令和元年、箱根

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四 蝶

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 「ねえ、楓咲、俺を壊したいんじゃなかったの?来いよ、俺を壊しろ!俺の体も、魂も、心も、一つ残らず打ち砕いてくれ!ここで寝転がってないで、起きろよ……」
 平成二十一年の十月、俺は君野の動かない背中に向かい、声が枯れるほど叫んだ。たった四ヶ月前の初夏、俺たちは古びた旅館の狭いベッドに一緒に押し込まれて、『イングリッシュ・ペイシェント』を見た後、「一緒に東京へ行こう、一緒に俺たちだけの天国へ行こう」と話した。楓咲は俺の膝の上に座り、俺をしっかり抱き締めていた。まるで水から救われたばかりの溺れ者のように、息を荒くし、せっせと俺にキスをした。その時、何か異常なことに気づくべきだったのかもしれない。だが俺は、楓咲の嵐のようなキスにすでに慣れてしまった。だからただ、目の前の少年の温かい抱擁と激しい吐息に浸ることを許し、薄暗い部屋の中で抱き合って眠った。楓咲の柔らかい髪が、汗をかいた俺の頬に触れ、彼の吐息が俺の右頬に当たる。そのべたついた感覚はあまりにも真実で、永遠に消えることがないかのように思えた。もうすぐ真夏だ。あの時の俺は勝手に真夏を期待していた。


 もしかしたら、俺はもっと早く気づくべきだったのかもしれない。君野が死ぬ半月前、俺の誕生日の前日、彼は俺の家の戸を叩き、長野から出雲へ行く二枚の切符を持ってきた。
 その時、父はまた酒を飲みながら母に悪口を言っていた。隣人が来たのかと思って、不安げに戸を開けると、楓咲が外に立っていた。ちょうどその瞬間、ビール瓶が俺たちの足元で破裂した。
 「出ていけ!出ていけっ!」
 父は血走った目で俺たち二人を見つめ、理由も聞かずに罵声を浴びせた。彼が罵っていたのは俺なのか?それとも、俺を通して見ている母、彼の元妻なのか?母は大学時代、バンドのリーダーだった父に一目惚れた。美しい母はいい声を持つ父に心を奪われ、二人は父の故郷である長野に定住し、俺を生んだ。
 だが長野には、母が求めていたものは何もなかった。彼女はすでに東京の賑やかさに慣れたからだ。どうしてもその賑やかさの中心に戻りたがった。長野はあまりに辺鄙で、貧しく、荒涼としていた。一年中期待できるのは夏の花火大会だけだった。もし父がバンドを続けていれば、どこかに道は開けるかもしれない。だがバンドの仲間たちはそれぞれ仕事を選び、父に謝罪した。「バンドをやっても飯が食えない」「発売した一枚のアルバムはコストを回収することすらできなかった」。仕事を始めれば、どうしても時間が取れず、こんな損になる趣味を続けられないと言ったのだ。彼らが卒業してから二年後、バンドは解散した。だが父には、自分たちのバンドが元々生計を立てるほどの力がなかったことがわかっていた。彼は早くも、自分がただの普通の人で、これからも普通人であり続けるという事実を受け入れていた。
 だが母はこの事実を受け入れられなかった。
 それで父と母の夢は共に砕け、二人は現実に戻った。俺が三歳の時、美しい母は東京の商人の子供を宿った。大激怒した父は母を殴打したが、隣人に呼ばれた警察が及時に制止した。それにもかかわらず、母が東京に戻ってから間もなく、難産で亡くなり、腹の中の子供も一緒に失った。
 俺は母を憎んでいた。彼女は目の前に生きている俺より、手の届かない可能性を選んだからだ。俺は母を憎む以外にどうしようもなかったからだ。目の前で自暴自棄になりながらも、俺を育てかれた父を憎むことはどうしてもできなかった。
 この貧しく立ち遅れた土地から逃げ出せたらいいのに。
 俺は何度もそう思った。
 母さん、東京は本当に天国ですか?もしそうなら、どうして俺を連れて行って見せてくれなかったの?
 母の死を知ったその夕暮れ、俺は道端の雑貨店で泣きながら東京の地図を買った。店主は驚い顔をしたが、何も聞かず、俺が渡した硬貨を受け取り、小声で毎度と言った。俺は文房具箱から赤いマーカーを取り出し、浅草区を丸で囲んだ。
 これが正解だ。これがきっと正解だ。俺は自分にそう言った。


 「なんでここにいるの!」俺はぎこちなくて楓咲を引き寄せて外に出し、屋内から続く罵声を遮るために急いで戸を閉めた。
 俺はこれまで、楓咲に家の事情を話したことがなかった。正直誰にも話したことがなかった。彼らが哀れそうな目で俺を見つめ、「何かお手伝いできることがありますか?」と聞くのが怖かった——そもそも、本当に俺を助けてくれる人は誰もいないのに。
 「ごめんね……ただ、蓮と一緒に出雲に行きたい。明日は蓮の誕生日だから、ちゃんと祝いたかったんだ」
 楓咲は一枚のバス切符を、真剣に俺の手のひらに置いた。


 「蓮、知ってる?出雲大社は日本一古い結縁神社だよ。ここに祀られているのは大国主命で、いわゆる『恋愛の神様』なんだ」
 長野から関西へ向かうバスの中、楓咲はパンフレットを持ち、興味深そうに俺に説明していた。
 「恋愛?……君は独身じゃないじゃん、なんでそんな縁を求めるの?」
 「僕が欲しいのは、今だけじゃない。これから先も、ずっと蓮と一緒にいたいんだ」楓咲はパンフレットを置き、俺の左手をそっと握った。「十月は出雲の神在月だよ。知ってる?八百万の神様がそこに集まるんだ。きっと、僕の願いを叶えてくれる神様がいると思う——赤い糸で蓮と僕の手を繋いでくれる神様が」
 「わざわざそんな遠くまで来て願う必要があるの?俺が君をほっておくと思ってるの?」俺は冗談半分に楓咲の頬をつまんだ。
 楓咲は笑いながら俺の手を握り返した。その力は、まるで死ぬことを決めた彼の決意のように、とても強かった。


 「そういえば、ここの雰囲気、本当に他の場所と違うね……落ち着いてる……わ、すごい大きな注連縄!」
 俺は楓咲を引き連れて社殿の入り口に立ち、目の前の光景に圧倒されて一時言葉が出なかった。
 「願いを込めておこう」
 耳元に届いた楓咲の声は、まるで遠い天国から聞こえてくるようだった。優しくて、切なくて——まるでその時、俺を見つめていた彼の瞳のように。楓咲は深く二度お辞儀をし、力強く四回手を叩き、また一度お辞儀をした。俺が目を開けて立ち去ろうとする時、彼は依然として目を閉じ、手を合わせたままその場に立っていた。
 「……すごく長い願いだね」俺は笑いながら小声で言った。
 「八百万の神様に、全部聞いてもらいたいから」楓咲がやっとゆっくり目を開け、俺の方へ歩いてきた。
 「どんな願いを込めたの?」
 「言っちゃうと霊験がないよ」
 「じゃあ、叶ったら教えて」
 楓咲はゆっくり口を開いた。
 「……実は、蓮が大人になった姿を見たいと願ったんだ。きっと、二十歳の蓮は道玄坂一のイケメンになって、すれ違った女の子がみんな電話番号を聞きに来るでしょう……三十歳の蓮はきっとちゃんとしたイケメンおじさんになって、仕事も大成功して、使い切れないお金があって、スーツを着たら、二十人分の君野楓咲を魅了できる……」
 「ちょっと、何それ……」俺は笑いが止まらなくて、「なんで三十歳でもうおじさんなんだよ!」
 彼は二の心結びお守りを求めてきて、それぞれの小指に結んだ。俺は笑いながら「これ、一生つけるの?」と聞くと、楓咲は「これは貧乏学生の指輪だ」と言った。「蓮がこの指輪を見てると、僕のことを思い出すよ。これを見れば、蓮はきっとわかる——僕はいつも、蓮のそばにいるんだ」
 もし、それが楓咲と最後にキスをする機会だと知っていたなら、稲佐の浜の夕日が完全に沈むまで、俺はきっと彼の手を離さなかっただろう。だが俺は知らなかった。だから俺たちはただ海辺のベンチに座り、肩を寄せ合って蕎麦を食べ、出雲のチョコレート牛乳を飲み、意味もない日常の雑談をした。まるで、それがただの普通の一日であるかのように、初秋の夕日がゆっくりと海平線の下に沈むのを見つめていた。


 平成25年の初秋は、平成21年の初秋とそれほど大きな違いがないように思えた。同じようにひんやりとした夕立の風、同じように壮観な夕日。ただ、俺のそばに座り、丁寧にそして切なほど大切にそばを食べていた少年だけがいなくなった。
 「こんな書き方、ちょっと気取ってない?」俺はイライラして髪を掻き、さっき書いた二行をまた消した。夕凪は俺のそばに座り、あごを支えながら、視線を俺と原稿用紙の間で行ったり来たりさせていた。
 「これは蓮の本当の気持ちじゃない?それなら気取るんじゃないよ。蓮の君野への思いがそのまま表れていると思う」
 「どこか足りない気がするんだ……」俺はため息をつき、タバコに火をつけ、自暴自棄にペンを横に放り出した。「俺は彼と約束したんだ、俺たちの話を書き上げることを。前は彼が死んだ後、『文学』から逃げたくなって……今は本当に後悔してる。今回やっと思い切って決めてちゃんと書こうとしたのに、どう書いても当時の感情を表せないような気がする……ねえ、今の俺が書くもの、あまりにも表現力が薄いと思わない?」
 「時間が経ちすぎたからかもしれないし、俺がまだ本当の感情から逃げているからかもしれない。だからその痛みを表せないのだ。今まで、痛みを表すことがこんなに難しいとは何も知らなかった。やっと心の中の痛みと向き合えると思っていたのに、他人にも同じように感じさせることができるものが書けないことに気づいた。ただ無駄に痛みを増やすだけだ……」
 夕凪は長く伸びたタバコの灰が落ちそうになる前に、タバコの灰皿を俺の口元まで素早く取り寄せた。
 「蓮は他人に自分の文字に共感してほしいから、書き方にこだわるんだよ。でも他人の考えを気にするほど、自分が本当に表したいことから離れていく。むしろ思いのままに書けばいい。蓮の『真実』に従って書けば、そのうちに自然に答えが出てくると思う」
 「……蓮は出雲大社で心結びお守りを求めた話を言ってたよね?『ただ、俺のそばに座り、丁寧にそしてせつなほど大切にそばを食べていた少年だけがいなくなった』の後ろに、『でも彼が残してくれた「指輪」は、今でも俺の心の中で光っている』……っていうような表現はどう?ちょっと子供っぽく聞こえるかもしれないけど、あなたたちの指輪は少年特有の愛と情熱を持っているから、きっと心を打つことができる」
 「あ……夕凪、君、本当に天才なの?ありがとう、俺の神様」俺は燃えかけたタバコを押し潰し、夕凪の頬にそっとキスをしてから、また前かがみになって書き続けた。
 こんなに心から他人と文学の話をしたのはいつのことだっただろう?楓咲がくれた『殉教』を持って彼の家に行った時以来だ。ドアを開けた瞬間、血の海に倒れた背中を見た。俺は地面に崩れ落ち、叫ぶのも忘れ、警察を呼ぶのも忘れた。ただそれを普通の秋の夕暮れだと思った。力が抜けて、彼のそばに跪き、震えながら話しかけた。「ねえ、楓咲。『殉教』を読み終えたよ……」その声は、まるで俺の喉から出たものではないように、ドライで見知らぬ声だった。その後何を言ったかはもう覚えていない。ただ、いつからか、喉の奥から無理やり押し出すようなぼんやりとした言葉が泣き声に変わっていたことだけは記憶に残っている。もう笑顔で返事をしてくれない人を呼び続けた。俺は『金閣寺』を見ながら『殉教』の話をし、君の首にかけていたお守りを見ながら、あの午後の出雲で君が同じお守りを俺の小指に結んだ姿を思い出した。君のピントが合わない栗色の瞳を見ながら、初めて会った時の生き生きとした美しくて悲しげな、俺を惹きつけた瞳を思い出した。血色を失った冷たい君の唇を見ながら、それがどれほど熱くて何度も俺にキスをしたかを思い出した。
 前の俺は、こんな微風が吹く初秋の夕暮れに何をしていただろう?文学を諦め、長くて曖昧な文字を読むこともやめた。期末課題で要求された独創的な外装デザインを考えることに追われ、窓の外でサッカーをしている人たちが仲間の名前を呼ぶ声を聞きながら、寮の明かりをつけるのを忘れた。
 四人部屋の寮は今、俺一人だけだ。中野はバスケットボールに行き、佐川はおそらく交際が一ヶ月も経たない彼女と近くに新しくオープンした寿司屋で食事をしているだろう——食べながら、どうやったら婉曲に気づかれず彼女をラブホに誘えるか考えているに違いない。阿部は一時間前に汚れたカバンを背負い、時間通りにゲーセンへ出かけた。おそらく夜明けの五時まで徹夜し、タバコの臭いまみれで帰ってきて午後四時まで眠り、その後も混雑したファストフード店でジャンクフードを食べて腹を満たすだろう。本当に、ゲーセンで急死しないで、阿部。振り返れば、俺の大学四年間はこんな変わらぬ日常の中で過ごしてきたのだ。新しいこともなく、楓咲のことを完全に忘れられるような人も現れなかった。
 「……ありがとう、夕凪」俺は久しぶりに重荷から解放された気分だ。「もう一度生き直せるようにしてくれて、ありがとう。前の俺はただ後悔ばかりしていたけど、どんなに後悔しても過去には戻れない。正しい決断を再びするチャンスをくれたのは、夕凪だ」
 「蓮が俺を信じて、願いをかけてくれたからこそ今の全てがあるのだから、どういたしまして」夕凪は言った、「でも前の蓮の決断が全部間違いだったとは思わないよ。どう言っても、決断をする前には、誰も結果がどうなるか分からないものだ。山川会社にいた蓮は、そんなにすごい広告デザインをしていたし、俺の目にはとてもかっこよかったよ」
 「うん……でも結構心が折れたよ。入社三年目の時、昇進を目指していたんだ。その時綾瀬もようやく正社員になったばかりで、彼女との間にはまだなじみが必要だった。そのためにほぼ毎日残業し、数日は終電を逃して会社で寝ることもあった。すると次の朝、七海課長の牛丼の香りで起こされるんだ。全身が筋肉痛で眠気も押し寄せて、全然休めないのに、頑張って元気を出さなきゃいけなかった。新しい一日には新しい仕事が待っているから……あの頃は夢の中までデザイン図をどう描くか考えていて、本当に惨めだった。時折、これが君野との約束を破った代償なのかなって思った……」
 「君野も、蓮が好きなことをすることを願っていたと思うよ。文学のために蓮が苦しむ姿なんて、見たくなかったでしょう」
 「そうだね」俺は笑った。「今になってやっと心が晴れたような感じがする……でもタバコはやめられないままだね。あの人がいなくなってから、俺はただぼんやりとタバコで痛みから逃げてきた。入社してからはさらに、外で大雨が降っても傘をさして喫煙所まで行き、数本吸わないと退勤まで持ちこたえられなかった……」
 「リスタートした蓮ならタバコをやめられるかなって思っていたのに」夕凪は笑いながら言う。「でもこれは神様の俺にも手が出せないことだね。蓮の首にナイフをつけて『もうタバコを吸わないで』って言うわけにはいかないから」
 「でも蓮はなんでこんなにタバコが好きなの?前に物好きで一口吸ってみたんだけど、本当に不味いよ」
 「わ、神様もタバコを吸えるの?天罰に遭わないの?」
 「もちろん遭わないよ!そんなに大げさなことないんだから!」
 「夕凪、ちょっと腹が空いた」
 「僕もだよ」
 「本当に久しぶりに、こんなにリアルで安心できる空腹感を感じたよ。生きている実感は、空腹感から来るのかもしれないね」
 「うん、その通り」


 「……大盛りそばを二つ、持ち帰りでお願いします」財布から千五百円を取り出した。
 「高い!さすが東京だね……」夕凪は感嘆た。「でももし僕が東京都の神様だったら、お賽銭ももっともらえるんだろう?そしたらいっぱい美味しいものが食べられるのに……」
 「天成園で一回に十五円しかもらえないんだからな」俺は皮肉った。
 「……」
 「この店の女将さんは出雲出身だよ。作るそばの味が、俺が出雲で食べたものによく似ているから、よくここで食べに来るんだ」
 「……君野のやつ、黙っていなくなっちゃって。残された俺はバカのように今でも彼への想いを抱え続けている」
 「でも出雲大社は、噂ほど霊験があるわけじゃないみたいだね。神在月なのに、八百万の神様の誰も俺の願ったことを叶えてくれなかった」
 「蓮はどんな願いを込めたの?」
 「言っちゃうと霊験がないでしょ……ああ、でもあの願いはもう叶えられないから、まあいいよ。俺はあの時、楓咲といつまでも一緒にいたいって願ったんだ」
 俺はプラスチックの蓋を開けると、そばの湯気が容赦なく俺の顔にかかってきた。
 「ね、道理で言えば神様は人の願いを叶えたらその人から離れるんだよね?なんで君は今でも俺のそばにいるの?」
 「え、蓮はもう僕に会いたくないの?」夕凪はまばたきをしながら俺の腕を抱き、可哀そうな眼差しで俺を見つめた。
 「……そんな、ただ不思議だけだ。こんな長い間、天成園の神社に願いをかける人はいなかったの?」
 「もしかしたらいたかもしれないね。でも僕は蓮に一目惚れしちゃったから、蓮の願いを叶えるまで帰らないんだ」
 「ちょっと怖いわ……」
 「ふふ、蓮に無理やりつきまとうわけじゃないよ。ただ、僕がここにいるってことは、蓮にまだ叶えていない願いがあるってことだよ」
 「……?」俺は眉を寄せて考えた。確かに当時、俺は一つだけ願いをかけたはずだ。俺が平成十八年に戻ってから今まで、人生は以前とはまったく違う軌道に乗った。君野との出会いを避け、中華料理部を作らず、高校二年の時にバスケットボール部に入ることもなく、少し孤独だったけど順調に高校三年間を過ごし、早稲田の文学部に入り、俺と君野の話を書き始めた。勿論再び山川会社に行く気はみじんもない。もし反響が良ければ、このままプロの作家になれるかもしれない……
 「まだ叶えていない願いって、一体どんなものだろう?」俺は独り言を呟いた。
 「それは蓮の心に聞かないと分からないよ」
 ドンと音がして、中野がバスケットボールを抱えてドアを蹴り開けた。彼は俺の机の上に二碗のそばを見つけると、すぐに嬉しそうに顔を輝かせた。「さすが三浦!俺がそばを食べたいことを知ってるんだ!」そして無遠慮に碗を取り上げ、すすりながら大きな声で叫んだ。「やっぱり丸の屋のそばが一番美味い!……え、ちょっと?これ丸の屋のものじゃないんだ?」
 「……ねえ、今度はどうしてこの頭の悪いやつを救ったんだ?」
 俺はなんとか笑いを抑え、怒りに燃えている夕凪を引き連れて、またそばを買いに行った。


 「蓮はあんなにたくさん決断を変えたのに、きっと他の大学を選ぶと思ったのに。まさか再びここに来ちゃって、この変な人たちとまた同じ部屋に住んでるんだね」
 「俺もわかんない——多分俺の潜在意識では、学部さえ変えれば十分だったのかもしれないし、本当は心の底からこの変な人たちが好きだったのかもしれない……どう言っても四年間一緒に生活してきたんだ。再び会えて、実は嬉しかったよ。それに、本当に彼らをあの地震から救いたかったんだ。本当に、中野が耳障りな音を出しながらそばを食べているのを見た時、感動して泣きそうになったよ——少なくとも今回は、俺に残ったのはただの学生証じゃなかった。……「宿命」ってものがあるのかもしれないね」
 「ああ、また始まったね。蓮特有の宿命論」
 「……ところで、蓮は君野にもう一度会いたくないの?」
 「会いたいよ」俺は顔を上げて空を見上げながら言った。「長野に戻ってきた最初の日、君も同じようなこと聞いたよね。当然会いたいよ、ずっと思っているんだ。でも何だか、時間が君野に初めて会った日まで戻ってきたってことは、俺の願いはきっと君野に会うことと関係があるんだと思って。だからその時、会わないことを選んだんだ。今になってみれば、俺は当たったみたいだ……君野は今も元気に生きていて、俺も当時の願いを叶えて文学部に入れた。皮肉に聞こえるかもしれないけど、俺たちがお互いに出会わなかった方が良かったのかもしれないね」
 夕凪は静かに俺を見つめていた。
 「……今さら会っても意味がないよ。まず君野の住所が分からないし、例え分かっても、彼がまだ本を持って俺が彼にぶつかるのを待っているわけじゃないだろう?もしかしてもう他の人と婚約しちゃってるかもしれない——さあな、とにかくこれは俺が思いつく限りで一番いい結末だ。でも夕凪、君はどうして君野のことをそんなに気にしているの?」
 「あなたが好きだから」
 「ただそれだけ……」
 「僕が好きなのは蓮だよ。だから蓮が好きな人も気になるんだ」
 「え、神様がまたこんな突然に告白して……」俺は笑った。
 「僕が蓮に一目惚れしたってこと、もう前に言ったはずだよ」
 「神様も『一目惚れ』ってこんな軽い言葉を言ってもいいの?」
 「神様はいけないよ。でも僕はただの夕凪だから」夕凪は平然と言った。「でも本当に君野が羨ましいな。あなたの初恋で、しかもあなたに永遠に愛されているから。ちょっと悔しいな」


 誰かが言ったように、災難と明日とどちらが先にやってくるか、誰にも分からない。平成二十三年三月十一日の午後、俺はいつものように校庭のベンチに座り、ヘッドフォンで音楽を聴きながらデザイン図を描いていた。中野は五日前に宮城へ行って一週間遊ぶと言って出かけた。佐川は病気で、寮のベッドに横になり、どよめくような咳を続けていた。管理人さんは必死に肺炎だと言い張り、佐川の両親に電話をかけて迎えに来させようとしたが、佐川の両親は当時福島へ出張中で、「もう佐川に連絡して自分で病院に行かせる」と言った。阿部はいつものように換気の悪い秋葉原のゲーセンに籠もっていた。
 足元から強い震動が伝わってきた時、俺は気にしなかった。俺が椅子から転げ落ちるまで、ありふれた小さな突発地震だと思った。
 正に悪夢だった。
 校内での死傷者は多くなかった。俺たちはほとんど速やかに広々とした高い場所に避難できた。
 震源地が宮城だと知ったのは、避難所を見つけてから三十分後のことだ。稼働中の巨大なスピーカーからの放送は、まるで死神の宣告のようだった。佐川の死を知ったのは三日後。震動を感じて寮から速やかに逃げ出した学生も多かったが、佐川はその時汗だくの夢の中で彼女とデートをしていた、あの時は恐らく夢の中でキスをしていたのだろう。だって彼の死体はまるで笑顔を浮かべていたように見えた。彼とその両親は、震災による死亡者名簿の上で、二ページに分かれて記された三つの温度もない名前になった。中野の消息を知ったのは一週間後。誰も彼の遺体を見つけなかったし、彼が地震で死んだのか、その後の津波で死んだのかも分からなかった。だが消防隊員が瓦礫の下に押しつぶされた彼の汚れた学生証を拾った。証明写真の中の十八歳の少年がまだ褪せないニキビ跡があり、見ている人たちに無邪気に笑顔を向けていた。誰もが彼はもう死んだと言ったが、俺はただ一時的に行方不明だけだと思った。彼が死んだ姿を想像できなかった。数日前元気で俺と一緒に食事をしていたからだ。卒業式の日まで、俺は彼が寮のドアを叩いて入ってくるのを待っていた。
 だが彼は来なかった。
 生き残ったのは俺と阿部だけだ。俺たち二人は、ガラガラとした四人部屋を占め続けた。卒業するまで。いや、実は俺一人だけだ。阿部にとって、ゲーセンが彼の家だった。彼はどうやって卒業したんだ?本当に感心する。


 「……そう、とにかく占い屋さんによって、ここ数日宮城は不吉だって、一週間後に行けばどう?」
 「占い屋さんか……」夕凪は我慢できずに笑みを漏らした。
 「え?でも来週から授業が始まるんだよ」中野は髪を掻きながら言った。「今行かないと、多分半年後まで時間が取れないんだ……どうしよう……占い屋さんにお守りか何かいただける?悪霊を払ってくれるような」
 「……」
 「中野って、本当に信じちゃった?」夕凪は前かがみになって笑い転げた。
 「無理かも。お守りは高いんだ、俺たちには買えない」俺は手を振って声を低くした。
 「いくら?」
 「五万円だ」俺は適当に言った。
 「高……」中野はさらに焦って髪を掻き回した。「そんなに金がないんだ、どうしよう。佐川に借りようかな……でも彼は月末には千円しか残ってない!ああ!そうだ、占い屋さんに聞いてくれ、分割払いはできないか?」
 夕凪はもう床に敷き詰められるように笑い転げた。
 「命が一番大切だ、中野。宮城県はどこにも逃げないから」俺は格好つけて彼の肩を叩いた。「こうしよう、今度宮城に行く時は俺を呼んで。そうしたらホテル代も分担できるし」
 「え?マジで?一緒に行ってくれるの?」
 俺は慎重にうなずいた。
 「それに、二日後に東京で『スラムダンク』の原画展があるらしいんだ。宮城に行ったら逃せちゃうよ」
 こうして中野は宮城行きのチケットをキャンセルした。佐川も病院に連れて行かれた。俺は声を張り裂いて号泣しながら佐川の両親に電話をかけ、「息子さんがもうすぐ死にそうです」「息子さんを病院に運ぶ途中でうっかり地面に落としてしまい、足を捻挫させちゃって今は歩けないんです、恐らくもうすぐ命が尽きます」と嘘をついた。彼の両親は急いで航空券を買った。
 今回の俺たちは一緒にその悪夢を乗り越えた。存在しない占い屋さんに命を救われたことを知った中野は「必ず直接お礼を言いに行く」「お前と占い屋さんを奢るよ」と言った。俺は悲しそうなふりをして顔を覆い、「占い屋さんは亡くなりました。生前は岩手県に住んでいたんです」と告げた。さらに「時間があれば墓参りに行ってください」と勧めた。中野は聞くとすぐに手を合わせ、空中に向かって深くお辞儀をした。
 もしかしたら秘密を漏らした罰かもしれない。あるいは佐川に病気を移されたかもしれない。その後数日、俺は肺炎にかかり、ベッドに横になって咳き込み、もうすぐ死ぬかもしれないと思った。ぼんやりと眠りから目を覚ますと、目の前には夕凪の栗色の瞳だけがあり、残りの三つのベッドはガラガラと空いていた。横を向いて時計を見ると、もう午後十二時だった。
 「夕凪……」
 「体はどう?」
 「俺、もう死にそうだ……」
 「ちょっと、そんな縁起もないこと言わないで!」夕凪は慌てて言う。「大丈夫、医者に見てもらえばいい。僕が背負って病院に行こう!」
 「他の人に驚かせちゃうよ……」俺は辛うじて笑顔を作った。「大丈夫だ、中野に電話する……」
 俺は意識を失った。
 夢の中では、誰かが俺の手を握り続けていた。
 その人は俺に言った。「蓮、このまま手を握っていて、離さないで。ほら、僕を見て。キスをしたいんだ、そうしないとさみしすぎる。」
 「俺はここにいるよ、君のそばに。」俺は言った。
 その人は「それだけじゃ足りない。もっと蓮のことが欲しいんだ。ここも、ここも、それにここも。」と言った。
 彼の落ち着いた声は、だんだんと情熱に染まり、息を荒くしながら俺の名前を呼んだ。俺の名前は彼の声で、短くて甘い呪文のようなものになった。俺は前かがみになって彼の柔らかい唇にキスをした。すると彼の声は俺の一部になり、彼の涙も俺の一部になった。彼が目を開けた瞬間、俺も目を覚ました。
 目を開けると、中野がちょうど水を持って俺の前に立っていた。喜びが湧いて言った。「なんてこった、三浦!やっと目覚めたんだ!心配したよ、もう二度と会えないと思った……」
 「ただ普通の肺炎だよ」俺は柔らかく笑った。夕凪は俺のそばに座り、俺の髪をそっと撫でていたが、一言も話さなかった。
 「とにかく無事でよかった」中野は言った。「医者によると、一週間くらいで退院できるそうだ。俺は授業がない時に来るから、本当になにがあったら電話してね?」
 俺は微かにうなずいた。
 「そうだ……夢の中で『夕凪』って言い続けてたよ……誰の名前?新しい彼女?片思いの人?」
 「いいえ。ただ、ちぐはぐで筋の通らない夢を見ただけだ」俺は言った。布団の中で、夕凪の手を握り締めた。


 「いらっしゃいませ——」また平日の朝だ。俺はあくびをしながら冷凍まんじゅうを並べた。病気が治ってから間もなく、俺は学校の近くにあるコンビニでアルバイトに戻った。夕凪は客がいないうちに、こっそりと店のゴミを捨てたり、在庫を確認したりして手伝ってくれる。店が忙しい時は、ただ静かに俺のそばに座り、店で売っている少年漫画誌をめくっている。
 こんな早い時間に来るのは、大概近所のOLだろう。俺はその人の背中を見つめながら思った。待って、なんだか見覚えがある。彼女が牛丼を手に持って俺の目の前に来た時、やっと若い頃の七海課長だと分かった。
 「え——この時はまだあまり眉を寄せないんだね。しかもロングヘアだったのか。何だか親しみやすいな」俺は思いながら牛丼を電子レンジに入れた。彼女は待っている間に、レジ台の上に開いている漫画誌に突然目をつけ、それを手に取って俺に示した——これも買うということだ。夕凪が驚いた目で彼女を見つめた。七海は牛丼を提げ、漫画をめくりながら店から出ていった。
 「ありがとうございます——」俺は笑いを抑え出来なかった。
 七海課長は昼休みにオフィスのドアをロックするのを、俺は最初「他人に昼寝を邪魔されたくないのだろう」と思っていた。今になってやっと気づいた——彼女は独りでオフィスにこもって漫画を楽しんでいたのだ……
 「……ねえ、あの人、蓮の昔の課長だよね?」
 俺は震えながらうなずいた。
 「どう?嫌な人だろう?」
 「本当に嫌だよ」夕凪が言った。


 「蓮——さっきの『別冊少年マガジン』、最後の一冊だったみたいだよ——」本棚を探し回っても見つからず、夕凪はため息をついてがっかりと戻ってきた。
 「神様も漫画にはまるんだね」俺はからかった。
 「それは、あの漫画、本当に面白いんだよ!ライナーがエレンに『俺は鎧の巨人、ベルトルトが超大型巨人だ』って言ったよ!ここまで見たら、俺の漫画が取られちゃったんだ——」
 「ああ、今はまだここまでしか連載されてないんだね……」俺は思い出しながら言った。「知ってる?実はエレンたちがいる壁の中はパラディ島にあって、海を隔てて敵対するマーレの大陸があるんだ。ライナーたちはその大陸から来たんだ。それに、エレンは父親から始祖の巨人の力を受け継いでいるんだ……」
 「アアアアアアア!もう言わないで!」夕凪は大声で叫び、手当たり次第に漫画誌を取って俺の頭に叩きつけた。
 「まったく……あなた、君野にもこんなふうにしたの?彼が小説を読み終えてない時に結末を話したりしたの?」夕凪は泣きそうな顔で問い詰め、俺は謝罪するものの、全然反省していない。
 シフトの切り替え時間が近づいても、夕凪は独りで不機嫌にしている。俺は我慢できずに笑った。「まだ怒ってるの?」
 「いいえ……ただ不思議なんだ。それとも……エレンが最後に陰うつなボス級の人物になることを、今でも受け入れられないよ。最初は典型的な熱血少年の設定だったんだから!ああ、諫山創に直接『どうしてこんな設定にしたの?』って聞きたい……」
 「本当に申し訳ないんだ。俺のせいだ」俺は心からお辞儀をした。「ただ、俺が初めて『島と大陸の設定』や『エレンが始祖の巨人だ』と知った時、まだ知らなかった人にネタバレしたくてたまらなかったんだ。でも当時、周りの人は大体知っていたから、仕方なく誤魔化して君に話しちゃった。こんなことになるなら、さっき七海にネタバレすればよかった。仕返しのようなもの。」
 「……」夕凪は黙々と俺が差し出したタコ焼きの弁当を受け取った。
 「これは?お詫びの品?」
 「うん、俺がおごる。食べたらすぐ石川さんとシフトを交代して、君を本屋に連れて行く」
 「本屋——」夕凪は嬉しさで、朝のネタバレによる苦しさを完全に忘れたかのように言った。「何でも買ってくれるの?」
 「うん。俺がアルバイトをしてるのも、本を買うお金を貯めたいからだ」
 「ありがとう、蓮——」


 紀伊国屋書店のレジ台の前で、山のような本を抱えると、店員さんが「え?」と声を上げた。三秒後、本の壁の向こうから、夢から覚めたような声が聞こえてきた。「いらっしゃいませ——」
 「本当にこんなに買うの……」正直、本の数は思った以上だ。これからこの山のような本を持って電車に乗って学校に戻ることを想像すると、さらに参いた。
 「本を読むなんて、久しぶりじゃん。」夕凪は口ずさんながら言った。「蓮がめったに気前がいいことをしないから、僕も当然遠慮しないよ」
 「おいおい……いつも食事をおごってるのに、まだけちだって言うの?」俺はため息をつき、紙袋の中の本を見た。「『スプートニクの恋人』……わ、懐かしいな……」
 「『あるいは心を触れ合わせることもできるかもしれない。でもそれはわずかな一瞬にすぎない。次の瞬間には再び絶対的な孤独の中に戻り、いつかは灰になって消えてしまう……』」夕凪は低く呟いた。
 「見せて見せて、『痴人の愛』……『真幌駅前多田コンビニ』。ああ、これは読んだことがある。素晴らしいよ。え、ネタバレしちゃいけないんだったね?じゃあ今のところは言わないよ……お、三島由紀夫も好きなの?読み終えたら気が向いたら話してくれ?本当に長い間に人と感想をシェアしていないから……」
 「でも夕凪は絶対たくさん漫画を買うと思ってたんだ……」
 「僕もまあ文学好きだからさ、フフフ。どんな本でも読むよ」夕凪は俺に顔をしかめた。
 「……実は俺にネタバレしたいんだよね」
 「……そんなことない!」
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目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

脱落モブ男が人気アイドルに愛されるわけがない

綿毛ぽぽ
BL
 アイドルを夢見るも、デビューできずオーディション番組に出演しても脱落ばかりの地味男、亀谷日翔はついに夢を諦めた。そしてひょんなことから事務所にあるカフェで働き始めると、かつて出演していた番組のデビューメンバーと再会する。テレビでも引っ張りだこで相変わらずビジュアルが強い二人は何故か俺に対して距離が近い。 ━━━━━━━━━━━ 現役人気アイドル×脱落モブ男 表紙はくま様からお借りしました https://www.pixiv.net/artworks/84182395

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

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