17 / 27
愛の言葉
しおりを挟む「上手くいったみたいだな」
トーリは思わず前に出る。
触れたいのに、触れたら消えてしまいそうで、足が止まる。
「……もう、会えないかと思った」
「私が愛し子から離れるはずない。ただ……」
スイハはそっと、トーリの額に指を伸ばす。
触れた瞬間、温かさが伝わった。
「……浄化されていない場所に長く居られない」
スイハの言葉に、胸がきゅっと締め付けられる。
「じゃあ……ここには、いられないってこと?」
「正確には、この水から離れられない」
スイハは静かに水瓶へ視線を落とした。
淡く光を宿した水面の上。その僅かなスペースだけがスイハの顕現できる場所だという。
「この辺りは空気の澱みが酷い。人には感じにくいが、精霊にとっては毒のようなものだ。浄化された水を媒体にして、こうして顕現するのが限界だ」
そう言って、苦笑する。
「……一緒には住めない、ってことか」
言葉にした瞬間、それが現実として重くのしかかった。
せっかく再会できたのに、触れられる距離にいるのに、同じ場所にはいられない。
「すまない」
「謝らないでよ」
思わず強い口調になってしまい、トーリは唇を噛む。
「スイハが悪いわけじゃない。……それに、こうして会えただけで嬉しい」
本心だった。
会えただけで、胸の空洞が少しだけ満たされた気がする。
スイハは一瞬、目を細めたあと、ふっと表情を引き締めた。
「……伝えておくべきことがある」
空気が変わる。
スイハは水面に指を落とし、波紋を広げた。ゆらゆらと揺れる水面に薄らと映像が浮かぶ。
「闇妖精たちから情報が入った。勇者はすでに魔王城へ辿り着いている」
「え……そんなに早く?」
「だが、四天王に手を焼いていて、魔王に行き着くにはまだまだだ」
トーリは安堵とも不安ともつかない息を吐いた。
終わりが見えない戦い。けれど、確実にストーリーは進んでいる。
「王国の暗部は?」
「迷いの森からは抜けたが、妖精の森には辿り着くことができないだろう。戦を仕掛けるにもあてにしてた人質は既に王国にはいないからな。……少なくとも、今のトーリは安全だ」
その言葉に、ほっと肩の力が抜ける。
だが同時に、胸に小さな棘が刺さった。
「……じゃあ、スイハは?」
問いかけると、スイハは困ったように笑った。
「今は、一緒に“住む”ことは出来ない」
「……っ」
分かっていたはずなのに、改めて突きつけられると苦しい。
「そんな顔をするな」
酷い顔をしているのだろう。それでも言葉にできない感情を隠すことができない。
「僕が……僕がこの森を浄化すれば、スイハも一緒に住めるんだよね」
「ああ。だが、無理をして欲しくないのも本音だ」
風が、やさしく包み込む。まるでスイハに包まれてるみたいだ。
「無理なんかじゃない……。絶対この森を浄化して、またスイハと一緒に住めるようにするから!」
一瞬、風が強く揺れた。
水面の光が、少しだけ強くなる。
「……ずるいな、その言い方」
スイハの姿が、ゆっくりと淡くなっていく。
「スイハ!?」
「すまない、空気の澱みに耐えきれなくなったようだ」
「っ、今度もっと長くいるいられるようにするから!」
最後に、確かに視線が絡み合った。
淡くなっていくスイハの顔が近づき、トーリの唇にスイハのそれが触れた。
「愛してる、トーリ」
その言葉を残し、風が静かに揺れた。水瓶の中には、澄んだ水だけが残っている。
トーリは唇に手を当て、静かに息を吐いた。
「……愛してる、って」
初めての言葉に頬が赤くなるのを感じた。
32
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
英雄の溺愛と執着
AzureHaru
BL
転生した世界は前世でどハマりしたBLゲーム。最推しは攻略対象!ではなく、攻略対象達の剣術の師匠である、英雄の将軍閣下。メチャクチャイケオジでドストライクだった主人公はこのイケオジみたさにゲームをやっていた。その為に、ゲームの内容など微塵も覚えていなかった。
転生したからには将軍閣下を生でみないとというファン根性で付きまとう。
付き纏われていることに気づいていた将軍だか、自分に向けられる視線が他とは違う純粋な好意しかなかったため、戸惑いながらも心地よく感じていた。
あの時までは‥。
主人公は気づいていなかったが、自分達にかけらも興味を持たないことに攻略対象者達は興味をそそられ、次第に執着していく。そのことにいち早く気づいたのは剣術指南役の将軍のみ。将軍はその光景をみて、自分の中に徐々に独占欲が芽生えていくのを感じた。
そして戸惑う、自分と主人公は親子ほどに歳が離れているのにこの感情はなんなのだと。
そして、将軍が自分の気持ちを認めた時、壮絶な溺愛、執着がはじまる。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
泥酔している間に愛人契約されていたんだが
暮田呉子
BL
泥酔していた夜、目を覚ましたら――【愛人契約書】にサインしていた。
黒髪の青年公爵レナード・フォン・ディアセント。
かつて嫡外子として疎まれ、戦場に送られた彼は、己の命を救った傭兵グレイを「女避けの盾」として雇う。
だが、片腕を失ったその男こそ、レナードの心を動かした唯一の存在だった。
元部下の冷徹な公爵と、酒に溺れる片腕の傭兵。
交わした契約の中で、二人の距離は少しずつ近づいていくが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる