モブの薬師が精霊王に会いに行ってみたら

ゆら

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旅立ちの決意

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「陛下に、お話したいことがあります」

 使用人にそう告げると、間もなくしてハウエルの執務室へと呼ばれた。

「で、話とは?もしや、皇族に入ることを決めてくれたか?」

 どこか期待に満ちた目。どうやら諦めていなかったらしい。

「いえ、僕には身に余ることですので」
「そんなことはない。育ちがどうであれ、私の子であることは変わらないのだから」
「……僕は、旅に出たいと思います」

 ハウエルの言葉に、これからの自身の身の振りで返した。
 隅から隅まで精霊のことについて調べ、出した答えだ。

「……そうか」

 驚くことなく、静かな声。予想の範疇だったのだろう。
 頷きながら、トーリはじっとハウエルへ視線を向けた。

「精霊の事について調べました。瘴気から魔物が生まれるように、自然界にある生命エネルギーから精霊は誕生する。そして、人々の信仰心によって、その力が増すということも」
「そうだ。……だから精霊信仰に熱心な我が国には、嘗て、精霊が溢れていたのだ。もちろん、瘴気を浄化出来る聖女の存在も大きかったが……」

 どこか懐かしそうに、寂しそうに、ハウエルは窓の外を見た。

「他国は信仰心は薄れると共に瘴気が増し、魔物が闊歩するようになった。反対に、浄化されたこの国には、精霊が集まるようになったのだ。とても豊かになったが、ラナが……儚くなってからは、また瘴気が湧きはじめた……。国民が魔物に怯え、信仰心が薄れると、他国のように魔物が増え始めたのだ」

 つまり、瘴気が消えれば自然が増え、精霊が生まれるための生命エネルギーが溜まっていく。それは、スイハが力を取り戻すということだ。

「……スイハのために、この瘴気に汚染された土地を浄化していきたいんです」
「……そんな所まで、ラナにそっくりだな」
「え?」

 小さく落とされた言葉を聞き返すが、ハウエルは「いや」と返すだけだった。



 旅立ちは、とても静かだった。
 派手な見送りも、号令もない。
 「せめて私直属の騎士を」という、ハウエルの申し出も断った。
 これは帝国からの依頼ではなく、トーリの旅なのだ。
 必要最低限の荷と、仲間であるライアンとニコ。
 そして、胸元で揺れる水晶。それはスイハがら姿を消してから淡い緑へと色を変えていた。
 門番の敬礼を静かに受けながら、皇都の門を潜る。
 遠く、城の自室からハウエルが視線を向けていたが、トーリは振り返らなかった。

「……怖くないか」

 隣で歩くライアンが、ぽつりと尋ねる。

「ん……少し」

 トーリは正直に答えた。

「でも……やらなきゃって思ったんだ」

 それは義務感ではない。
 誰かに強いられたものでもない。
 ただスイハを取り戻したい。トーリのエゴだ。
 その想いだけで、足は前へと進んだ。


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