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皇都の奇跡
しおりを挟む翌日、皇城を辞した帰り道。
外は相変わらず活気に乏しい。街路樹は葉が落ち、幹も枯れかかっている。
「精霊の国、か……」
道は整備されているが、自然が少ない。そんな印象だ。
この国が元に戻ればいいのに。
そうすれば、スイハだって今も隣に座ることができたはずだ。
もう市街地も終端か、と窓の外をぼんやり眺めていると、ふと建物が目に入った。
「と、止まって!」
トーリは慌てて馬車を止めさせる。
「……ここに、寄ってもいい?」
石彫の像に建物の柱には蔦を模した彫刻。
それは、かつて精霊が祀られていた神殿だった。
今は信仰が薄れ、管理も最低限。
けれど、石造りの神殿には確かにその名残があった。
ライアンは少し迷ったが、止めなかった。
「はあ……短時間ならな」
「おや……礼拝ですか?珍しいですね」
白いローブを身に纏った神父が物珍しそうな顔を見せる。
「来る人って少ないんですか?」
「妖精が姿を見せなくなって十数年……今でも礼拝に来るのは年寄りばかりですよ。若い人は魔物討伐に駆り出され、街中も寂しくなりました」
「そうなんですか……」
神殿の中はシーンと静まり返っている。
綺麗に並べられた椅子。奥には祭壇と神々しい精霊像。どこかスイハに似ている。
祭壇の前、トーリはただ静かに祈った。
国のためでも、皇族のためでもない。──スイハのために。
この地に満ちる瘴気が薄れれば、スイハはもっと自由に動ける。
それだけを願って。
その瞬間だった。
空気が澄み、光が満ちる。
神殿から、皇都全体へ──波紋のように浄化が広がった。
その日のうちに、異変は報告された。
皇都の瘴気が消え、魔物の気配が途絶えた。枯れていた草木が息を吹き返し、寒期にも関わらずその葉は凛としている。
「……奇跡だ」
「聖女が戻ったのか?」
民の間では、瞬く間に噂が広がっていった。
そして、それを好機と動いたのは宰相だった。
再び訪れることになった謁見の場。
玉座に座るハウエルの目は、どこか希望に満ちている。
「本当にラナの力を引き継いでいるのだな。こんなにも皇都の空気が澄んでいるのはどの位ぶりだろうか……あの日──ラナがいなくなってから、本当に……」
言葉を詰まらせ、その目に薄っすらと涙が滲む。
少し離れた場所で宰相が深々と頭を下げた。
「トーリ殿。この奇跡は、帝国にとって希望です」
一見、敬意に満ちた態度。
「ですが、皇都だけでは足りません。各地に残る瘴気、荒れた土地、苦しむ民……どうか、帝国全土の浄化にお力をお貸しください」
一見、国を思う宰相としての言葉。反論など思いつきもしない言い方だった。
もしこれを拒めば、民を見捨てる皇族の血。
その反感は父である皇帝や、母であり聖女であるラナに向けられるだろう。
そんな一瞬の躊躇いを見抜いたのだろう。宰相が決定的な一言を添える。
「精霊の力が戻れば、精霊王も再び自由に動けるでしょう」
互いに利しかないと微笑むその目は、本心を隠すように細められていた。
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