モブの薬師が精霊王に会いに行ってみたら

ゆら

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愛の言葉

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「上手くいったみたいだな」

 トーリは思わず前に出る。
 触れたいのに、触れたら消えてしまいそうで、足が止まる。

「……もう、会えないかと思った」
「私が愛し子から離れるはずない。ただ……」

 スイハはそっと、トーリの額に指を伸ばす。
 触れた瞬間、温かさが伝わった。

「……浄化されていない場所に長く居られない」

 スイハの言葉に、胸がきゅっと締め付けられる。

「じゃあ……ここには、いられないってこと?」
「正確には、この水から離れられない」

 スイハは静かに水瓶へ視線を落とした。
 淡く光を宿した水面の上。その僅かなスペースだけがスイハの顕現できる場所だという。

「この辺りは空気の澱みが酷い。人には感じにくいが、精霊にとっては毒のようなものだ。浄化された水を媒体にして、こうして顕現するのが限界だ」

 そう言って、苦笑する。

「……一緒には住めない、ってことか」

 言葉にした瞬間、それが現実として重くのしかかった。
 せっかく再会できたのに、触れられる距離にいるのに、同じ場所にはいられない。

「すまない」
「謝らないでよ」

 思わず強い口調になってしまい、トーリは唇を噛む。

「スイハが悪いわけじゃない。……それに、こうして会えただけで嬉しい」

 本心だった。
 会えただけで、胸の空洞が少しだけ満たされた気がする。
 スイハは一瞬、目を細めたあと、ふっと表情を引き締めた。

「……伝えておくべきことがある」

 空気が変わる。
 スイハは水面に指を落とし、波紋を広げた。ゆらゆらと揺れる水面に薄らと映像が浮かぶ。

「闇妖精たちから情報が入った。勇者はすでに魔王城へ辿り着いている」
「え……そんなに早く?」
「だが、四天王に手を焼いていて、魔王に行き着くにはまだまだだ」

 トーリは安堵とも不安ともつかない息を吐いた。
 終わりが見えない戦い。けれど、確実にストーリーは進んでいる。

「王国の暗部は?」
「迷いの森からは抜けたが、妖精の森には辿り着くことができないだろう。戦を仕掛けるにもあてにしてた人質は既に王国にはいないからな。……少なくとも、今のトーリは安全だ」

 その言葉に、ほっと肩の力が抜ける。
 だが同時に、胸に小さな棘が刺さった。

「……じゃあ、スイハは?」

 問いかけると、スイハは困ったように笑った。

「今は、一緒に“住む”ことは出来ない」
「……っ」

 分かっていたはずなのに、改めて突きつけられると苦しい。

「そんな顔をするな」

 酷い顔をしているのだろう。それでも言葉にできない感情を隠すことができない。

「僕が……僕がこの森を浄化すれば、スイハも一緒に住めるんだよね」
「ああ。だが、無理をして欲しくないのも本音だ」

 風が、やさしく包み込む。まるでスイハに包まれてるみたいだ。

「無理なんかじゃない……。絶対この森を浄化して、またスイハと一緒に住めるようにするから!」

 一瞬、風が強く揺れた。
 水面の光が、少しだけ強くなる。

「……ずるいな、その言い方」

 スイハの姿が、ゆっくりと淡くなっていく。

「スイハ!?」
「すまない、空気の澱みに耐えきれなくなったようだ」
「っ、今度もっと長くいるいられるようにするから!」

 最後に、確かに視線が絡み合った。
 淡くなっていくスイハの顔が近づき、トーリの唇にスイハのそれが触れた。

「愛してる、トーリ」

 その言葉を残し、風が静かに揺れた。水瓶の中には、澄んだ水だけが残っている。
 トーリは唇に手を当て、静かに息を吐いた。

「……愛してる、って」

 初めての言葉に頬が赤くなるのを感じた。

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