バーチャル配信者のオレがガチ恋!?炎上不可避

ゆら

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本編

優勝は…

  
 37

「ユウくん大丈夫?」
「すみません、予備のマウスを」
「動いた!?」
「狼谷さんも反応無いから心配した」
「すみません」

 いつの間にか敷波も戻ったのだろう、イヤホン越しに声が聞こえる。

「っ…はい!」
「よかった」

 いつもより硬かった声が安堵したものに変わった。

「おお、よかったぁ!運営にも連絡入れとくね」
「すみません、のの先輩」
「大丈夫大丈夫!今8位だけど、ポイント差的にまだ全然優勝を狙えるから」

 [おお!ユウ復活!]
 [ナイス!]
 [よかった!最終マッチ頑張って!!]

 コメント欄も暖かく応援してくれている。

「うん、まだ優勝狙えるよ。最後は…ののさんとハルトくんのフィジカル活かしてキルムーブに切り替えよう。多分他のチームもポイント欲しさにキルムーブ仕掛けてくるとこ出てくると思うけど、2人なら対面絶対負けないし、ユウくん本当にエイム良いから漁夫警戒しながら1歩下がった位置でカバー。でも詰める時は丁寧に。報告大事だからね、みんな声出してこ!」
「はい!」

 コーチのアドバイスもあり、最終試合はよりポイントを意識したムーブへ変更することになった。
 マウスの握り心地を何度も確かめながら、最終マッチへと挑む。

「俺左警戒するから、ユウは右見てて」
「了解」
「ののさん崖下に1パーティー」
「行こう。ユウくんウルト貯まってる?」
「ウルトいけます!」
「じゃあ私があの岩の所まで行ったらウルト投げて。狼谷さんも一緒に詰めて欲しい」
「オッケーです。ユウウルト投げたら後ろからカバー頼む」
「わかった!」

 作戦が上手く噛み合い、最終マッチで念願のチャンピオンを取ることが出来た。
 あとはポイントがどれくらい取れたかで優勝出来るかが決まる。
 第4マッチが終わった時点で1位との差は19ポイント。
 その差をどれくらい詰めることが出来たのか。
 公式配信で順位が発表されていく。
 それを4人で見守った。
 ポイント計算をしてくれたのだろう、コーチが「これ絶対優勝!」と声が明るい。

「3位は53ポイントで幾波チーム!2位は55ポイント、久多良木チーム!そして優勝は…脅威の61ポイント!匡希ののチーム!!機材の不具合で4戦目は2人での参戦となりましたが、最終マッチに間に合い見事チャンピオン!逆転優勝をもぎ取りました!」

 配信から聞こえる結果に息が詰まりそうになる。
 ――よかった…本当によかった。
 指先から力が抜け、画面に映し出される3人の顔が滲んで見えない。

「っ!優勝だーーーっ」

 匡希が聞いた事のない声で叫んだ。

「やった!ユウ、優勝だっ!」
「本当?本当に優勝……?」

 現実のはずなのにどこか夢のようで、乖離感に見舞われる。

「優勝だよ!!皆ナイス!!よかった……本当によかった!」
「ユウくん優勝優勝!ホント、ありがとうね!」
「優勝だよ。ユウ本当に練習頑張ったもんな」

 優勝の連呼にじわじわと実感が湧き始めた。

 [おめでとう!]
 [このチームを応援出来て良かった!]

 コメントの温かさにじんわりと指先に熱が行き渡り、握ったマウスの感覚がいつもと違うことを思い出す。

「っ……オレ、ホント申し訳なくって…でも、どうしても優勝したくてっ」
「俺も。ユウと一緒に優勝したかった」
「ぅ…う、っ」

 堪らず嗚咽が漏れ出た。
 敷波がいてくれなかったら最後の試合にすら参加出来なかったし、仮に匡希と敷波が2人で出てチャンピオンを取って優勝していたとしても、応援することしか出来なかった筬島は心から喜ぶことが出来なかったはずだ。

「っ……っハルトがいて、よかった」

 途切れ途切れになった筬島の言葉に、敷波が「うん」と小さく返した。

「では、優勝チームにインタビューをしたいと思います。リーダーの匡希さん、優勝おめでとうございます」

 VCルームを移動し、司会者と大会主催者からインタビューを受ける。

「ありがとうございます」
「全試合通してどうでしたか?」
「2人ともすごくいい子で、最後まで空気感よく戦えました。狼谷さんがユウくんの動向を逐一チェックしてくれて、色んな意味で助かりました。このメンバーで優勝出来て本当に嬉しいです」
「えー…そうですか。あまり深堀りしたくない部分もありましたが…」
「え、深く…掘る!?」
「ま、匡希さん匡希さーん!優勝して興奮してるのは解るけど、癖出てるから!司会を困らせないで」

 主催者のライバーが慌てて匡希を諌める。
 今まで抑えていたオタクの片鱗が顔を出してしまった。
 興奮のあまりタガが外れてしまったのだろう。
 些細なことさえ自身の妄想に結びつけてしまう程、自制が効かなくなっているようだ。

「でもここでハルユウが如何に尊いかを」
「事務所から怒られる前にやめましょう!狼谷さん、試合振り返ってみてどうでしたか?」

 匡希言葉を遮り、んんっと喉を鳴らすと司会は落ち着いた声に戻しインタビューを続けた。
 そこはさすがプロ、と感心してしまう。

「このチームでどうしても優勝したかったんで、本当によかったです」
「最後のキルムーブ、凄かったですね。全マッチ中最多キルのようでしたが」
「最終試合はコーチがキルムーブを提案してくれたんですけど、3戦目でユウが動けなくなってから積極的にキル取っていこうとは思ってました」
「4試合目、2人での参戦となりましたが大きく順位を落とさなかったのはそういう意気込みがあったんですね。最多キル賞も狙えそうです。では邑楽さん、機材の不具合があったそうですが無事最終マッチ間に合いましたね」
「っ、はい゛…オレのせいで2人に迷惑かけてしまって、本当申し訳なくってっ、でもハルトさんがマウスくれて」

 涙に声を詰まらせながらも必死に言葉を紡ぐ。

「ん?狼谷さんからマウス?」
「あ、」
「俺が前あげてたんです」

 しまった、と失言に言葉を詰まらせるが、敷波がすかさずフォローを入れてくれた。

「え、私聞いてない!今日ユウくんが戻れたのって狼谷さんのマウスのおかげ…てことは、てぇてぇ絆のおかげ!?」
「えー…普段から仲がいいってことですね」

 匡希のオタクが再び顔を出し、司会の苦笑いが伝わってくるが、上手く言葉を選び躱している。

「は、はい!オレが1番下手なのに2人とも呆れることなく練習にも付き合ってくれて、コーチもわかりやすく教えてくれて…このチームで優勝出来て本当に良かったです!」
「邑楽くん頑張ってたもんね。俺も結構スクリムで見てたよ。素直だから教えがいありそうだなって」
「あ、ありがとうございます!」

 主催者の言葉に思わず顔が綻んだ。

「匡希チームの皆さん、逆境からの優勝、本当におめでとうございます!それでは最多キル賞の発表に移りたいと思います。最多キル賞は……25キルを叩き出した狼谷ハルトさんです!!これは過去最高のキル数となりました!」
「いやーこれは本当に凄い。彼もうマスター扱い出来ないですよ」
「本当に凄かったですね!僕プロが参加する大会で解説することもあるんですが、なかなか見ないムーブしてました」

 [狼谷凄かった!]
 [最後の13キルがエグい]
 [プレを狩るマスターってバグってる]

 本配信では主催者もコメントも賞賛の声を上げている。
 VCも当然大盛り上がりだ。
 熱気を残したまま大会が終了し、筬島達も配信を終える。
 優勝の喜びに浸りながら後日みんなでお疲れ様会をしようという話になり通話を終えた。
 パソコンの電源を落とし、ぼんやりと天井を見つめる。
 ただ室内灯が光るだけの何も無い天井。
 しかし筬島よ頭の中では先刻までの事がありありと浮かび、何度も何度も再生されている。
 唐突に襲ってくる寂寥感にスマホを握ると、メッセージを送った。

【起きてる?】
【起きてるよ】

 すぐさま返ってきたメッセージに考えていた言葉を打ち込む。

【今から行っていい?】
【鍵渡してるんだから、いつでも来ていいよ】

 その文字を見ただけで部屋を飛び出した。
 もう日付も変わろうという時間なのに、外はむわりとした熱気が残っている。
 向かうは8階。
 鍵を開け玄関を上がる。
 リビングには探す姿が見つからない。
 どうやらお風呂に入っているようだ。
 勝手に入って気まずく思っていると、脱衣場のドアが開いた。

「ん?早かったね」
「う、うん、ごめん」

 髪を拭きながら出てきた敷波は上半身裸のままだ。
 何となく漂う色気に視線を彷徨わせる。
 男同士何を気にするのかと思うが、好きな人の裸を見てドキドキしない人はいないだろう。
 ――待って、ドキドキしてる?
 自身にはそんな欲ないと思っていたのに。
 チラリと覗き見るように視線を向ける。
 水を飲む姿に再びドキリとする。
 ――やばいかも。
 自身の思考が今まで考えなかったようなものに染まっていくのがわかった。

「今日楽しかったね」
「へぁ?あ、うん!優勝できたし…和奏さんのおかげ」

 スエットを着ながら敷波が近づいてくる。
 それだけの動作なのに動悸が止まらない。

「どうかしたの?」
「あ、今日の、お礼言いたくて…」
「気にしないで、俺がしたくてした事だから」

 そう微笑む敷波の顔は慈愛で満ちていた。

「今回は俺が助けてあげられてよかった」

 嬉しそうに頬を緩めている。
 脳裏に浮かぶのは剣城とのこと。
 あの時悔しそうに表情を歪めていた敷波の顔が忘れられない。

「っ…うん」

 頷くことしか出来ないのは、嬉しすぎて言葉に出来ないからだ。
 敷波がそっと腕を回し、温まった体が筬島の体を包む。
 頬に敷波の唇が触れる感触がし、筬島は自身の顔が紅潮していくのがわかった。
 チュッと小さなリップ音をたてて離れた唇。
 額以外にキスされるのは初めてだ。
 先程から心臓が激しく鼓動している。

「泊まってく?」

 なんで…などの疑問を浮かべる間もなく、敷波の腕の中で素直に頷いていた。
 初めて泊まる敷波の部屋。
 ベッドからは敷波の匂いがした。

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