冒険者ギルドの受付嬢と女性冒険者を愉しむ異世界奇行

鎔ゆう

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Sid.121 想定外の事態に陥った

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 リーリャユングフルに加入したい人が居るらしい。
 そんな存在が居ても不思議ではないが、既に五人パーティーになっているから不要、ではある。

「断れないか?」
「ソロでは活動できないです」
「前衛、後衛どっち?」
「後衛ですね。クロスボウを使います」

 要らんなあ。全員魔法を使えるしクロスボウなんて効率が悪すぎる。近距離での威力はあっても連射は効かないし、短射程ゆえにある程度接近しないと。それにひとりで多数の相手は無理だし。
 できても鹿やウサギのハンティング程度。化け物相手に通じるとは思えん。
 大弓でも使うならまた話は別かもしれんんが。

「ランクは?」
「出直す意味でニーヴォルヤーレのアンドラクラスですね」
「出直す?」
「きちんと段階を踏みたいそうです」

 分からん。クロスボウを使うと言うことは、技量的には本当に初級レベルなのだろう。
 それで出直すって意味不明だ。

「俺の知ってる人?」
「よく知る人です」
「えっとだな」

 嫌な予感しかしない。
 横に立っていたグレーゲルが口を開いた。

「私からも頼みます。英傑様にとってはお荷物でしかないですが」

 足を引っ張るのも容易に想像できるそうで。それでも頼まれて欲しいと。俺の傍に置いておけば、それが一番安全だからだそうで。
 それと、これは依頼でもある、と言ってるが意味が分からん。

「まさか、あれか?」
「ええ、ガブリエッラ嬢」

 やっぱりそうか。勘弁して欲しいぞ。

「断れない?」
「レードルンド伯爵様から直々に頼まれていまして」

 ただし、と断りが入った。

「貴族としての身分は無くなりました」
「え、どう言うこと?」
「伯爵様により身分をはく奪されています」

 名実ともに平民になったと言う。本気で勘当したのか。じゃあ、お付きの兵士たちはどうなったんだ? 既に伯爵令嬢ではないのであれば、側付きの兵士など置いておけないだろう。
 聞けば側付きの兵士たちは本来の任務に就いたそうだ。
 そして。

「大喧嘩してましたよ」

 しかもギルド内で。
 その場に居た人全てが頭を垂れる中、ひとり剣を抜いて娘に突き付けていたと。床にひれ伏すガブリエッラの首元に剣を当て「そんな我侭が通ると思っているのか」と、凄まじい剣幕だったそうだ。
 それでも譲らず「私は英傑様と共にありたいのです」と震えながら言っていたそうで。

「英傑って俺だよな」
「レードルンド伯爵様は知りませんからね」

 どこの馬の骨だと追及され俺の名を出したそうだ。

「こっちに矛先が向きまして」

 木っ端冒険者風情が英傑などと、何をもってそんな称号を与えたのかと追及されたそうだ。ベルマン伯爵が、と言うと。
 ベルマン伯爵に対しても「何をとち狂ったか」などと言い出し、一度ギルドから出るとベルマン伯爵の城に向かい、一時間後には戻ってきて「あり得ん」と口にしていたと。
 あとでベルマン伯爵からお叱りを受けたそうで。

「怒髪天を突く、とはあのことですね」

 散々怒鳴られ捲り、それでも知れてしまったのは已む無し。あまりグレーゲルを責めても俺の心証を悪くする。結果、今回だけはお咎めなしとなったそうだ。
 メンツを潰された形のベルマンにとって、怒り心頭だったのだろうが、俺をこの町に留めておきたい意向があったのだろう。暴虐の魔女を退けた実績があるからな。

「英傑様の働きがあって、それを認めざるを得ない両伯爵様でした」

 結果、ガブリエッラは身分をはく奪され「好きにしろ」となったようだ。
 それでも娘可愛さだろう。グレーゲルに「英傑とやらのパーティーに組み入れろ」と言ってきたそうで。手段は問わないとも。ガブリエッラが冒険者となる条件に、俺と一緒であること、身の安全は絶対に保証すること。
 それでも元貴族として品格を落とさず済むようにと、三百グルド用意され俺に渡すように言われているそうだ。三百って日本円で六千万じゃないか。
 親バカだ。平民には血も涙もないのに、娘には愛情を持っているのだな。

「二度と伯爵家には戻れないので、英傑様の下に置くのが最も安全です」

 下手な兵士百人で守るより、俺ひとりの方が安全度は高いとまで。
 それと、と言いながら紙切れ一枚出してきた。

「本意では無いでしょうが」

 見せられた紙切れには「Certifikatセルティフィコート förフェル äktenskapsförordエクテンスコプスフェロール」と記載されている。

「え」
「条件のひとつです」
「い、いやいや。これ」
「受け入れてください」

 結婚契約証明書だと? じょ、冗談じゃない。なんであれと俺が結婚。
 アニタを見ると諦めの境地に達している。首を横に振りため息を吐きながらも「私は二号になりますね」だそうで。
 嫌だ、と言ってもこの国に居る限りは、どうにもならんのか。

「えっと、婚姻の前に」
「貴族が定めた法律ですよ」

 捻じ曲げることなど容易いと。法治国家ではなく所詮は人治国家。法など貴族の匙加減でどうにでもなるわけで。
 くっそ、まじで原始的な世界だ。

「トール。災難だね」
「でも、ガブリエッラお嬢って可愛いよ」
「元貴族の令嬢なんだ」
「トールさん、一号は無理でしたが二号でも三号でも」

 後ろでなんか言ってるし。ミリヤムはガブリエッラとの経緯を知らない。どこで縁を持ったのか聞かれ、ソーニャたちが答えていて納得したようだ。

「凄まじい執念」
「諦めてなかったんだね」

 明日にでも教会で婚姻の儀を執り行うそうだ。
 俺の人生設計が狂った。アニタとエロく楽しい生活、なんて目論んでいたのに。

「心中お察ししますが、受け入れるしかありません」

 そう言って、へらっと笑うグレーゲルが居るし。半分面白がってるだろ。それでも貴族の令嬢が平民に心酔するなど、あり得ないことが起こっているわけで。しかも首ったけ状態。
 ゆえに「これも何かの縁です。いずれ役立つかもしれませんよ」だそうだ。
 身分をはく奪され追放処分となってはいるが、娘の窮地に何もしない親は居ないだろう。頼み込まれれば手助けしてくれることもあろうと。
 貴族との縁ができた。後ろ盾となることは間違いなく、逆に有効活用する術を探すのがいいと言ってる。

 まあ、権力のある奴が後ろ盾となれば、何かと便利な面もあるだろう。
 この世界なりの行動指針に順応するしか無いのか。

「プレートですが明日にも発行しますので」
「頼む」
「気落ちなさらず」
「落ち込むっての」

 ギルドを出るが合鍵、無くなってるし。
 また受付カウンターに向かいアニタに鍵を借りて家に向かう。
 四人とはギルド前で別れ明日は早朝、ギルドに行きガブリエッラと会う予定に。

「結婚の儀に私たちも参列できますか?」
「いや」
「祝福した方がいいよね」
「要らん」

 望まない形での結婚だ。祝福されて嬉しいわけがない。アニタとであれば目一杯、祝福して欲しいと思うが。
 やれやれだ。例のあの存在よりガブリエッラの方が、何倍も厄介な存在だったとは。執念深さは類を見ないな。そして行動力もあった。
 こうなりゃ、あの乳を揉み倒してやる。乳のでかさと顔だけは申し分ないからな。

 アニタの家に行き水を汲み置いて、帰宅を待つとドアが開き「どうにもなりませんでした」と、無念そうな表情だ。
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