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別れ
しおりを挟む夜明け前の国境へ向かう道は慌ただしかった。検問所では人の出入りが激しく、兵士たちも落ち着かない様子で行き交っている。どうやら交代の時間帯らしい。
──今が好機だ。
「行こう」
交代の時間帯は、検問がどうしても緩くなる。意を決して検問所へと足を踏み出した。
そのとき、背後から名を呼ばれた。
振り向くと、少し離れた場所にスイハが立っていた。
「どうしたの?急がないと……」
そう言いかけたトーリの言葉を、スイハは静かに遮る。
「……私は、一緒に行くことができない」
「なに、言ってるの……?そんな冗談、言うキャラじゃないじゃん」
「そうだぜ、ここまで来といて」
冗談だと笑い飛ばそうとしても、スイハの表情は変わらなかった。
「外は、瘴気が多すぎるのだ」
「……どういうこと?」
戸惑うトーリになにか察したようにライアンとニコは口を開いた。
「この国は魔物が少ないだろう?せいぜい西の辺境に、時折現れる程度だ。だが一歩外へ出れば、あちらこちらに魔物がいる」
「僕達が勇者と旅に出た時この魔物の多さに手を焼いてね。それで精霊王の加護を受けようって事で一度国に戻ってきたんだ」
二人の言葉にスイハは目を伏せ、ゆっくりと言葉を選ぶように続けた。
「この国に魔物が少ないのは、瘴気が浄化されているからだ。その浄化の力は、この国を覆う障壁に施された魔法によって留められている。だが国境の外に出れば、瘴気は溢れ、澱み……精霊が住めないほどになっている」
胸が締めつけられた。
戦だ魔物討伐だ、と耳にしても、外がどんな環境なのか知りもしなかった。
だからといってここでスイハを、置いていくなんてできない。
簡単に「はい、そうですか。じゃあさようなら」と切り捨てられるほど薄情ではないのだ。
「瘴気がこの国にまで及ぶのではないかと危惧した国王は魔王討伐を決断したんだ……だから」
ニコの言葉に息を飲む。
国外は魔物で大変な状況だ。今までのようにのんびりと生活できる保証なんてない。それでも、この国に残れば、いずれもっと過酷な運命が待っている。
それでもどうにかならないのかとスイハを見つめた。
「帝国は、きっと手を貸してくれるだろう。そして……私の加護が、必ずトーリを守る」
スイハはそう言うと、静かにトーリのフードを外した。額が、トーリの額にそっと触れる。
その瞬間、ぱぁっと視界が明るく弾け、トーリの髪色が黒へと変わった。
その変化に戸惑う暇もなく、強く、きつく抱きしめられる。
澄んだ森の香り。
スイハの匂いに包まれ、心臓が激しく脈打つ。
──今のうちに、早く。
スイハは視線だけでライアンに合図を送った。
名残を惜しむ暇もなく、ライアンに腕を引かれ、トーリは検問所を抜ける。
「スイハ……!」
振り返った先で、スイハは優しく、けれどどこか寂しげに微笑んでいた。
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