モブの薬師が精霊王に会いに行ってみたら

ゆら

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浄化の力

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 スイハと別れ、ライアンたちの手引きで向かったのはシーミュ帝国。
 ラゴ国と接する森の奥。そこに朽ちかけた廃屋を見つけ、しばらくの拠点とすることになった。
 廃屋といっても雨風は凌げるし、寝床もある。ニコの洗浄魔法である程度綺麗になったし、周囲は薬の材料になる薬草も多い。まるで住んでた家と変わらないような環境に一も二もなく決めた。



 家を出る前のスイハとのやり取りが脳裏に浮かぶ。

『トーリには、母である聖女の力が継承されている』

 自分の中にそんなものがあるなんて、まだ実感はない。

『今はうまく使えないだろうが、コツを掴めば必ず使えるはずだ。……このペンダントの水晶に、聖女の力が込められている』

 スイハかふーっと息を吹きかけると、いつも無機質な水晶が、どこか温かく感じた。
 不思議に思い手を伸ばすと、指が触れた瞬間、ぶわぁっとなにか不思議な感覚が体の奥に湧き出た。それがぐるぐると体を巡る。

『トーリが願えば、必ず力を貸してくれる。まぁ、慣れるまでコントロールが大変だろうが……まずは水を浄化してみるといい』

 ──願う。

『いつも通りのトーリでいれば、必ずできる』



 スイハの教えを思い出しながら、水瓶を探す。出来れば大きものがいいと、ライアンに頼み、納屋から見つけ出した水瓶に、近くの泉で水を汲んだ。

「うーん……濁ってるなぁ」
「場所によっては綺麗な水もあるが、この辺は山がないから難しいな。だが、この泉も湧き水なら飲めないことはない。一度沸かす必要はあるが」
「そっか……まぁ、浄化の練習にはいっか」

 水をじっと眺める。
 浄化すると言ってもやり方などわからない。

「願うってどうするんだ?」

 ライアンに視線を送るが、さっぱりと言った様子で両手を上げている。

「リリスはあんまりしてなかったからなぁ。というか、魔物と戦う時も後方からショーマを応援するばかりだったし」
「何だ、それ」

 それでよく勇者パーティに入れたものだと関心と呆れが混ざった溜め息を吐いた。
 うーん、と腕を組んで首を捻る。
 前世では、聖女といえば指を組む形で手を合わせて祈るシーンが多かった。教会でもよくそんなシーンを見たし、トーリ自身もどこかでそんなことをしたような……。
 ──そうだ、思い出した。
 妖精の森だ。そこに入るため、石碑に手を合わせていた。
 教会での祈りを意識してやっていたが、あれでもいいのでは?

「……やってみるか」

 水晶を包むように、そっと手を合わせる。いつものように、自然の恵みに感謝するように祈った。
 すると、ぱぁっと、水晶が淡く光った。

「……え?」

 慌てて瓶を覗き込む。
 濁っていた水は、まるで湧き水のように澄み切っていた。

「できた……」
「おおっ!すごいな!」

 胸が高鳴る。
 思わず振り返り、いつものように声を上げかけた。

「できたよ、ス――」

 言葉が途中で止まる。そこにいたのはライアンだけで、風の囁きのような声も、隣に立つ気配もない。
 浄化は成功したのに、胸の奥が空っぽになる。
 喜びを分かち合いたい相手が、いない。
 目を伏せ、澄んだ水を見つめる。
 王国を出て、まだ数日しか経っていない。
 それなのに、たったそれだけで、こんなにも――。

「……会いたい」

 ぽつりと零れた本音に、自分で驚いた。
 スイハの柔らかい笑顔、どこか甘えるような仕草、風のように寄り添う存在。
 ──スイハに会いたい。
 その想いのまま、無意識に水晶を強く握りしめた。
 すると、一瞬にして視界が白に染まる。

「トーリ」

 聞き慣れた声。その声に胸が跳ね上がった。

「……スイハ?」

 光の中、風が形を成すように、彼がそこに立っていた。
 最後に見た時と変わらない、少し寂しげな笑みで。

「あー……俺はニコを手伝ってくるな」

 空気を読んだライアンがひらりと背を向けた。


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