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妖精
しおりを挟む「それにしても……ここまで手荒にするなんて…」
「多分、王族が従える影を使ったんだろうね。表に出せないような任務を与えられる暗部があるって聞いたことがある」
「でも、これはなぁ…」
荒れに荒れた室内を見てライアンは訝しげに眉を寄せている。
「狙ってますって言ってるようなもんだ。普通対象には気づかれないように近づくはずだろ?」
「それもそうだね……」
ニコが考えるように顎に手を置く。
他にも何か理由があるということだろうか。正直スイハの話だけでもキャパオーバーだ。
よく見れば壁や床についた傷は剣などの刃物でついたものとは違って見えた。剣術など習ったことはないが、薪割りで斧くらい使っている。その断面はもっとスパッと切れていた。だがこの傷の切り口は粗く、ささくれだっている。
映画やドラマで見た特殊部隊的なものが暗部なら、もっとスマートにしそうなものだが。
その時、バサバサッと羽音が森に響いた。
何事かと慌てて窓から外を覗く。
警戒するライアン達を他所に、スイハだけは冷静に扉を開いた。そこから何かが勢いよく飛び込んでスイハにしがみついた。
手の平くらいの大きさで透き通った緑の羽根が広がっている。バッと顔を上げたそれは、人間の見た目をしていた。
「森の妖精、アルセイスだ」
「妖精!?初めて見た…」
「精霊王ッ!お待ちしておりました!」
ぐしゃぐしゃにした顔でスイハを見上げ、幼い声が家に響く。
うわぁ、と感嘆しながら妖精を見る。ジロジロとしたトーリの視線にも気を害した様子はなく、それどころではないようだ。
「俺も初めて妖精見た……スイハ様って本当に精霊王なんだな。それにしても、何があったんだ?」
ライアンとニコも興味深そうに妖精を見ている。
その中でスイハだけが張り詰めた空気を崩さなかった。
「話しなさい」
冷静な声に妖精が慌てた様子で宙を羽ばたく。
「少し前、この家に怪しい奴らがやってきたんです!黒い服に身を包んだ3人の男で、驚かせば出ていくかと思って物を飛ばしたりしたんですけど逆に暴れ始めてしまって」
その3人の男というのが王族の命令でやってきた暗部なのだろう。突然のことに驚いた男達は対抗し家が現状のようになってしまった、ということだろうか。
だとすれば男達はどこへ行ったのか。
何の成果も得ず森へ逃げたと言うことだろうか。そんな胆力で暗部が務まるとは思えないが。
「それで、男達はどうした」
「僕達じゃ手に負えないと思って、ドリュアスに協力してもらったんです」
「樹木の妖精か……なら、今頃は迷いの森の中だな」
「はい、でもいつまで持つか……アイツら魔力強いから誘い込んでもすぐ出口に気づいてしまって。今はニンフの幻覚で何とか閉じ込められてるけど……」
「男達はなにか話していたか?」
「えっと……なんか、トーリを捕まえるって。だから僕達慌てちゃって」
家の中が荒れていた理由に僅かばかり安堵するが、元凶の解決には至っていない。この国にいればまた何度でもトーリは狙われることになる。
「トーリの安全を考えるなら、この国を出た方がいい」
低く、しかし揺るぎのない声でスイハが言った。
「……確かに。このままこの国にいても、常に周囲を警戒しながら生きることになるからね」
ニコが同意すると、ライアンも静かに頷いている。
ラゴ王国の外に出れば、どの国でも魔物の脅威は避けられない。だが、比較的魔物の少ない土地も存在する。西の辺境のように、人の手が届きにくい代わりに被害の少ない地域もあるのだ。
「シーミュも……今は魔物の討伐に追われているが、時期が来れば落ち着く。暗部の存在に気づいたと知られれば、国境を封鎖されてもおかしくない。急いで国を出るんだ」
そう言われ、トーリは黙って荷物をまとめた。
正直慣れた土地を離れることに割り切れない気持ちもある。だが、だからと言ってトーリの身を案じる気持ちを無下にもできない。
いつか事態が落ち着いた時、また帰ってくることが出来れば。
そんな名残惜しさを感じながら家を出た。
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