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三 雨
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そのありふれた冬の夜、君野に家まで送ってもらい、優ちゃんの写真を見せてもらった後、どうやら俺たちの関係は異常に冷静な状態に入ったようだ。俺たちはただ毎週、狭い部活室で2、3回集まり、その後一緒に家へ帰る途中を少し歩くだけだ。俺がどんな料理を作っても、君野はいつも親指を立てて褒めてくれる。今になってやっと、小林が言った「自分の実力が把握できなくなっちゃった」という感じが少しわかるようになった。君野はいつも平然で、彼が一体何を考えているのかさっぱり分からない。
まあ、いいか。君野は俺の得がたい親友だ。一時的な衝動でこの関係を台無しにしたくない。だけど彼はもうすぐ卒業するんだ。彼が高校に入った後、俺たちはまた会えるか? 多くの小説に書かれたように連絡が絶えて、いつか見知らぬ人になってしまうのだろうか?
平成十九年の春、長野の早桜が放課後の道に綺麗に咲いていた。君野の背中を見ながら、突然桜の木の下で彼の写真を撮りたくなったが、そんな要求をいきなり出すのは変だと思った。
「君野、誕生日プレゼントは何がほしいものありますか?」
「そんなこと、普通は本人に直接聞かないじゃないか。」君野は笑いながら言った。「三浦がどんなサプライズを用意してくれるか、楽しみにしているよ。」
「……わかりました。」ブーメランか。ため息をつきながらスマホを上げ、桜の写真を撮ろうとした。シャッターを押す直前の瞬間、君野が突然画面の中に入ってきて、まぶしい笑顔でピースした。
ああ、この人は本当に……
笑いながら言った。「ちゃんと立ってポーズをとってよ、じゃないと出来がおかしくなりますよ。」
すると君野は大人しく俺の前に立ち、桜を見上げた。シャッターを押したその瞬間、彼は突然視線をこっちの方に向けた。
俺はぼうっとしてて、君野は何事もなかったかのように笑いながら「行こう」と言った。
それで俺は、もみじの形をしたオレンジ色のピアスを一つ買って君野にあげた。彼の耳たぶとちょうど合う大きさで、普段学校で髪で隠せば見えなくなる。
君野はそのピアスを見つめながら、複雑な表情を浮かべた。
俺は緊張して言った。「えっと……もし嫌いだったら……」
「好きだよ。」君野は小さな箱の中のピアスを受け取り、間近で非常にリアルに見えるもみじのピアスを見つめていた。
「けど、僕はピアス穴がないんだ。なんであなたがピアスをプレゼントしてくれたのか少し不思議だな。」
「え?! それは……前に君が銀色の小さなピアスをつけているのをちらっと見たんだけど、確か左耳のところでしたね……それ、ピアスじゃなかったんっすか?」
君野は首をかしげて少し思い出してみた。「ああ、クリスマスの日につけていたのかな? そんな小さなものさえ気づいてたの? それはクラスメートからもらったクリスマスプレゼントで、試しにつけてみろと言われたんだ。その夜取ったきり、もうつけていないけど……実はそれ、イヤークリップだよ。」彼は左側の髪をかきあげた。俺は無意識に近づいて見た。そこに本当にピアス穴がないことに気づいた後でやっと、俺たちがどんなに近かったかに気づいた。君野の呼吸まではっきり感じられるくらいだ。俺はすぐ顔を赤らめて後ろに下がった。「君が俺で選んでいいって言ったせいですよ……やっぱり台無しにしちゃった……じゃあ取り替えに行きます……」
「これでいい。」君野はグレーの小さな箱を大事そうにコートのポケットに入れた。「ありがとう、三浦。」
……まさか、鑑賞するつもり? そんな小さいもの、鑑賞には不便だろう……その場に呆然と立って目をパチパチさせ、何を言ったらいいのか分からなかった。だけど君野が嬉しそうに笑っているのを見ると、これでもいいかなと思った。
「今晩用事があるので、部活には行けないね。ごめん。」
「大丈夫っすよ。」君野が腕に薄くて少し古びた本を挟んでいるのに気づいた。それは料理の汁に浸された『ステップニクの恋人』らしかった。
「いつ終わるの?小林が食材を買いすぎて、早く作らないと。しかも今日は君の誕生日ですし……俺が作った後、弁当にして持っていくから、終わった後でどこか会おうか。」
「実は、いつ終わるか分からないんだ……」君野は少し困ったような表情を浮かべた。「大丈夫だよ。あなたは先に帰っていいよ。明日の夜なら暇なはずだ。」
「……わかりました。部室の冷蔵庫に少し料理を残しておくから、そこが終わったら食べに来ていいですよ。」
「——君野先輩がいない部活、つまんねえな!」小林は仰いで長いため息をついた。「ところで、彼もうすぐ卒業するんだよね? これからどうするんだろう、また解散を催促されちゃうわ……ああ……どうして中華料理ファンがいないんだろう!」
「料理が好きな人はきっといると思うよ。ただ、お前みたいに中華料理に熱狂している奴は少ないかも。」
「でも、本当にいいの? 今晩は彼の誕生日を祝う予定だったのに、本人が来ないとどうしよう?」
「彼は来るよ。少し遅くなるだけだ。」
「彼にそう言われたの?」
「ゲスだけ。」俺はうんざりしたように答えた。
小林は絶望的な表情を浮かべながらも、まるで運命を受け入れたかのように手に持ったエビの殻をむいていた。
「オイオイ待って、そんなに唐辛子を入れて大丈夫? 見てるだけでも怖いよ。」
「君野先輩は辛いものが得意じゃない?」
「そう言っても、こんなに辛いのはちょっと……今日は彼の誕生日だよ。病院に送るつもり?」
「ねえ、誰かノックしてる声、聞こえない?」
「お前の幻聴だよ。」
「ちょっと、本当に誰かがノックしてる!——どうぞお入りください!」
「こんにちは……」入ってきたのは背が高くて痩せた男子生徒だ。清潔感のある黒いショートヘアに、透けるようにスッキリしたフレームレスメガネをかけており、一見したら成績が良さそうなタイプだった。
「何かご用でしょうか?」俺が尋ねた。
「あの、お邪魔してすみません。一年生の松本信介です。僕は中華料理がとても好きで、自分で作る経験はあまりないですが、是非挑戦してみたいと思います。」彼はお辞儀をし、両手で入部申請書を差し出した。
「どうぞよろしく……」
「ちょっと待って。」小林は思案しているふりをした。「松本さんよ、今のところの中華チェーン店の麻婆豆腐について、どう思います?」
「小林、またそんな……」
「辛さが足りないと思います。個人の好みの問題かもしれませんが、僕は……」
「ようこそ中華料理部へ! 今後宜しくお願いします!」小林は光速で松本の前に駆け寄り、彼を抱きしめて背中を力強く叩いた。
「……」俺はもう諦念した。
結果、その夜は俺たち三人で、もともと君野のために準備した誕生日の珍味を囲んで食べた。小林は狂ったように松本に自分の極端な中華料理観を伝授し、それを聞いた松本はなんとカバンからノートを取り出して聞きながら書き留めていた。
「よし、よし、松本、これから俺と一緒に最高の中華料理店を開こう!」小林は満足げに腕を組んで言った。
「唐辛子エビ、そんなに食べないで……君野の分、少し残して……」
六時になると、二人は相次いで帰っていった。俺は部屋の明かりをつけ、宿題をしながら君野を待つことにした。
四十分が過ぎると、俺は君野が部室に来るのかどうか疑い始めた。もう家に帰ってしまったのでは? 結局、俺は君野が今日部室に来るかどうかも分からないし、全部自分の推測に過ぎない。ためらいながらも、彼にメッセージを送った。
「もう家に帰りましたか?」
十五分が過ぎても、まだ未読だった。
一体どこに行ったんだろう、この人。時計を見て、もう少し待ってみることにした。
七時十分のころ、部室のドアが突然開かれた。
目が合った瞬間、俺も君野も思わず固まった。
「……えっと、誕生日おめでとうございます!」やっと俺が口を開いた。手忙しく冷蔵庫を開け、一時間前に入れた料理を皿ごと次から次へ取り出した。「君野が来ると思って待っていたので、よかったっす……まだ夕食は食べていないでしょ? これは小林が新しく研究したガーリックファンのエビですよ。俺は試しに食べた、今まだ息をしています、だから安心して食ってください。これは……なんて名前だっけ、角煮? 俺も初めて食べたけど、結構おいしいっすよ、これを食べても死なないと思う。この二つは君野用の定番メニューだね、激辛版麻婆豆腐と唐辛子エビ。早く座って食べて——え? どうしたの?」
君野の目は赤くなっていて、まるで泣きそうだった。振り返ると、彼は足早にこっちに近づき、両腕を広げて俺をしっかり抱きしめてきた。
君野の鼓動の音をはっきり聞くのは初めてだった。とても速く、まるで何かを早く伝えたいかのようだ。俺は目を閉じ、この人の平然とした顔の下に隠れた激しい鼓動を感じながら、やっと俺たちが対等になったと思った。ゆっくりと腕を回して彼を抱き返した。だけど突然、君野も俺の鼓動が聞こえてることに気づいた。俺の心拍は彼のよりもっと速かった。緊張して下唇を噛み締め、いつ手を離せばいいのか全然分からなかった。思考が停止しているようだったので、俺は判断権を君野に任せた。
ずっと君野からの温もりを感じていて、俺はもう時間の概念を失ったようだ。ただずっとしっかり抱きしめられるのを覚えている——まるで手を離せば俺が消えてしまうかのように。しばらく後に、彼が泣いていることに気づいた。彼の体はますます震えが強くなり、俺は何を言ったらいいのか分からなかった。ただもっと力を入れて彼を抱きしめた。その瞬間、俺も彼が目の前から消えてしまうのが怖いことに気づいた。
「どうしてまだここにいるの?」
「君が来るのを待って、誕生日の夕食を一緒に食べたかったのです。」
「どうして僕が来ると分かったの? もしずっと来なかったらどうするつもり?」
「もしずっと来なかったら……ここで待っているっすよ。君からメッセージが返ってくるまで。」
「バカ。」
「うん、バカですね。でも君は今、俺の前にいるじゃないっすか? 当てたよ。もし待っていなかったら、君野は今この小さな部室で独りで泣いているかも。そんな君野を見るのは忍びないからっす。」
「そんなことしないよ。僕は先輩だし、年上だよ。」
「知ってるです。」
君野は赤い目をして、泣き声混じりに「おいしい」「すごくおいしい」と繰り返し言った。この人は思ったより可愛いんだな——顎を手にのせて、彼がやっと空腹に気づいたかのように料理を大きく口に入れる姿を見ていた。今の彼の姿を写真に撮りたい——後で彼が平然とした表情をしているときに、それを見せてからかいたいと思った。もちろん、実際はそうしなかった。今日は彼の誕生日だから、からかうのはやめたほうがいい。
俺は冷蔵庫から小さなケーキを取り出し、彼の前に置いた。
「ちょっと醜いですけど、初めて作ったの、嫌いにしないでくださいね。」照れを隠すため、背を向けてろうそくを探した。
「……え? 僕に作ったの?」
「じゃないと誰のためです? まさか今日は俺の誕生日っすか?」俺は笑いながら言った。「そうだ、明かりを消そう。」
「大丈夫、これでいい。」
君野はゆらめくろうそくの炎に向かって目を閉じた。きっと短い願いだったのだろう——彼はすぐに目を開けてろうそくを吹き消した。
「ありがとう、三浦。これが一番の誕生日だ。」君野はまた眩しい笑顔を見せてくれた。「もし今日が終わらなければいいのに。」
「来年も祝うっすよ……ああ、もしその時君がまだ俺に会いたいなら。」俺は小声で言った。
「なんで会いたくないんだ?」
「……君が卒業するから。」さらに小さい声で言った。そうだ、「卒業」という事実は、見ないふりをすれば簡単に逃れられるものじゃない。
「ああ、そうだ、今日の午後、一年生の後輩が入部申請を出してきたよ。松本って。次からは四人で一緒に料理が作れるっすね……でもそうなると、部室はもっと大きいところに変えないといけないっすね……」
「よかったね。これで僕が卒業しても、中華料理部は存続できる……」
「いや、肝心はそこじゃないです!」
突然声を上げた。君野は驚いた。俺自身も自分の声に驚いた。
何してるんだろう——君野に「僕もあなたと離れたくない」と言わせようとしているの?恋人じゃないし。
「ごめんなさい。」
すると二人は同時に謝った。君野はふっと笑い出し、俺も笑った。
「そろそろ行こう。」
君野の誕生日から一週間後、俺たちはいつものように狭い部室で扇風機をつけながらレシピを研究していた。ただ今回は、ノートを取ったり手伝いたり松本が加わっただけだ。部室移転は申請したが、正式に移るまでには多分一ヶ月かかるそうだ。
君野はもう簡単な食材の処理ができるようになり、俺と小林もとても嬉しかった。だけど、俺はずっと彼に包丁を使わせるのを拒む——その姿を見るだけでも心配にさせるから。変わらないのは、彼がそばにいるとき、心臓がどきどきすることだ。俺はよく自分がこんなに若いのに心臓病にかからないか心配になる。
その日も彼が俺のそばで野菜を洗っていた。突然誰かが小声で俺の名前を呼ぶのが聞こえ、横に向けると、君野が左側の髪を耳の後ろにかきあげて、俺があげた紅葉のピアスを見せてくれた。
心臓が飛び出しそうだった。
この人と親しくなってから、俺はよく「自分の理解力が悪いのか、それとも彼の行動が常識を超えすぎたのか」と思う。ちょっと待て、本当に十五歳で心臓病になる人がいるの? 目の前のこの人は、心臓に悪影響を与えすぎる。だけど俺はほぼ絶望的に、自分に退路がとっくにないことに気付いた。
「ピアス穴を開けてから回復するのに時間がかかったけど、治ったらすぐにあなたがあげたピアスをつけたよ。本当にきれいだ。」
「先輩、何か沸いてる音がするような……湯を沸かしてますか?」
「ううん……ああ、三浦の顔が沸いてるよ。彼はよくこうなるから、慣れればいい。後で卵を二つ彼の顔に打てばすぐに煮えるよ。」
「でも、君野先輩と三浦先輩が一緒にいると、絵になるんですね……」
「うんうん、野菜を洗うイケメンと野菜を切るイケメン。この姿を写真に撮って部の宣伝写真に使いたいな。きっとたくさん女の子が惹かれるだろう。」
「……買ったときに思ったのです。これ、君の耳につけたら、きっと、とてもいいですよ。」小声で言い、渋るように視線をそらした。
その日から、俺はいつも意図的か無意識か君野の耳を見るようになった——風が吹いたとき、彼がうつむいて髪の毛をかきあげたとき。もちろん、彼は時折俺の視線に気づく。だけど、彼がこっちを見る前に、俺は既に目をそらした。
その紅葉のピアスは、ずっと静かに彼の左耳たぶについていた。
これでいい。
すぐに六月になった。君野はクラスメイトと一緒に卒業写真を撮った後、部室に戻り、囲碁部の同級生に頼んで四人で写真を撮った。俺たちは変わったポーズをとり、たくさんの変な写真を残した。
「そろそろ行かないと。」
「おう、卒業おめでとうっす! 時間があったら戻ってきてご飯を食べよう。」小林が手を振った。
「先輩、行かないで……」松本はさっき写真を撮っているときから泣きこらえていたが、今やっと思い切り泣き出した。
「ああ、君野先輩がいなくなったら、松本が一番役に立たない奴になるね。」
「ひどいですよ、先輩……」
俺はただ視線を落とし、何も言わなかった。
これでいい。
すると、視界に一足の清潔な白いスニーカーが現れた。
「三浦、一緒に写真を撮ろう。」
松本は泣いて手が震えていたので、最後は小林が俺と君野の写真を撮ってくれた。
「ちょっと待て、お前たち今日初めて会うの? そんなに離れていて、画面に二人とも収まらねえよ。」
君野は笑いながら俺の肩に腕を回し、もう一方の手には俺があげたワスレナグサを持っていた。
これでいい。
その日の午後、昔君野と一緒に歩いた放課後の道でゆっくりと家の方向に歩いていった。空はまだ明るいが、少し曇っていて、真夏はまだ来ていない。昔俺たちが別れた交差点に着いたとき、突然足を止めた——このまま家に帰りたくなかった。
「——この位置でいいですか?」
俺は右耳たぶにつけられた青いマークを見ながら、そっとうなずいた。目を閉じると、耳たぶからははっきりと痛みが伝わり、軽微な裂けるような感じに軽微な異物感が混ざっていた。
君野さ、君はその時、どんな気持ちでここに座っていたの? この銀のピアスが君の左耳たぶを貫いたとき、何を思っていたの? 俺のことを思っていたの? 目を開けて、青いマークが銀のピアスに変わっているのを見た。もう君がその時何を思っていたのか当てたくない——少なくとも俺は、目を閉じた瞬間、痛みと一緒に頭に浮かんだのは、君の左耳の紅葉のピアスと、君の眩しい笑顔だったことをはっきり知っている。
これじゃいけない。全然いけない。こんなにはっきりしないまま終わりたくない。
お辞儀をして礼を言い、外に出ると小雨が降っていた。傘を持ってきていなかったが、こんな小雨なら大丈夫だろう。リュックを頭の上に置き、君野の家の方向に走り出した。
長野の夏雨はいつも突然やってきて予測が全くつかない。ピアスショップを出た瞬間から、この小雨が早く止むことを祈っていたが、十分間走った後、雨はすごく激しくなった。今朝の天気予報では雨がないと言っていたのに——本当についてないな。たとえ本当に大雨の中を君野の家まで走っていったとして、本当にドアをノックする勇気があるのか?
だけどこれ以上は考えなかった。ただ、チャット履歴にだけ存在して、実際に行ったことがない君野の住所に行きたかった——もう一度その人に会いたくて、もう一度その人の声を聞きたかった。
俺は何度もためらった——彼と一緒に桜並木を歩いたとき、彼が『仮面の告白』を渡してきたとき、彼が興味深そうに俺の料理を見つめていたとき、誕生日に部室で彼に会ったとき、彼が泣きながら俺を抱きしめたとき、彼が願いをした後優しくこっちを見つめたとき、彼が自慢するように左耳の紅葉ピアスを見せてきたとき、さっき小林が俺たちの写真を撮ったとき、毎回一緒に帰るとき、毎回彼のそばに立ったとき、毎回視線が合ったとき。
気づいたときには、既に力を込めてドアをノックしていた。
君野は水色のホームウェアを着て俺の前に立っていた。俺は全身濡れた制服を着て、彼の前に立っていた。彼は目を見開き、慌てて俺を部屋の中に引き込もうとしたが、俺は手を振ってただ戸外に立ったままだった。君野は仕方なく横の戸棚から急いで傘を取り出し、俺の頭上で開いた。
「どうしたの?」
「……」
クソ、何か言え、何か言えよ。だけど頭の中がごちゃごちゃしていて、どこから話せばいいのかさっぱり分からなかった。大雨が傘に当たる音を、頭がほとんど真っ白な状態で聞いていた。
君野は催促もせず、ただ優しく心配そうにこっちを見つめていた。
「……君は、いつもこうやって何も言わず、ただ俺がバカみたいにおかしなことをするのを待っているんですね。俺が気づかない間に手に持っていた『金閣寺』を『仮面の告白』に換えたり、誕生日プレゼントで何が欲しいかも言わなかったり、一言も知らせずに勝手に部室に戻ってきたり、突然に抱きしめて泣いたり……それで、君はもしかしたら、俺のことがちょっと好きになっていたんですか?と、そう思った。」
深く息を吸った。
「君のそばに立つたび、いつも『今、君が俺の待ちくたびれた言葉を言ってくれるのだろう』と錯覚してしまう。けど君はいつもそんなこと言ってくれなかった。俺は『大丈夫、どうせまだ同じ学校にいるし、君はまだ俺から離れていないから、もう少し待ってればいい。君がその言葉を言うまで待つことができる』と思ってたんっす。だけど、だけど……君がもう卒業しましたよ。これは早すぎじゃん……どうしたら君も俺のことを好きになってくれるんっすか? もどかしくてたまんないです。もし君と同い年だったらいいのに。そうだったら俺も君のように余裕があって、いつも穏やかで優しく笑えるのかな。そうだったら君と同じ高校に一緒に入れて、君がその言葉を言うまでまた三年の時間が与えられる。」
「君野がどう思っているのか分からないです。確かめられない、そんな自信がないです。君が高校に入ったらもう連絡しなくなったり、俺を忘れたり、……他の人と付き合ったりするのが怖いです。誰にも君を譲りたくないっす。君のことが好きです、この世で一番大好きです。この言葉を言うのがいつも怖かったっす。言ったら君が消えてしまうのか……怖かったっす。だけど今、これが最後のチャンスなのかもしれない。」
「君のことをもっと知りたい、ずっと君のそばにいたい、一緒に本を読みたい、一緒に料理を作りたいっす。中華料理じゃなくてもいい、君と一緒なら何をしてもいいです。俺は君より年下の小僧に過ぎないし、何も君にあげられないけど、これだけは約束できるっす。誓うから——」
うつむいて彼の右手を引いて自分の左胸に当てた。
「だから、離れないで、君……」
上を向いた瞬間、君野の美しい顔が眼前で最大限に近づいた。彼のまつ毛が頬にそっと触れて、ちょっとかゆい。すごく美しい——いつも夢の中に見える、非現実的なほど美しい、赤く熱くなった頬。嵐の中で届いた他人からの温度。耳をつんざくような鼓動が聞こえた。それは俺の鼓動の音と混ざり合い、まるで体が爆発しそう。冷たくて柔らかい羽根が唇に落ちてきたような、それは天使からの撫でだ。まだ何か言いたかったが、頭はまた真っ白になって、意識を集中して天使の息遣いを感じていた。彼は容赦なく俺の口の中に残った酸素と、頭の中に残った理性を全部奪い取っていた。
彼は左手を伸ばして俺の頬を撫で、小さくて硬くて冷たい銀のピアスに触れた瞬間、手がそこで止まった。
彼は俺の頬に密着したまま、目を開けて俺の右耳を見つめた。
「痛いの?」
「……君と同じです。」
君野はそっと俺のピアスにキスをした。照れくさくて叫びながら跳び離れそうになった。
「ピアスを開けた瞬間は確かに痛かった。だけど幸い、目を閉じたらあなたの姿が見えた。顔を赤らめてピアスをあげてきたあなたの姿が見えたから、そんなに怖くなくなった。」
俺は茫然と君野を見つめていた。彼はさっきよりもさらに近くに立っていた。手を伸ばして全身ぬれた俺をしっかり抱きしめた。とても懐かしい温度を感じて、泣きそうになった。君野はもう泣いていた——この人の外見は冷静そうだけど、実はよく泣く性格なんだね、とそう思った。
彼は泣きながら言った。「蓮のことが好きだ、本当に好きだ。やっとこう呼べるよ。ごめん、ごめん、こんなに長い間不安にさせて。自分に自信がなくて、蓮にふさわしい人になれるか分からなかったから。だけどこれから頑張るから。好きでいてくれてありがとう、見つけてくれてありがとう、こんなに素敵な思い出をくれてありがとう。一生離れないよ。……恋人になってくれる?」
「……蓮……」俺は故障した機械のように自分の名前を繰り返した。「もう一度俺の名前を呼んでくれますか?」
「答えてくれたら言う。」
俺は笑いながら君野の唇にキスをした。
「いいよ。」
「蓮。」
俺はいきなり大きなくしゃみをした。君野はやっと思い出したように急いで俺を部屋の中に引き込んだ。
「早くお風呂に入って、後で僕の服を着よう。」
俺は君野の裾を掴み、うつむいて「少し、君の家にいていいっすか」と尋ねた。
「いいよ。母さんは午後に実家に帰っちゃって、明後日の朝まで戻ってこない。ここに泊まっても大丈夫。」
話し声が落ちた瞬間、活発なアメリカンショートヘアが隅から飛び出して、俺の足元に座り、俺と見つめ合った。
「これは優ちゃんだ。蓮のことを好きみたいだね。優、こちらは蓮で、僕の彼氏だよ。」
結局、その夜俺は風邪をひいてしまい、開けたばかりのピアス穴も水が入ったため少し炎症を起こした。君野は俺に自分のベッドへ横になるように促し、ずっとピアス穴の消毒を手伝ってくれた。
「そういえば、『金閣寺』の主人公は、美しさがあまりにも激しくて嫉妬心を抱き、最後に自分の手でその美しさを破壊しちゃうんだよ……美しさを守りたくなるより、むしろ妬むの方が自然じゃないかな?」
「わあ、暗い。君野もそう思ってたんっすか?」
「うん。蓮に初めて会ったときからそう思ってた。蓮は美しい瞳をしていて、高い鼻筋もあり、男前な顔をしていた。その時、『こんなイケメンに僕の本を料理の汁にこぼされても、許せないわけじゃないな』って思ったんだ。」
「でも……君に初めて会ったとき、俺も君がすごくきれいだと思ったよ。その時、『こんな美人の本を汚しちゃったらどうしよう』って思って慌ててしまった……」
「男性を『きれい』って本当に褒めるの?」君野は俺の額を軽く叩いた。「僕は小さい時から『女の子みたいに可愛い』って言われてきたけど、自分はそれが嫌いだ。もし僕が蓮みたいならいいのにな……」
「もし外見が交換できるなら、俺はありがたいよ。」
「ああ、そうだ、蓮に渡したい本がある。」君野は笑顔でリュックから川端康成の『少年』を取り出して俺に渡した。「元は卒業式の後に渡そうと思ってたんだけど、朝急いでリュックに入れるのを忘れちゃった。もう渡せないかなって思ってたよ。」
「ありがとう……最初は『金閣寺』を渡して謝ろうと思っただけなのに、今じゃ本を交換するのはもう定番になっちゃったみたいっすね……」
両手でその本を受け取った。
「どういたしまして、蓮。僕たちはもう恋人だから、敬語もそろそろやめてよ。それと、ねえ、『君野』って呼ばないで。みんなそう呼んでるけど、蓮には名前を呼んで欲しい。」
「……あ、楓咲。」顔が火照ってきたのが分かり、楓咲と目を合わせることができなかった。
「僕を見て。」
向かいの少年は温かい手で俺の頬を撫でて、視線を合わせた。彼は相変わらずの笑顔を浮かべながら、とても柔らかくも確かな口調で言った。
「蓮、もし僕が蓮のこの美しさを破壊したくなったらどうする? 許してくれる?」
栗色の美しい瞳の中には、まるで渦巻きが生まれているようだった。
どう返せばいいのか分からず、ただ顔を赤らめて呆然としていた。窓の外の大雨はいつの間にか止んで、夕日が雲の隙間から差し込み、大空を染めた。
「蓮がその本を僕に渡した後、目を開けても金閣寺、目を閉じても金閣寺、夢の中まで金閣寺だった。僕はもう蓮の美しさに壊されちゃったんだ。」
その美しい瞳が目の前でゆっくりと閉じられ、細長いまつ毛が頬にそっと触れた。柔らかい唇が貪欲に愛を求めてきた。金閣寺は既に崩れ落ちて、俺たちはもうその儚い美しさを必要としない。目を開けると、夕日の光に包まれ、全身に金色の輪郭が描かれ、まるで神様のような君野楓咲が目の前にいた。
「……ごめんね……」鼻が詰まってきたのを感じた。「でも風邪を移されちゃうかもしれないよ……」
「蓮から移されるなら、むしろ嬉しいよ。」楓咲は笑いながら言った。「でも今後、こんな大雨の中を走るのはやめてほしいね。」
「今回は誰かさんのためだよ……」
「うんうん、お疲れ様、蓮。」楓咲は俺の頬にキスをしてから、隣に横になり、天井の明かりを調節した。
「ごめん、蓮。暗いのがちょっと怖いんだ。この明るさだったら、眠れる?」
「うん。おやすみ。」
まあ、いいか。君野は俺の得がたい親友だ。一時的な衝動でこの関係を台無しにしたくない。だけど彼はもうすぐ卒業するんだ。彼が高校に入った後、俺たちはまた会えるか? 多くの小説に書かれたように連絡が絶えて、いつか見知らぬ人になってしまうのだろうか?
平成十九年の春、長野の早桜が放課後の道に綺麗に咲いていた。君野の背中を見ながら、突然桜の木の下で彼の写真を撮りたくなったが、そんな要求をいきなり出すのは変だと思った。
「君野、誕生日プレゼントは何がほしいものありますか?」
「そんなこと、普通は本人に直接聞かないじゃないか。」君野は笑いながら言った。「三浦がどんなサプライズを用意してくれるか、楽しみにしているよ。」
「……わかりました。」ブーメランか。ため息をつきながらスマホを上げ、桜の写真を撮ろうとした。シャッターを押す直前の瞬間、君野が突然画面の中に入ってきて、まぶしい笑顔でピースした。
ああ、この人は本当に……
笑いながら言った。「ちゃんと立ってポーズをとってよ、じゃないと出来がおかしくなりますよ。」
すると君野は大人しく俺の前に立ち、桜を見上げた。シャッターを押したその瞬間、彼は突然視線をこっちの方に向けた。
俺はぼうっとしてて、君野は何事もなかったかのように笑いながら「行こう」と言った。
それで俺は、もみじの形をしたオレンジ色のピアスを一つ買って君野にあげた。彼の耳たぶとちょうど合う大きさで、普段学校で髪で隠せば見えなくなる。
君野はそのピアスを見つめながら、複雑な表情を浮かべた。
俺は緊張して言った。「えっと……もし嫌いだったら……」
「好きだよ。」君野は小さな箱の中のピアスを受け取り、間近で非常にリアルに見えるもみじのピアスを見つめていた。
「けど、僕はピアス穴がないんだ。なんであなたがピアスをプレゼントしてくれたのか少し不思議だな。」
「え?! それは……前に君が銀色の小さなピアスをつけているのをちらっと見たんだけど、確か左耳のところでしたね……それ、ピアスじゃなかったんっすか?」
君野は首をかしげて少し思い出してみた。「ああ、クリスマスの日につけていたのかな? そんな小さなものさえ気づいてたの? それはクラスメートからもらったクリスマスプレゼントで、試しにつけてみろと言われたんだ。その夜取ったきり、もうつけていないけど……実はそれ、イヤークリップだよ。」彼は左側の髪をかきあげた。俺は無意識に近づいて見た。そこに本当にピアス穴がないことに気づいた後でやっと、俺たちがどんなに近かったかに気づいた。君野の呼吸まではっきり感じられるくらいだ。俺はすぐ顔を赤らめて後ろに下がった。「君が俺で選んでいいって言ったせいですよ……やっぱり台無しにしちゃった……じゃあ取り替えに行きます……」
「これでいい。」君野はグレーの小さな箱を大事そうにコートのポケットに入れた。「ありがとう、三浦。」
……まさか、鑑賞するつもり? そんな小さいもの、鑑賞には不便だろう……その場に呆然と立って目をパチパチさせ、何を言ったらいいのか分からなかった。だけど君野が嬉しそうに笑っているのを見ると、これでもいいかなと思った。
「今晩用事があるので、部活には行けないね。ごめん。」
「大丈夫っすよ。」君野が腕に薄くて少し古びた本を挟んでいるのに気づいた。それは料理の汁に浸された『ステップニクの恋人』らしかった。
「いつ終わるの?小林が食材を買いすぎて、早く作らないと。しかも今日は君の誕生日ですし……俺が作った後、弁当にして持っていくから、終わった後でどこか会おうか。」
「実は、いつ終わるか分からないんだ……」君野は少し困ったような表情を浮かべた。「大丈夫だよ。あなたは先に帰っていいよ。明日の夜なら暇なはずだ。」
「……わかりました。部室の冷蔵庫に少し料理を残しておくから、そこが終わったら食べに来ていいですよ。」
「——君野先輩がいない部活、つまんねえな!」小林は仰いで長いため息をついた。「ところで、彼もうすぐ卒業するんだよね? これからどうするんだろう、また解散を催促されちゃうわ……ああ……どうして中華料理ファンがいないんだろう!」
「料理が好きな人はきっといると思うよ。ただ、お前みたいに中華料理に熱狂している奴は少ないかも。」
「でも、本当にいいの? 今晩は彼の誕生日を祝う予定だったのに、本人が来ないとどうしよう?」
「彼は来るよ。少し遅くなるだけだ。」
「彼にそう言われたの?」
「ゲスだけ。」俺はうんざりしたように答えた。
小林は絶望的な表情を浮かべながらも、まるで運命を受け入れたかのように手に持ったエビの殻をむいていた。
「オイオイ待って、そんなに唐辛子を入れて大丈夫? 見てるだけでも怖いよ。」
「君野先輩は辛いものが得意じゃない?」
「そう言っても、こんなに辛いのはちょっと……今日は彼の誕生日だよ。病院に送るつもり?」
「ねえ、誰かノックしてる声、聞こえない?」
「お前の幻聴だよ。」
「ちょっと、本当に誰かがノックしてる!——どうぞお入りください!」
「こんにちは……」入ってきたのは背が高くて痩せた男子生徒だ。清潔感のある黒いショートヘアに、透けるようにスッキリしたフレームレスメガネをかけており、一見したら成績が良さそうなタイプだった。
「何かご用でしょうか?」俺が尋ねた。
「あの、お邪魔してすみません。一年生の松本信介です。僕は中華料理がとても好きで、自分で作る経験はあまりないですが、是非挑戦してみたいと思います。」彼はお辞儀をし、両手で入部申請書を差し出した。
「どうぞよろしく……」
「ちょっと待って。」小林は思案しているふりをした。「松本さんよ、今のところの中華チェーン店の麻婆豆腐について、どう思います?」
「小林、またそんな……」
「辛さが足りないと思います。個人の好みの問題かもしれませんが、僕は……」
「ようこそ中華料理部へ! 今後宜しくお願いします!」小林は光速で松本の前に駆け寄り、彼を抱きしめて背中を力強く叩いた。
「……」俺はもう諦念した。
結果、その夜は俺たち三人で、もともと君野のために準備した誕生日の珍味を囲んで食べた。小林は狂ったように松本に自分の極端な中華料理観を伝授し、それを聞いた松本はなんとカバンからノートを取り出して聞きながら書き留めていた。
「よし、よし、松本、これから俺と一緒に最高の中華料理店を開こう!」小林は満足げに腕を組んで言った。
「唐辛子エビ、そんなに食べないで……君野の分、少し残して……」
六時になると、二人は相次いで帰っていった。俺は部屋の明かりをつけ、宿題をしながら君野を待つことにした。
四十分が過ぎると、俺は君野が部室に来るのかどうか疑い始めた。もう家に帰ってしまったのでは? 結局、俺は君野が今日部室に来るかどうかも分からないし、全部自分の推測に過ぎない。ためらいながらも、彼にメッセージを送った。
「もう家に帰りましたか?」
十五分が過ぎても、まだ未読だった。
一体どこに行ったんだろう、この人。時計を見て、もう少し待ってみることにした。
七時十分のころ、部室のドアが突然開かれた。
目が合った瞬間、俺も君野も思わず固まった。
「……えっと、誕生日おめでとうございます!」やっと俺が口を開いた。手忙しく冷蔵庫を開け、一時間前に入れた料理を皿ごと次から次へ取り出した。「君野が来ると思って待っていたので、よかったっす……まだ夕食は食べていないでしょ? これは小林が新しく研究したガーリックファンのエビですよ。俺は試しに食べた、今まだ息をしています、だから安心して食ってください。これは……なんて名前だっけ、角煮? 俺も初めて食べたけど、結構おいしいっすよ、これを食べても死なないと思う。この二つは君野用の定番メニューだね、激辛版麻婆豆腐と唐辛子エビ。早く座って食べて——え? どうしたの?」
君野の目は赤くなっていて、まるで泣きそうだった。振り返ると、彼は足早にこっちに近づき、両腕を広げて俺をしっかり抱きしめてきた。
君野の鼓動の音をはっきり聞くのは初めてだった。とても速く、まるで何かを早く伝えたいかのようだ。俺は目を閉じ、この人の平然とした顔の下に隠れた激しい鼓動を感じながら、やっと俺たちが対等になったと思った。ゆっくりと腕を回して彼を抱き返した。だけど突然、君野も俺の鼓動が聞こえてることに気づいた。俺の心拍は彼のよりもっと速かった。緊張して下唇を噛み締め、いつ手を離せばいいのか全然分からなかった。思考が停止しているようだったので、俺は判断権を君野に任せた。
ずっと君野からの温もりを感じていて、俺はもう時間の概念を失ったようだ。ただずっとしっかり抱きしめられるのを覚えている——まるで手を離せば俺が消えてしまうかのように。しばらく後に、彼が泣いていることに気づいた。彼の体はますます震えが強くなり、俺は何を言ったらいいのか分からなかった。ただもっと力を入れて彼を抱きしめた。その瞬間、俺も彼が目の前から消えてしまうのが怖いことに気づいた。
「どうしてまだここにいるの?」
「君が来るのを待って、誕生日の夕食を一緒に食べたかったのです。」
「どうして僕が来ると分かったの? もしずっと来なかったらどうするつもり?」
「もしずっと来なかったら……ここで待っているっすよ。君からメッセージが返ってくるまで。」
「バカ。」
「うん、バカですね。でも君は今、俺の前にいるじゃないっすか? 当てたよ。もし待っていなかったら、君野は今この小さな部室で独りで泣いているかも。そんな君野を見るのは忍びないからっす。」
「そんなことしないよ。僕は先輩だし、年上だよ。」
「知ってるです。」
君野は赤い目をして、泣き声混じりに「おいしい」「すごくおいしい」と繰り返し言った。この人は思ったより可愛いんだな——顎を手にのせて、彼がやっと空腹に気づいたかのように料理を大きく口に入れる姿を見ていた。今の彼の姿を写真に撮りたい——後で彼が平然とした表情をしているときに、それを見せてからかいたいと思った。もちろん、実際はそうしなかった。今日は彼の誕生日だから、からかうのはやめたほうがいい。
俺は冷蔵庫から小さなケーキを取り出し、彼の前に置いた。
「ちょっと醜いですけど、初めて作ったの、嫌いにしないでくださいね。」照れを隠すため、背を向けてろうそくを探した。
「……え? 僕に作ったの?」
「じゃないと誰のためです? まさか今日は俺の誕生日っすか?」俺は笑いながら言った。「そうだ、明かりを消そう。」
「大丈夫、これでいい。」
君野はゆらめくろうそくの炎に向かって目を閉じた。きっと短い願いだったのだろう——彼はすぐに目を開けてろうそくを吹き消した。
「ありがとう、三浦。これが一番の誕生日だ。」君野はまた眩しい笑顔を見せてくれた。「もし今日が終わらなければいいのに。」
「来年も祝うっすよ……ああ、もしその時君がまだ俺に会いたいなら。」俺は小声で言った。
「なんで会いたくないんだ?」
「……君が卒業するから。」さらに小さい声で言った。そうだ、「卒業」という事実は、見ないふりをすれば簡単に逃れられるものじゃない。
「ああ、そうだ、今日の午後、一年生の後輩が入部申請を出してきたよ。松本って。次からは四人で一緒に料理が作れるっすね……でもそうなると、部室はもっと大きいところに変えないといけないっすね……」
「よかったね。これで僕が卒業しても、中華料理部は存続できる……」
「いや、肝心はそこじゃないです!」
突然声を上げた。君野は驚いた。俺自身も自分の声に驚いた。
何してるんだろう——君野に「僕もあなたと離れたくない」と言わせようとしているの?恋人じゃないし。
「ごめんなさい。」
すると二人は同時に謝った。君野はふっと笑い出し、俺も笑った。
「そろそろ行こう。」
君野の誕生日から一週間後、俺たちはいつものように狭い部室で扇風機をつけながらレシピを研究していた。ただ今回は、ノートを取ったり手伝いたり松本が加わっただけだ。部室移転は申請したが、正式に移るまでには多分一ヶ月かかるそうだ。
君野はもう簡単な食材の処理ができるようになり、俺と小林もとても嬉しかった。だけど、俺はずっと彼に包丁を使わせるのを拒む——その姿を見るだけでも心配にさせるから。変わらないのは、彼がそばにいるとき、心臓がどきどきすることだ。俺はよく自分がこんなに若いのに心臓病にかからないか心配になる。
その日も彼が俺のそばで野菜を洗っていた。突然誰かが小声で俺の名前を呼ぶのが聞こえ、横に向けると、君野が左側の髪を耳の後ろにかきあげて、俺があげた紅葉のピアスを見せてくれた。
心臓が飛び出しそうだった。
この人と親しくなってから、俺はよく「自分の理解力が悪いのか、それとも彼の行動が常識を超えすぎたのか」と思う。ちょっと待て、本当に十五歳で心臓病になる人がいるの? 目の前のこの人は、心臓に悪影響を与えすぎる。だけど俺はほぼ絶望的に、自分に退路がとっくにないことに気付いた。
「ピアス穴を開けてから回復するのに時間がかかったけど、治ったらすぐにあなたがあげたピアスをつけたよ。本当にきれいだ。」
「先輩、何か沸いてる音がするような……湯を沸かしてますか?」
「ううん……ああ、三浦の顔が沸いてるよ。彼はよくこうなるから、慣れればいい。後で卵を二つ彼の顔に打てばすぐに煮えるよ。」
「でも、君野先輩と三浦先輩が一緒にいると、絵になるんですね……」
「うんうん、野菜を洗うイケメンと野菜を切るイケメン。この姿を写真に撮って部の宣伝写真に使いたいな。きっとたくさん女の子が惹かれるだろう。」
「……買ったときに思ったのです。これ、君の耳につけたら、きっと、とてもいいですよ。」小声で言い、渋るように視線をそらした。
その日から、俺はいつも意図的か無意識か君野の耳を見るようになった——風が吹いたとき、彼がうつむいて髪の毛をかきあげたとき。もちろん、彼は時折俺の視線に気づく。だけど、彼がこっちを見る前に、俺は既に目をそらした。
その紅葉のピアスは、ずっと静かに彼の左耳たぶについていた。
これでいい。
すぐに六月になった。君野はクラスメイトと一緒に卒業写真を撮った後、部室に戻り、囲碁部の同級生に頼んで四人で写真を撮った。俺たちは変わったポーズをとり、たくさんの変な写真を残した。
「そろそろ行かないと。」
「おう、卒業おめでとうっす! 時間があったら戻ってきてご飯を食べよう。」小林が手を振った。
「先輩、行かないで……」松本はさっき写真を撮っているときから泣きこらえていたが、今やっと思い切り泣き出した。
「ああ、君野先輩がいなくなったら、松本が一番役に立たない奴になるね。」
「ひどいですよ、先輩……」
俺はただ視線を落とし、何も言わなかった。
これでいい。
すると、視界に一足の清潔な白いスニーカーが現れた。
「三浦、一緒に写真を撮ろう。」
松本は泣いて手が震えていたので、最後は小林が俺と君野の写真を撮ってくれた。
「ちょっと待て、お前たち今日初めて会うの? そんなに離れていて、画面に二人とも収まらねえよ。」
君野は笑いながら俺の肩に腕を回し、もう一方の手には俺があげたワスレナグサを持っていた。
これでいい。
その日の午後、昔君野と一緒に歩いた放課後の道でゆっくりと家の方向に歩いていった。空はまだ明るいが、少し曇っていて、真夏はまだ来ていない。昔俺たちが別れた交差点に着いたとき、突然足を止めた——このまま家に帰りたくなかった。
「——この位置でいいですか?」
俺は右耳たぶにつけられた青いマークを見ながら、そっとうなずいた。目を閉じると、耳たぶからははっきりと痛みが伝わり、軽微な裂けるような感じに軽微な異物感が混ざっていた。
君野さ、君はその時、どんな気持ちでここに座っていたの? この銀のピアスが君の左耳たぶを貫いたとき、何を思っていたの? 俺のことを思っていたの? 目を開けて、青いマークが銀のピアスに変わっているのを見た。もう君がその時何を思っていたのか当てたくない——少なくとも俺は、目を閉じた瞬間、痛みと一緒に頭に浮かんだのは、君の左耳の紅葉のピアスと、君の眩しい笑顔だったことをはっきり知っている。
これじゃいけない。全然いけない。こんなにはっきりしないまま終わりたくない。
お辞儀をして礼を言い、外に出ると小雨が降っていた。傘を持ってきていなかったが、こんな小雨なら大丈夫だろう。リュックを頭の上に置き、君野の家の方向に走り出した。
長野の夏雨はいつも突然やってきて予測が全くつかない。ピアスショップを出た瞬間から、この小雨が早く止むことを祈っていたが、十分間走った後、雨はすごく激しくなった。今朝の天気予報では雨がないと言っていたのに——本当についてないな。たとえ本当に大雨の中を君野の家まで走っていったとして、本当にドアをノックする勇気があるのか?
だけどこれ以上は考えなかった。ただ、チャット履歴にだけ存在して、実際に行ったことがない君野の住所に行きたかった——もう一度その人に会いたくて、もう一度その人の声を聞きたかった。
俺は何度もためらった——彼と一緒に桜並木を歩いたとき、彼が『仮面の告白』を渡してきたとき、彼が興味深そうに俺の料理を見つめていたとき、誕生日に部室で彼に会ったとき、彼が泣きながら俺を抱きしめたとき、彼が願いをした後優しくこっちを見つめたとき、彼が自慢するように左耳の紅葉ピアスを見せてきたとき、さっき小林が俺たちの写真を撮ったとき、毎回一緒に帰るとき、毎回彼のそばに立ったとき、毎回視線が合ったとき。
気づいたときには、既に力を込めてドアをノックしていた。
君野は水色のホームウェアを着て俺の前に立っていた。俺は全身濡れた制服を着て、彼の前に立っていた。彼は目を見開き、慌てて俺を部屋の中に引き込もうとしたが、俺は手を振ってただ戸外に立ったままだった。君野は仕方なく横の戸棚から急いで傘を取り出し、俺の頭上で開いた。
「どうしたの?」
「……」
クソ、何か言え、何か言えよ。だけど頭の中がごちゃごちゃしていて、どこから話せばいいのかさっぱり分からなかった。大雨が傘に当たる音を、頭がほとんど真っ白な状態で聞いていた。
君野は催促もせず、ただ優しく心配そうにこっちを見つめていた。
「……君は、いつもこうやって何も言わず、ただ俺がバカみたいにおかしなことをするのを待っているんですね。俺が気づかない間に手に持っていた『金閣寺』を『仮面の告白』に換えたり、誕生日プレゼントで何が欲しいかも言わなかったり、一言も知らせずに勝手に部室に戻ってきたり、突然に抱きしめて泣いたり……それで、君はもしかしたら、俺のことがちょっと好きになっていたんですか?と、そう思った。」
深く息を吸った。
「君のそばに立つたび、いつも『今、君が俺の待ちくたびれた言葉を言ってくれるのだろう』と錯覚してしまう。けど君はいつもそんなこと言ってくれなかった。俺は『大丈夫、どうせまだ同じ学校にいるし、君はまだ俺から離れていないから、もう少し待ってればいい。君がその言葉を言うまで待つことができる』と思ってたんっす。だけど、だけど……君がもう卒業しましたよ。これは早すぎじゃん……どうしたら君も俺のことを好きになってくれるんっすか? もどかしくてたまんないです。もし君と同い年だったらいいのに。そうだったら俺も君のように余裕があって、いつも穏やかで優しく笑えるのかな。そうだったら君と同じ高校に一緒に入れて、君がその言葉を言うまでまた三年の時間が与えられる。」
「君野がどう思っているのか分からないです。確かめられない、そんな自信がないです。君が高校に入ったらもう連絡しなくなったり、俺を忘れたり、……他の人と付き合ったりするのが怖いです。誰にも君を譲りたくないっす。君のことが好きです、この世で一番大好きです。この言葉を言うのがいつも怖かったっす。言ったら君が消えてしまうのか……怖かったっす。だけど今、これが最後のチャンスなのかもしれない。」
「君のことをもっと知りたい、ずっと君のそばにいたい、一緒に本を読みたい、一緒に料理を作りたいっす。中華料理じゃなくてもいい、君と一緒なら何をしてもいいです。俺は君より年下の小僧に過ぎないし、何も君にあげられないけど、これだけは約束できるっす。誓うから——」
うつむいて彼の右手を引いて自分の左胸に当てた。
「だから、離れないで、君……」
上を向いた瞬間、君野の美しい顔が眼前で最大限に近づいた。彼のまつ毛が頬にそっと触れて、ちょっとかゆい。すごく美しい——いつも夢の中に見える、非現実的なほど美しい、赤く熱くなった頬。嵐の中で届いた他人からの温度。耳をつんざくような鼓動が聞こえた。それは俺の鼓動の音と混ざり合い、まるで体が爆発しそう。冷たくて柔らかい羽根が唇に落ちてきたような、それは天使からの撫でだ。まだ何か言いたかったが、頭はまた真っ白になって、意識を集中して天使の息遣いを感じていた。彼は容赦なく俺の口の中に残った酸素と、頭の中に残った理性を全部奪い取っていた。
彼は左手を伸ばして俺の頬を撫で、小さくて硬くて冷たい銀のピアスに触れた瞬間、手がそこで止まった。
彼は俺の頬に密着したまま、目を開けて俺の右耳を見つめた。
「痛いの?」
「……君と同じです。」
君野はそっと俺のピアスにキスをした。照れくさくて叫びながら跳び離れそうになった。
「ピアスを開けた瞬間は確かに痛かった。だけど幸い、目を閉じたらあなたの姿が見えた。顔を赤らめてピアスをあげてきたあなたの姿が見えたから、そんなに怖くなくなった。」
俺は茫然と君野を見つめていた。彼はさっきよりもさらに近くに立っていた。手を伸ばして全身ぬれた俺をしっかり抱きしめた。とても懐かしい温度を感じて、泣きそうになった。君野はもう泣いていた——この人の外見は冷静そうだけど、実はよく泣く性格なんだね、とそう思った。
彼は泣きながら言った。「蓮のことが好きだ、本当に好きだ。やっとこう呼べるよ。ごめん、ごめん、こんなに長い間不安にさせて。自分に自信がなくて、蓮にふさわしい人になれるか分からなかったから。だけどこれから頑張るから。好きでいてくれてありがとう、見つけてくれてありがとう、こんなに素敵な思い出をくれてありがとう。一生離れないよ。……恋人になってくれる?」
「……蓮……」俺は故障した機械のように自分の名前を繰り返した。「もう一度俺の名前を呼んでくれますか?」
「答えてくれたら言う。」
俺は笑いながら君野の唇にキスをした。
「いいよ。」
「蓮。」
俺はいきなり大きなくしゃみをした。君野はやっと思い出したように急いで俺を部屋の中に引き込んだ。
「早くお風呂に入って、後で僕の服を着よう。」
俺は君野の裾を掴み、うつむいて「少し、君の家にいていいっすか」と尋ねた。
「いいよ。母さんは午後に実家に帰っちゃって、明後日の朝まで戻ってこない。ここに泊まっても大丈夫。」
話し声が落ちた瞬間、活発なアメリカンショートヘアが隅から飛び出して、俺の足元に座り、俺と見つめ合った。
「これは優ちゃんだ。蓮のことを好きみたいだね。優、こちらは蓮で、僕の彼氏だよ。」
結局、その夜俺は風邪をひいてしまい、開けたばかりのピアス穴も水が入ったため少し炎症を起こした。君野は俺に自分のベッドへ横になるように促し、ずっとピアス穴の消毒を手伝ってくれた。
「そういえば、『金閣寺』の主人公は、美しさがあまりにも激しくて嫉妬心を抱き、最後に自分の手でその美しさを破壊しちゃうんだよ……美しさを守りたくなるより、むしろ妬むの方が自然じゃないかな?」
「わあ、暗い。君野もそう思ってたんっすか?」
「うん。蓮に初めて会ったときからそう思ってた。蓮は美しい瞳をしていて、高い鼻筋もあり、男前な顔をしていた。その時、『こんなイケメンに僕の本を料理の汁にこぼされても、許せないわけじゃないな』って思ったんだ。」
「でも……君に初めて会ったとき、俺も君がすごくきれいだと思ったよ。その時、『こんな美人の本を汚しちゃったらどうしよう』って思って慌ててしまった……」
「男性を『きれい』って本当に褒めるの?」君野は俺の額を軽く叩いた。「僕は小さい時から『女の子みたいに可愛い』って言われてきたけど、自分はそれが嫌いだ。もし僕が蓮みたいならいいのにな……」
「もし外見が交換できるなら、俺はありがたいよ。」
「ああ、そうだ、蓮に渡したい本がある。」君野は笑顔でリュックから川端康成の『少年』を取り出して俺に渡した。「元は卒業式の後に渡そうと思ってたんだけど、朝急いでリュックに入れるのを忘れちゃった。もう渡せないかなって思ってたよ。」
「ありがとう……最初は『金閣寺』を渡して謝ろうと思っただけなのに、今じゃ本を交換するのはもう定番になっちゃったみたいっすね……」
両手でその本を受け取った。
「どういたしまして、蓮。僕たちはもう恋人だから、敬語もそろそろやめてよ。それと、ねえ、『君野』って呼ばないで。みんなそう呼んでるけど、蓮には名前を呼んで欲しい。」
「……あ、楓咲。」顔が火照ってきたのが分かり、楓咲と目を合わせることができなかった。
「僕を見て。」
向かいの少年は温かい手で俺の頬を撫でて、視線を合わせた。彼は相変わらずの笑顔を浮かべながら、とても柔らかくも確かな口調で言った。
「蓮、もし僕が蓮のこの美しさを破壊したくなったらどうする? 許してくれる?」
栗色の美しい瞳の中には、まるで渦巻きが生まれているようだった。
どう返せばいいのか分からず、ただ顔を赤らめて呆然としていた。窓の外の大雨はいつの間にか止んで、夕日が雲の隙間から差し込み、大空を染めた。
「蓮がその本を僕に渡した後、目を開けても金閣寺、目を閉じても金閣寺、夢の中まで金閣寺だった。僕はもう蓮の美しさに壊されちゃったんだ。」
その美しい瞳が目の前でゆっくりと閉じられ、細長いまつ毛が頬にそっと触れた。柔らかい唇が貪欲に愛を求めてきた。金閣寺は既に崩れ落ちて、俺たちはもうその儚い美しさを必要としない。目を開けると、夕日の光に包まれ、全身に金色の輪郭が描かれ、まるで神様のような君野楓咲が目の前にいた。
「……ごめんね……」鼻が詰まってきたのを感じた。「でも風邪を移されちゃうかもしれないよ……」
「蓮から移されるなら、むしろ嬉しいよ。」楓咲は笑いながら言った。「でも今後、こんな大雨の中を走るのはやめてほしいね。」
「今回は誰かさんのためだよ……」
「うんうん、お疲れ様、蓮。」楓咲は俺の頬にキスをしてから、隣に横になり、天井の明かりを調節した。
「ごめん、蓮。暗いのがちょっと怖いんだ。この明るさだったら、眠れる?」
「うん。おやすみ。」
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