが小突く。

「馬に蹴られたくないなら、ッ!?」

 ニコが言葉の途中でステージの方へと振り向いた。
 スイハもステージ側を睨むように視線を向けている。
 どこからかはわからない。だがねっとりと絡むような視線にトーリほ背筋がゾクッとなった。
 人が集まりごった返した広場。その視線の主を探すが見つけるのは困難だ。
 どうしてそんな視線を向けられるのかわからないが、震える手でサッとフードを戻す。

「スピーチももう終わる。帰ろう」

 スイハの手がそっと頭を包んだ。その温かさに安堵し手の震えが治まる。
 スイハの袖口をきゅっと握るとコクンッと静かに頷いた。



 宿に戻ってから警戒するライアンとニコが室内を確認し、ようやく部屋へと入り息を吐く。

「外にも妙な気配は無い」

 カーテンを閉めるスイハの言葉に緊張の糸が切れ、トーリはベッドに沈みこんだ。

「念の為ドアに防御魔法かけておくから、ゆっくり休んで」
「俺達は隣の部屋だから何かあればすぐ気づけるからな」
「ありがとう」

 そう返すと軽く手を上げ2人は部屋を出ていった。
 今日のことは忘れよう。そう思いベッドに潜り込むと、トーリのベッドがギシッと軋んだ。

「トーリ……大丈夫だ。私がいる」

 ベッドに腰掛けたスイハが、安心させるようにゆっくりとトーリの頭を撫でる。
 その心地良さに目を閉じるが、祭りの時の視線が蘇りぎゅっと布団を掴んだ。
 誰が。なんのために。
 もしかすると今まで作った薬で誰かに恨みを買ってしまったのだろうか。
 考えてもわからない。ぐるぐる思考ばかりが回る。
 布ズレの音にスイハの手が離れてしまったことに気づく。スイハも自分のベッドに入ったのだろう。
 もぞりと身じろいだ。
 いつも隣で眠っていたスイハが隣にいないだけなのに寂寥感に襲われ落ち着かない。
 トーリは布団を抜け出し、隣に並ぶベッドの横に立った。

「……スイハ」
「……ん?」

 小さな声で名前を呼ぶ。
 一緒に寝て。
 それだけ言えばいいだけなのに、その一言が出てこない。何度も言葉にしようと口を動かすが、心臓がドキドキと鳴るだけで言葉にできない。
 ズボンを握り締め、手持ち無沙汰にもじもじしていると、スイハが布団を捲った。
 どこか嬉しそうに微笑みながら、トーリが眠れるようスペースを空けてくれる。

「…ぁりがと」

 赤くなる顔を俯かせながら隣に潜り込むと、ふわりと腕に包まれた。

「おやすみ」

 頬に柔らかく口付けられ、吃りながら小さく「おやすみ」と返すことしか出来なかった。


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