古兵エルフの奴隷

うろうろ

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第一章 黒猫の半獣人

07十三年ぶりの帰宅

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 最初の討伐はなんだったかも忘れて、その後海を渡り陸を横断し、どこぞの国から大昔の盟約を引っ張り出されたことにより駆り出された戦場に立ち。
 元いた人員が少し減り。別の土地でスカウトしたエルフ達を連れて国に戻り、家に帰宅したら、使用人達の顔の老け具合と新しい子供が生まれてるのをみて、十三年経ったことを実感した。

「子猫さんはどこでしょう?」

 ランティスドールは約束の休みの日だと言って、早速故郷へ船が着くなりそのまま私の家に尋ねて来た。白髪の増えた使用人のメイド長に尋ねたら「十三年見てません」と言う。

「…本当に死んでしまったのでしょうか?」

 ランティスドールが悲しげに眉毛を下げてつぶらな瞳を潤めて呟く。この男は身内にはこんな顔をするが、戦場に立てば一番無慈悲に容赦なく殺す、生粋の殺戮者だ。

 荷袋に詰めて持ち込み、軍部内の執務室で遊ばせてた滑り台をいたく気に入り、餌付けしまくっていたこの男の脳裏にはきっとまだあの小さな姿のままだろう。

「探しに行けば分かる。庭は直ぐそこだ」

 邸から出て裏庭から繋がる森の中へ入って、奥へとズンズン進んでいく。十三年経っても然程変化ないように見える。鳥の鳴き声がうるさいくらいか。

「オイ、滑り台。出てこい。土産を持って来たぞ」

 少し声を張って呼びかけながら歩く。いつもこの辺りで出てくると言う場所に来ても、出て来ない。周囲の気配を探りながら更に森の奥を進む。ランティスドールも呼びかける。

「子猫さん、美味しいおやつありますよ~。あなたの好きなチョコもありますよー」

 手にしてるのは遠くの国で手に入れたチョコレートバーだ。技術発展が著しい東方大陸のしっかりした包みを少し開けて持ってる手を上に振りながら、ランティスドールは呼びかけた。だが反応はない。

「仕方ないですねぇ。溶けてしまうから、わたくしがいただきましょう」

 ぺりぺりと包みを更に剥がしてランティスドールが食べようとした瞬間。
 ザザっと頭上の樹木が揺れる音がして、互いにその方向に注意を向けた時にはランティスドールの手からチョコバーが消えていた。

「子猫さん!?」

 喜色満面のランティスドールが背後の気配を見ると、そこにいたのはチョコバーを齧りながら木からぶら下がっている猿だ。

「おや…?お猿さん……?」
「何故、前は居なかったのに」

 私は更に奥に進んで行くことにした。入った時も思ったが、鳥の鳴き声が多い。それも小鳥などの小さな個体が増えたように見える。

「随分と動物が豊富な森ですねぇ」
「ここまででは無かった。どう言う事だ?」

 奥に進んで行く程、大型動物の群れにも遭遇して、それは山に登っても同じことだった。居ない。居なさすぎるのだ。魔物が。

 元々この山の奥には上位種の魔物が棲みついており、動物は捕食されて数は少なかった。こちらの麓側には魔物の嫌う月光草が生えてる為降りて来ないが、山の反対側にはしょっちゅう降りてそこを猟場としているのは確認済みであり、私の保有する私有地の中でも一種の境界線になっていた。
 山の反対側にまで行かないように、放し飼いの猫の囲いとしてである。

 山を進む足取りが自然と早くなる。
 魔物がいても、こちらを見るなり姿を消していく。奥に進んでも、上位種の魔物が放つ瘴気は無い。それどころか動物が多く、呑気にあちこちで草を食んだり木の実を啄んでいる。
 更に山奥へ進み、とうとう山の反対側である向こうに出ると、ひらけた場所に出た。

 巨大な滝が流れるその周辺は、特に木の実や様々な果実が多く成り、大きな滝壺の周辺には水を飲みにくる様々な動物達がいる。

「楽園のような美しさですねぇ。素敵な山をお持ちだ」

 ほう、とため息をつきながらランティスドールは穏やかに目の前に広がる光景に見惚れていた。だが私は周辺の変わりように呆気に取られてしまう。

 ──あの上位種がいるから、ここには生き物などいなかったのに。

 ふと、滝壺から離れた水辺に浮き上がってくる人影が目に入った。口に大きな魚を咥えてる全裸の半獣人が、陸に上がってくる。
 ぺしゃっと捕まえた魚を砂利に落として、身震いして滴を飛ばす様は野生動物と同じ。蹲み込んで魚を拾い上げて食べようとしたが、黒いボサボサの頭の毛の中から鼻先を空に向けて仕切りに匂いを嗅いでる。
 口元には黒い髭が生え伸びて、がっしりした身体は筋骨逞しく、全身のあちこちに傷痕を残すそれは弱肉強食の世界を生き延びてきた強者の印だ。

 ピクピク、と耳がこちらに向いた。が、背を向けたまま、魚を放置してまた水の中に潜り込んでいく。

「今のって…子猫さん?」

 ランティスドールがキョトンとした顔で呟いていたが、その時既に私は駆け出していたので返事はしなかった。
 滝壺から伸びる川は、更に奥の山の反対側の奥へと流れている。あれは私の匂いに気付いていた。そして潜ったのだ。こちらに来もせず、はっきりと。

 逃げたのだ。

「知らぬ間に脱走してたとはな」

 思わず口角が上がっていく。面白いじゃないか。
 まさかの境界線役の上位種魔物をひとりで倒して、この楽園を謳歌していたとは。


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