18 / 48
忘れた記憶
しおりを挟む夏季休暇はあっという間に終わり、学園生活が始まった。
夏季休暇前、たまに1人で過ごすことがあったせいか時々アルファから声をかけられる。
「アイル卿、一緒にランチでもどうだろう」
「天気もいいし、テラスで一緒にお茶でも」
「あの、」
「ユーリは俺とランチの約束をしている。遠慮願おう」
1人になったタイミングで声を掛けられては、その度ローレンツが間に入って断りを入れる。それの繰り返しだ。
「ほら、ユーリ行くぞ」
当然のように手を握りカフェテリアへと攫われる。
家柄故か、ローレンツの気迫に屈してか知らないが、執拗に後を追って来るものはいない。
「ありがと、ロー。おかげで助かった」
「ああいう輩はハッキリ言わないと付け入ろうとするからな。これからも気をつけろよ」
「あれ?ユリウス、今日もノヴァーリス卿と一緒かい?」
訂正する。一部を除いては、だ。
ダニエルだけはどんなにローレンツが間に入っても幾度となく声をかけてくる。
「ユーリは今から俺とランチに向かうところだ」
「ノヴァーリス卿もいい加減過保護をやめては?ユリウスの出会いをこれからも阻むおつもりで?」
「変な虫はつかないに越したことはないからな。アイル卿より任された事だ」
ツキンッと胸が痛んだ。
父親から頼まれたのであればローレンツが拒むことなど出来なかったであろう。
だがこのままローレンツに守られていいのだろうか。
自分にばかり構っていてはローレンツも出会いを逃してしまう。
「さぁ、ユーリ行こう」
湧いた迷いに戸惑いながらも、引かれた手を離すことが出来なかった。
教員に呼ばれたローレンツに「絶対誰にもついてしかないように」と念を押されたユリウスは、1人の時間をどう過ごそうかといつものガゼボへと足を運んだ。
穴場なのか、ここで人に会うことは無い。
カロリーナによると攻略対象であるユリウスと会うための場所だからではないか、ということだが、それなら他の攻略対象と会う場所も穴場スポットになってしまう。ランスと会う中庭に関しては生徒がゴロゴロいるような場所だ。そんな所で会っては愛を育む前に悪目立ちしてしまうだろうに。
なんであれ、ここが穴場なのには変わりない。
これだけ人がいないと考え事をするにも最適だ。
ベンチに腰掛け空を見上げる。今日も変わらずの快晴。
こんな空を前にしても、浮かぶのはローレンツの顔ばかり。
自身の性がオメガであるということに関係なく、ローレンツに抱く好意に抵抗は全くない。
前世でも同性が恋愛対象であった故かどうかはわからないが。かと言って同性であれば誰でもいい訳でもない。
バース性が存在するこの世界においては男性体か女性体か、それすらも好みの範疇に思える。
ユリウスで言えば女性体よりも男性体が好みということになる。次いで好みの顔を聞かれればローレンツと答えるだろう。性格ならば正義感が強く、勇敢で優しい人。そして、自分だけを愛してくれる人。
考えれば考えるほど、ローレンツにばかり当てはまる。
好みだからローレンツが好きなのか、ローレンツが好きだから好みがそうなったのかはわからない。気づいた時にはローレンツ以上に気になる人はいなかった。
「だからって、告白なんて出来ないし……」
振られること前提に告白したとして、その後があまりに気まずすぎる。親同士仲がいいのも問題だ。距離を置こうにも必ず関わることになる。
前世なら親同士仲が良くても子供同士はそこまで、ということはあったし、周りにもそういう友人がいた。
だが貴族はどうやら、家同士の繋がりを大切にするらしい。結婚も家同士の結び付きを強めるためする貴族も多い。
アイル家とノヴァーリス家も先代からの繋がりとは言え、未だに年に数回パーティや茶会で互いの領地を訪ねたり、避暑地へバカンスへ出かけることもある。
振られた後にもこの関係が続くかと思うと……せめて立ち直るまでは距離を置きたい。
視線を落とせばガゼボから見渡せる花畑。そこをぼんやりと眺めた。
「綺麗だな…」
子供の頃遊び回った庭にもこんな花畑があった。
大人が噂話や世間話、近況を話す中飽きたとばかりに庭を駆け回り、そこで──そこで?
藤色が風に揺れる中、何かあった気がする。
何か大事なことが。
47
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
悪役令嬢の兄に転生!破滅フラグ回避でスローライフを目指すはずが、氷の騎士に溺愛されてます
水凪しおん
BL
三十代半ばの平凡な会社員だった俺は、ある日、乙女ゲーム『君と紡ぐ光の協奏曲』の世界に転生した。
しかも、最推しの悪役令嬢リリアナの兄、アシェルとして。
このままでは妹は断罪され、一家は没落、俺は処刑される運命だ。
そんな未来は絶対に回避しなくてはならない。
俺の夢は、穏やかなスローライフを送ること。ゲームの知識を駆使して妹を心優しい少女に育て上げ、次々と破滅フラグをへし折っていく。
順調に進むスローライフ計画だったが、関わると面倒な攻略対象、「氷の騎士」サイラスになぜか興味を持たれてしまった。
家庭菜園にまで現れる彼に困惑する俺。
だがそれはやがて、国を揺るがす陰謀と、甘く激しい恋の始まりを告げる序曲に過ぎなかった――。
【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。
処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。
なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、
婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・
やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように
仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・
と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ーーーーーーーー
この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に
加筆修正を加えたものです。
リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、
あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。
展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
ーーーー
校正・文体の調整に生成AIを利用しています。
異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした
うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。
獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。
怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。
「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」
戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。
獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。
第一章 完結
第二章 完結
第三章 完結
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる