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疑念
しおりを挟むランチを終わらせ、ローレンツと並んで中庭を散歩をする。
今日も天気に恵まれ快晴だ。
この世界には前世のような冬はない。一年を通し比較的温暖な日が多く、夏の時期を省けばとても過ごしやすい気候だ。
「いい天気だね」
「そうだな。今日は風もあるし訓練も捗るだろう」
軽く背伸びをしながら笑顔を見せるローレンツ。
学園卒業後は領地での国境警備が待っている。入学後も訓練の手は抜いていないようで、学校が終わるとその手に剣を握って鍛錬に励んでいた。
あまりにも熱心すぎて婚期を逃してしまわないか心配なくらいだ。相手さえ選ばなければ選り取りみどりだろうに。
ユリウスにも今のところ婚約者はいない。
「学園でいい人が見つかるといいな」
そんな両親の優しさもあって婚約者はユリウスの意向を汲んでくれることになっている。
前世では自分の意思は関係なく両親の意向に沿うことが全てだった。今とは大違いだ。
優しい両親の気持ちに答えたいと思う反面、見つかるだろうかという不安もある。オメガにしては背が高く、庇護欲を唆られるかといえば……自己評価ではノーだ。
一方ローレンツはアルファでいろんな令嬢から懇意にしたいと熱い視線を向けられてるが、色恋沙汰には興味が無いのかそんな素振りすら見せない。
だがローレンツは辺境伯爵家の嫡男であるため結婚は必須だ。それなのに今だ婚約者を決めていない。この学園生活で相手を見つけることは重要課題の一つだろうが、今のところその積極性も見られない。常にユリウスの隣にいるのだ。
花を送る相手でも見つければ、と嫌味っぽく言えば、ユリウスに送ってくるくらいだ。
剣術を磨くことしか考えてないのかもしれない。
「いい人は見つかりそう?」
「どうだろうな」
いつものお節介で問いかけるが見事はぐらかされてしまう。
前からそうだ。ローレンツはこういうところがある。
本音を見せないというか、ユリウス以外に心を開かないというか。
別に他の貴族と交流がないわけではない。
リベルラ公爵家のアレクシスやランベリン侯爵家のジェークとも付き合いがあるし、辺境伯爵家ということもあり王太子であるランスとも面識がある。ただ、その付き合いが表面的というだけの話だ。
「あ、ローレンツとユリウス!?」
突然名前を呼ばれ足を止める。
声がした方に視線を向ければ先程噂の的になっていた令嬢がいた。自己紹介などした覚えは無いが、相手はどうやら知っているようだ。
食堂で耳に入った話だと男爵家の令嬢らしいが、パーティなどで出会った記憶は無い。
ローレンツが有名なのはわかる。王都に滞在することが少なくてもアルファとその見目は有名だしモテる。
だがユリウスが令嬢達に興味を持たれる要素など無いに等しいのだ。
どうやら男のオメガは女性には人気がない。爵位を持った家に生まれても、家督を継ぐのはアルファが優先となることが多い。それは能力的に仕方ないことだ。
勿論オメガの当主もいはするが、少数派だ。
「誰だ?」
「さっき食堂にランス王子と来てた令嬢だよ」
「ああ、アレか」
どうやら興味がなかったらしい。だとしてもさっきの今で忘れているとは思いもしなかった。
「ローレンツだぁ!ユリウスは入学式の日に会ったよね。覚えてる?」
上目遣いで親しげに話しかける姿に知り合いだったかと錯覚しそうになるが、ローレンツの眉間の皺に勘違いだと察する。
「噴水に落ちそうになってた方ですよね」
「覚えててくれたんだ!嬉しい!私、この学園に入学したばかりでまだ友達いないんだよね。仲良くしてくれると嬉しいな」
「こちらこそ」
「ローレンツもよろしくね」
組んだ手を頬の横に添え、首を傾げる姿は愛らしいと思う。小柄で庇護欲をそそるのに、どこか求心力がある。
「失礼、レディ。名前をお聞きしても?」
眉間の皺を貼り付けた笑顔で隠し、ローレンツが令嬢にお辞儀を見せた。
馴れ馴れしい令嬢の態度に警戒をみせる。
首輪を嵌めてることから、令嬢はオメガなのだろう。アルファであるローレンツが警戒するのもわかる。
辺境の地ということを除けば辺境伯家は侯爵家の次に地位が高い。野蛮だと避ける令嬢もいる中その夫人の座を狙う者も当然いて、ローレンツの容姿に擦り寄る者もいたという。特に幼い頃は手篭めにしようと画策した者もいたらしい。
「私はあさ…じゃなかった、カロリーナ・サハラ」
「カロリーナ嬢……どこかでお会いしましたか?」
「え、えっとね、確か本当なら入学式の日にローレンツとは裏庭で会うはずだったんだよね。で、ユリウスはガゼボで。でもなんでか中庭で会ったのよね。おかしいなぁ……」
砕けた独特の口調は貴族らしさがない。
初めて会った日もそうだった。
それに、本当ならとはどういうことだろうか。
次々と疑問が湧き、カロリーナにも何かしら記憶があるのではないかと疑念に変わっていく。
「今日もここで会うはずじゃなかったし、本当ならランスと……まぁ、ストーリーも365日あった訳じゃないからなぁ」
ここで会うはずがないと先見の明でもあるような独り言が続き、ストーリーという言葉に引っかかる。
一体どういうことだろうか。
もっと話してを聞いてみたいと身を乗り出したところでローレンツに制される。
「ではカロリーナ嬢、私たちはこれで」
貼り付けた笑顔のままに見えるが、僅かに眉がピクついている。どうやらこのエンカウントはローレンツにとって不快のようだ。
クルッと体の向きを変えられると、ローレンツの腕が腰に回される。
「ロ、ロー?」
「行くよ、ユーリ」
回された腕に促され、中庭を後にした。
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