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偶然か謀略か
しおりを挟む「次の領地に向かう道が崩れていると情報が入りました。今、別のルートを検討中ですが、今日はここで休ませてもらいます」
護衛騎士の一人がそう告げた。
浄化後、次の土地へすぐ出発する予定だったが、とんだ足止めだ。
トーリは、胸元の水晶に触れる。
いや、ここまでが順調すぎるほどだった。
皇都の浄化、民の歓声、宰相の丁重な態度。
あまりに、整いすぎている。
「……嫌な予感がする」
妙な胸騒ぎに小さく呟くと、ライアンが視線を向けた。
「俺もだ」
護衛の配置。
巡回の間隔。
何かが、微妙にずれている気がする。
思い出すのは旅立つ前、皇都で交わしたスイハとの会話。
月明かりの中現れたスイハ。
「罠だ」
森がざわめくような低い声に、トーリは表情を固くした。
「だとしても……浄化をすれば、スイハだって、もっと自由にいろんな所に行ける」
静かに答えた。反発するつもりなど毛頭ない。ただ、スイハと一緒にいたいだけだ。
「私のために、命を危険に晒して欲しくない」
その怒りと恐怖が混った声に、トーリはそっと微笑んだ。
「スイハと、一緒にいるためだよ」
その一言でスイハは言葉を失い、諦めたように小さく呟いた。
「……必ず、帰ってこい」
明確な理由は聞いていない。だが疑念を持つ程度の違和感を、ずっと拭えずにいた。
夜半も過ぎた頃。
風が止み、虫の声が遠くなる。
念の為、と聖堂に貼られた護符がふわりと捲れた。張り巡らされた結界が微かに揺らぐ。
パキッと乾いた音が静寂に響いた。
「……?」
トーリが目を覚ました瞬間、胸元の水晶が強く熱を帯びた。
「トーリ、起きろ!」
ライアンの声と同時に、空気が裂ける。同時に、結界が崩れた。
濃い瘴気が一気に流れ込み、闇の中、赤い目が幾つも灯る。
「魔物……!?」
瞬時に悟るが、数が異様だ。偶然集まったにしては多すぎる。
「護符は!? 結界はどうした!」
騎士が叫ぶが、それに対して誰も答えなかった。
誰かが口にした疑問に答える余裕などないとわかっているのだ。
そして──魔物が聖堂へと雪崩れ込んで来た。
それぞれが剣を構え、禍々しい赤い目を睨みつける。
「オークにゴブリン……はわかるけど、サンドワームなんて、砂漠の魔物がなんでこんな所に……」
眉間に寄せた皺をさらに深くしながらライアンが呟く。
確かに農村が多く砂漠とは無縁の場所。そんな所になぜ砂漠に生息する魔物がいるのか。
思案する間も一触即発の空気は変わらない。
──グォォォオッ!
その空気を切ったのは魔物の咆哮だった。
一斉に駆け出し、その距離が縮まっていく。
その勢いに森で対峙した時のことが頭に過ぎった。
「ファイアボール!」
ニコの魔法が容赦なく魔物を燃やす。
続いて、ライアンの剣が魔物を切った。
騎士たちが奮起を表す喚声を上げれば、魔物も雄叫びを返している。
剣と魔物の拳がぶつかる音。周囲はあっという間に戦場へ変わった。
立ち竦んでる場合じゃない。
頭を振って嫌な思い出を振り払う。震える足を鼓舞し、しっかりと地面を踏みしめた。
「下がって!」
叫びながら水晶を握りしめる。
──スイハ。
こんな所で終わる訳にはいかない。
脳裏に過ぎるのはスイハとの事。
一緒に過ごした日々。
人生で言えばわずかの時間だが、ひとりで過ごす毎日に明るさを取り戻してくれた大切な人。
スイハとの、その日々を取り戻したい。
握りしめた水晶に魔力を込める。刹那、トーリを中心に白と緑の光が交錯し始めた。その光が一気に広がっていく。
光に触れた魔物が、悲鳴を上げて消え去っていった。
「ま、魔物が……消えた」
「……助かった、のか?」
脅威が消えたと、安堵したのも束の間。
「……っ」
トーリは膝から崩れ落ちた。
瘴気の浄化に続き、魔物の殲滅。魔力を使いすぎたのだ。
「トーリ!」
ライアンが支えるが、トーリの視界はグラグラと揺れたまま。
まだ、終わらない。
外にはまだ魔物の気配が残っている。
庇うようにトーリの前にニコが立つ。
「……まずい」
誰かの呟きが静かに響いた。
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