冒険者ギルドの受付嬢と女性冒険者を愉しむ異世界奇行

鎔ゆう

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Sid.116 魔法使いのレベル上昇

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 着ている服を擦り捲り充分帯電したところで、刀身に触れさせると「パチン」と来る。これで説明してやると多少は理解が及んだようだ。衝撃が来るからな。痛い、と言って驚く面々だったが。
 教会内は明かりが灯されている、とは言え暗いのに変わりはない。かなり激しく擦って指で触れてもらうと、一瞬だけ雷のような放電現象を見ることもできる。
 電気が何かを具体的に理解はできずとも、とにかく自然現象であることだけは理解したようだ。

「神じゃないだろ」
「そうですね。トールさんは私の知らないことを、物凄く多く知っています」

 記憶を失っているのになぜだ、と問われる。
 転生した異世界人、なんて説明はそれこそ荒唐無稽だろうな。

「それはあれだ、学んだことは覚えていて、そうでないことは忘れたってことで」
「意味不明です」
「でもな、記憶喪失ってのは部分的なものが多い」
「それもです。なぜそんな知識を持っているのですか」

 実に面倒だ。クリスタは追及し出すと止まらない。それだけ好奇心旺盛なのだろうが。なんで、と繰り返す子どもを相手にしてる感じだし。
 転生ってのを説明せずに理解させるのは無理か。
 ただなあ。それを言って理解するとも思えん。この世界以外にも無数の並行宇宙がある、なんて元の世界でも立証できてなかった。認識できないのが異世界だし、並行宇宙だったわけで。

「もしかしたら神の啓示だったのかもな」
「やはり雷神トールがひと噛みしてますね」
「だから、そこから離れよう」

 科学が無い世界で科学を理解させることの難しさ。魔法としておけば、すぐに理解するのだろうけどな。理解、ではないか。単に納得しやすいだけで。
 ただ、電気のことを少しでも知ったことで、明日にも使えないか試すそうだ。
 たぶん使えると踏んでいる。自然現象のひとつと知ることで、あとは頭の中で思い浮かべれば済む話だから。俺の場合だけどな。
 クリスタも電気を操れれば、今以上の戦力になると思う。

 とりあえず寝ることにして、全員体を休めることに。
 特にテレーサは怪我人の回復で少々お疲れ気味だったし。さすがに二十人程を一度に相手して、ふらふらしてたからな。しかも治療効果が大きいことで、教会の連中も驚いていたし。俺は普通だと思っていたが、ここで初めて他の人のレベルを知った。
 全然違ったからな。

 この日は教会内と言うことと周りには怪我人だらけ、と言うことで貪られることも無く安眠できた。
 昨日も何も無かったし。久しぶりに使わずに済んでる。たまには股間の休養も必要だな。

 翌朝になると早々に「試したいです」と意気込むクリスタが居て、商人には出発前に馬車ごと町の外に出て待ってもらうことに。

「出発は少し待ってくれるか?」
「構いませんが、何をしたいのですか?」
「魔法の実験」
「そうですか。研究熱心ですね」

 町の外はまだ惨劇の痕跡が多く残る。早くから片付けに奔走する人も居るが、少し離れた場所に移動すると、杖を水平に構え的は近くにある木に定めたようだ。

「トールさん。魔法名は?」
「そうだな。まずはエルホックと」

 集中してイメージしているのだろう。真剣な表情で杖を持ち、ぼそっと「エルホック」と言うや、パンと弾ける音と共にコケるクリスタが居る。一瞬の閃光もあって衝撃音も発生したことで成功したようだ。

「今のは?」

 商人も驚いてるようだ。ソーニャたちも驚いてるし。

「あれは電撃魔法」
「電撃? そう言えば英傑様も」
「俺のはもっと強烈な奴」
「そうでしたね」

 立ち上がると俺を見て「トールさんの使う、あの異常な魔法」とか言ってるし。
 あそこまで強烈な奴は使えるかどうか分からん。大概の相手は一撃で葬ってしまうし。
 まあそれでも使えたら最強の仲間入りするし。

「ブリクストだ」

 再び構えると入念にイメージしているのだろう。簡単に発動させるには訓練が必要かもしれない。俺の場合は元の体が知っていたとしか思えんが。電気の概念を知る俺だからこそ瞬時に発動するのだと思うし。
 さっきより長いな。まるで呪文を唱えるかの如くだ。

「ブリクスト!」

 うん。まだ無理かもしれない。
 衝撃音はエルホックと同等。閃光も同等。つまりブリクストになってない。

「トールさんのようにはできないです」
「まあトライするのは無駄じゃない」
「もう一度試してみます」

 ソーニャたちは暇そうだが、それでもクリスタの戦力が上がれば二枚看板だ。
 期待してそうだな。
 杖を持ち構えると、目を瞑りイメージをしているのだろう。強固なイメージを持たないと、おそらく発動しないのだろうな。良く分かってないから。

「ブリクスト!」

 ちょっと俺も驚いた。だが、俺よりソーニャたちや商人に御者が腰を抜かしてる。クリスタも思いっきり尻餅ついてるし。目を丸くして驚愕の表情を浮かべてるな。でもな、イメージさえ固まれば使えるんだよ。この世界では、たぶんな。
 激しい衝撃音と激しい閃光。的になった木が折れて火を噴いてる。

 俺を見て「トールさん。私にも雷神が宿りました」とか言ってるし。
 違うんだがまあいい。
 暫くすると冷静になったのか「他にも炎系の魔法を」とか言い出す。まあいいんだが。戦力増強が図れるのであればな。
 とは言え、さすがに核融合は無理だろうなあ。俺も説明しきれないし。ソルフランマが使えれば例のあれとも対戦できるけど。

 立ち上がろうとするクリスタだが、よろけて倒れたようだ。

「ふらふらします」

 あれか、魔素の量って奴があるのか。つまりクリスタの魔石は俺程には大きくない。けどなあ、そんな大きな物を体内に、なんて思えないんだよな。
 魔素の吸収力の違い、とか思ったりもするが。

「トールさんと同じ魔法は使えますが、連発は無理です」

 それと威力は俺の方が遥かに上だと思うそうだ。確かに俺が放つと木は吹っ飛ぶだろう。
 試しに同じように木に向かって手をかざす。

「エルホック」

 大きな衝撃音と強い閃光が木を直撃すると、折れて炎を噴き上げる。クリスタの使うブリクストと同レベル。そう言えば盗賊の頭目、エルホックで心臓止まったんだよな。ちょっと威力が強過ぎるようだ。

「トールさんのような強烈な破壊力は、どうすれば」
「分からんな」
「訓練でしょうか」
「それもあると思う」

 まず使えたことで合点が行ったようだ。馬車に乗り込み町を目指すことに。
 商人が「さすがは英傑様の弟子ですね」とか言ってるし。

「そうか?」
「英傑様と同じ魔法を使うのです。アヴァンシエラになれますよ」

 クリスタはそうかもしれない。でもソーニャたちは別だ。何とか底上げしたいな。
 テレーサに関しては菌の対処ができれば、最強の回復職になれると思う。黒死病の治療ができるだけで、神の如く崇められそうだし。現時点で対処法が無いのだから。もしかしたら聖女様とか言われたりして。
 ソーニャはなあ。俺が理解してない。指導するのも難しい。ただ、以前よりは自分の意思で戦闘ができてる。もう少し自力で熟して行けば、ソーニャにも教えられるかもしれない。

「トール」

 ソーニャが声を掛けてきた。
 剣を教えて欲しいそうだ。
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