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不思議な令嬢
しおりを挟む空は快晴。薄雲が所々広がって日差しも心地いい。
「んー、いい天気」
入学式を終えたユリウス・アイルは、これから迎える学園生活に胸を躍らせ敷地内を散策していた。
今日は閉まっていたが、食堂、図書室と校舎内を歩いた後ガゼボを見つけ、その鼻先にある花畑に笑みを漏らした。
「いいな此処。気に入ったかも」
「ユーリが好きそうな場所だな」
穏やかな空気に和んでいると声を掛けられる。幼馴染のローレンツ・ノヴァーリスだ。
「うん、好き」
「知ってる。まだ見て回るのか?」
素直に頷けば、ローレンツがふっと笑みを漏らした。
ローレンツは辺境伯家の嫡男として日々鍛錬に励み、優しくて正義感に溢れている。
辺境伯と言えば、辺境に住んでると言うだけで令嬢たちは野蛮だとか田舎者だと口にするが、実際の辺境伯領は王都から遠いと言うだけで街中は活気に溢れ王都と遜色ない。
ただ大きな鉱山を有し、主要産業が鉱石産業ということもあってなかなか血気盛んな領民性でもある。
当のローレンツも鍛錬中は血の気が多い気もするが、普段は優しく、見た目も野蛮な感じはなく洗練されている。
「中庭見たら帰ろうかな」
「なら、先に馬車で待ってる。変な奴について行くなよ」
「わかってる」
普段は辺境伯領であるノヴァーリスに住んでるローレンツも今日からこの学園の生徒だ。王都のタウンハウスから通うことになっている。
そういうユリウスも住んでいる領地は王都とノヴァーリス領の間にあるため、学園に通う間はタウンハウス住まいだ。
心配性のローレンツの提案で、学園への登下校はローレンツの送迎付きになってしまった。両親もそれが当然とばかりに了承していたのは納得いかないが。
ガゼボからの眺めを満喫し中庭へと足を運ぶ。
広い中庭にはいくつかのベンチと中心に噴水があった。
「えぇぇぇ!?」
「……?」
手入れの行き届いた樹木に感嘆の声を上げそうになったところで誰かの声に意識を攫われた。
視線を向ければ噴水の前で叫ぶ令嬢の姿。
「やばいやばい!ここ本当にルイチル学園じゃん!マジやばい!てか、私ガチでカロリーナじゃん!」
令嬢らしくない口調。だが懐かしい話し口調は覚えがある。
この世界に生まれてからは聞き馴染みがないその言葉達はまるで違う世界から来たようだ。
ユリウスは興味を引かれ、その令嬢へと足を向けた。
令嬢はユリウスの気配に気づくことなくまだ独り言を続けている。
「はぁ……ここがルイチル学園なら、ランスもいるってことだよね。え、もしかしてあの人にも会えるんじゃ!?きゃーどうしよ!」
興奮冷めやらぬ様子で噴水を覗き込んだその時、令嬢が足元にあった石に躓いた。
「危ないッ」
咄嗟に差し伸ばした手で令嬢を掴む。なんとか噴水に落ちるという難は逃れたが、顔を上げた令嬢は不思議そうな顔を向けていた。
「え、なんで?てか…え、ランスは?ここ噴水じゃん」
「大丈夫ですか?」
1人ブツブツと話す令嬢が体勢を整えたのを確認し手を離す。それでも令嬢は何かに気を取られた様にコロコロと表情を変え、ユリウスの声は届いていないようだ。
「じゃあ、僕はこれで…」
興味を引かれつつも深く関わるのは難があるかもしれない。そう思いユリウスは軽く会釈すると踵を返した。
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