冒険者ギルドの受付嬢と女性冒険者を愉しむ異世界奇行

鎔ゆう

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Sid.49 町の外に暴虐の存在

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 保留。としておいた。
 今すぐ首都に向かうわけでは無い。翌月には少し遠出をすることもあるからな。

「トールから見れば、実力が不足してるのは分かってる」
「でも、経験を積んでこそ実力は身に付くと思う」
「私も魔法の威力は弱いです。ですが役立つ魔法を覚えれば」

 往復十日間の護衛の旅は成長に繋がるだろうとも。
 だからひとりで行くなと。まあ離れたくないのだろうが、身軽なのはひとりで、なんだよなあ。ぞろぞろ着いて来られても、本当に足手纏いになる場合もある。
 この体のスペックが異様に高いのもあるし。クリスタの言うように人間離れしてる、と言えそうだけどな。
 まあ文句が出て喚く三人だが、次の依頼の際に判断するとしておいた。

 夕方になりアニタの部屋で暫し寛ぐと、帰ってくるアニタが居て以降は、まあいつも通りの日課だな。子どもが欲しいとなれば、迎え入れるアニタも気合が入るようだ。
 何度も貪られるし空気しか出ない状態にされた。
 ベッドで仰向けになり天井を見つめる。暗いから天井のシミなんて見えないけどな。隣で俺を見るアニタは「もう出ないのですね」とか言ってるし。
 少し真面目な表情をしたと思ったら。

「あの、トールさん」
「なんだ?」
「明日ですけど、私は凄く嫌なのですが、マルギットが」
「ああ、分かった」

 子種が欲しいと喚いたのだろう。彼女もまた俺の子を欲してるわけだし。
 でもなあ、仮に二人と結婚するとなったら。

「その時は?」
「私を先に」
「マルギットは?」
「適当でいいと思います」

 哀れな。マルギットも本気だと思うけどな。まあ、アニタは独占欲が強いし。それでもマルギットの気持ちは理解してるのだろう。正直に話をして譲るのだから。
 だがしかし、貸し借りされる俺って。
 あ、そうだ。

「あのさ」
「ソーニャさんたちですね」

 なんで分かるのか。

「仕方ないです。ですが、トールさんの一番は私です」
「そこは間違いない」
「はい。だから最後には私の元へ戻って来てください」

 少し気持ちが重いが愛らしいアニタだ。それだけ愛されてると思えば、いつだって戻る先はアニタだからな。

「私は他の誰のものにもなりません」
「俺だけ?」
「他に誰が居るのですか」
「目移りしたり」

 意地悪なことを言うなと。俺以外に誰に惚れようがあるのかと。ギルドで初めて見た瞬間、ハートを射抜かれたと言ってるし。アヴァンシエラだから、だけではないのだと。強烈に惹きつけられ、心が燃え上がった相手だそうだ。

「トールさんだけです。一生添い遂げたいと思っていますから」

 重い。でも、元の世界でのことを思えば、これもまた嬉しく感じてしまう。愛されるなんて親以外に無かったのだから。
 親もまた「不細工」とは言っていたけどな。本気で思っていたかどうかは知らん。ただ、疎まれていたわけではないだろう。醜くても子は子だ。

 翌朝、アニタが起きたことで目が覚めた。

「トールさん。今日は予定ありますか?」

 先にベッドから出ていて、ぶるんと胸を揺らしながら聞かれるが。

「特に無いな。少し手間の掛かる依頼でもあれば」
「お昼ですけど」
「ああ、いいよ。一緒に食べに行こう」

 嬉しそうに「はい」と返事をするアニタだ。可愛らしいなあ。
 着替えを済ませ一緒にアパートを出てギルドに向かう。

 ギルドの前まで着くと人だかりができているようだ。

「何でしょう?」
「さあ、何かあったのかも」

 周囲の人を押しのけて中に入るのだが、口々に不安そうな声が聞かれた。
 中に入るとソーニャとクリスタは居るが、テレーサは居ないようだな。他にも多数の冒険者が集まっていて、カウンターにはギルドの責任者であろう人物まで居る。
 慌てて事情を聞きに行くアニタだ。マルギットも既にカウンターで控えているようだ。
 何かあったのだろう。

 俺を見たギルドの責任者が、手招きして呼んでるようだ。
 カウンターに行くと早々に切り出される。

「こうして話をするのは初めてですね。私はこのギルドの責任者でグレーゲルと言います」

 ここのギルドの責任者は少し若く金髪で髪は短い。港町のギルド責任者より細身な感じだ。白い丸首シャツ。オーバーサイズの青い袖無しチュニックを羽織ってる。
 俺の腕を見込んで助けて欲しいと言ってきた。

「どういうことです?」
「町から少し離れた場所で暴れる存在が居るのです」

 暴れるって、モンスターか何かか?

「魔法を使い言葉が通じません。興奮しているのか、何やら喚いて周囲を手当たり次第破壊していて」

 言葉が通じないけど喚いて?
 さっぱり分からん。

「モンスター」
「いいえ。見た目は人です」
「人? 他には?」

 全身真っ黒なぼろ布を纏い手には杖を持ち、頭にはよれよれの三角帽を被り、声の質からは女性のようだと。ただ、顔が見えないことで表情は窺い知れない。
 とにかく魔法の威力が凄まじく、姿を見せただけで攻撃される有様で、既に冒険者数名が命を落としている。大怪我をして教会に運び込まれた人も多数。そのせいで教会は大混乱だそうだ。
 治療のために回復職は全て集められている。と言うことはテレーサも教会に居るのか。

「ひとつ、心当たりがあるとすれば」

 過去、英傑によって封印された「ヴォルサム・ヘクサ」と呼ばれる、存在があったらしい。

「なんですか、それは」
「暴虐の魔女、とも呼ばれた極めて危険な魔女、と記録にはあります」

 また物騒な。しかも英傑が封印? 倒しきれず何かによって封印されたと。つまりはほぼ互角の相手。
 英傑って俺と似たような魔法を使う、人間離れした奴って話だったよな。その因縁の相手が百年以上経て復活したのか。実に傍迷惑な話だな。

「当冒険者ギルドでは天災レベルでして。あなたにとっても厳しい存在だとは思いますが」

 何とかして欲しいと。
 この町にも国にも軍隊は居るだろうに。国が討伐を命令すれば済むのでは。どれだけ強くとも数を前に戦い続けられるはずも無い。散々徴税して庶民を見下してきてるのだから、こういう時に役立つべきだろうに。
 まあ無理か。所詮、己が身の安全を確保するだけの存在だ。何の役にも立たないだろう。ましてや、こんな地方の田舎町なんぞ、少々消えたところで気にもしまい。

「軍隊の派遣は?」
「ありません」
「なんでです?」
「時間が掛かり過ぎます」

 首都に情報を伝え議会で審議の上、国家騎士団を派遣となると、最低でも三か月は掛かる。待っていたところで明日にも、この町は消滅するだろうと。
 つまりは領主の持つ兵で対処するにしても、対処が不可能であれば、冒険者が何とかするしかない。そのための冒険者であり、自由民として往来の自由を与えているそうだ。

「気乗りはしませんが」
「どうしても無理であれば逃げても構いません」

 さすがに「死んで来い」とは言えないらしい。これが貴族であれば「せめて一矢報いて死ね」となるそうだが。ギルド責任者も元は冒険者で平民だ。対処不能であれば己の命を最優先に、と考えるようだな。

「領主は?」
「現在報告中です」
「じゃあ」
「恐らくは逃げるでしょう」

 つくづく貴族は役に立たない。領地も領民も守る意思無しか。
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