転生王女の破滅回避プラン90! ~無自覚人たらし王女、アリスが来るまでに美形側近を溺愛モードにしていました~

とびぃ

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第1章:予言とカウントダウン開始(残り90日)

1-1:目覚めと90日後の死刑宣告

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「――リリア王女よ。九十日後、異邦の乙女アリスの来訪と共に、貴女の罪は断罪される」
玉座の間に響く、甲高く、どこかヒビ割れたような声。
声の主は、ハンプティ・ダンプティ。王家に仕える、たまご型の予言者だ。巨大な卵の形をした予言者は、大理石の床に鎮座し、光沢のある無機質な表面が、シャンデリアの光を鈍く反射している。彼は、決して揺らぐことのない無機質な瞳で、床に膝をつく私――リリアを見下ろしていた。
その言葉が、引き金だった。
玉座の間を満たす、重苦しい沈黙。予言は、誰もが知る王家の秘密であり、同時にこの国に張り巡らされた「世界の強制力(ゲームシステム)」による絶対的な決定事項だ。九十日後の未来、その運命の歯車が回り始めたことを、私は肌で感じた。
(断罪? アリス? まるで、あの乙女ゲームの)
ズキリ、とこめかみが痛む。激しい頭痛が視界を白く点滅させ、脳裏に見知らぬ光景が嵐のように流れ込んできた。それは、この世界の記憶とは完全に断絶した、別の人生の残滓。
けたたましく鳴り響くオーブンのタイマー。焦げ付くような甘い香り。飛び交う怒号。「オーナー! クレームです! あの常連様、また新作にないものを要求しています!」「シェフ! 納入業者がまた無理難題を! これでは在庫の管理ができません!」「リリアさん、もうシフトが限界です! 誰も休めていません!」
頭の中で、白いコックコートを着た自分が、叫び、走り回っている。オーブンの熱と、顧客の怒声と、従業員の悲鳴。すべてが混ざり合い、強烈な吐き気を催させた。
(そうだ、私は)
私は、リリア王女であると同時に、日本の小さな洋菓子店『ラ・パティスリー・リリア』を切り盛りしていたオーナーパティシエ(兼 経営者) だった。
あのヒステリックな常連クレーマー(今思えば、母であるハートの女王レジーナ にそっくりだ)の無茶振りに頭を下げ、気まぐれな納入業者(チェシャ猫 に相当するのだろう)に泣きつき、倒れそうな従業員(ジャックや白ウサギ の姿が重なる)のメンタルケアとシフト管理に奔走する。仕込みと経営と接客、その全てを一人で抱え込み、月残業二百時間超えの激務。恋愛なんてしている暇もなく、「恋愛より新作ケーキのコンペが重要」という思考で、ただひたすらに走り続けたあの日々。
そして、二十九歳という若さで迎えた、突然の終わり。
新作コンペのレシピを考えている最中、胸に走った激痛。薄れゆく意識の中で最後に見たのは、床に散らばったレシピのメモ用紙だった。急性心不全。
(過労による、急性心不全で死んだ。一度、すべて終わったはずなのに)
流れ込んできた記憶の奔流が、すとん、と今の私の状況に重なる。
ここは、前世で妹が夢中になっていた乙女ゲーム『ハートの国のアリスと首切り女王』の世界。そして私は、ヒロイン・アリスをいじめ抜き、最後は攻略対象たちによって断罪される悪役令嬢、リリア。
ハンプティ・ダンプティの予言は、ゲームシステムによる強制力。九十日後に訪れる、絶対の未来。
「そんな」
喉からか細い声が漏れる。シャンデリアの光が、王女の青いドレスに反射し、きらめいている。
断罪イベント。その結末は、母であるハートの女王レジーナ が叫ぶ、あのセリフ。
「――首を、はねよ!」
血の気が引く。指先が急速に冷えていく。まるで冷水に浸されたように。
過労死。そして今度は、断頭台での死刑。どちらも、私の命を強制的に終わらせるバッドエンドだ。
(冗談じゃない!)
パニックに陥りかけた頭を、前世で培った生存本能が無理やり引き戻す。
月二百時間の残業を乗り越えたこの私が、こんな理不尽な運命に黙って殺されてたまるものか。私は、過酷な労働環境の中で、「二度と過労死(破滅)したくない」という強い意志を原動力に、常に生き残る道を探してきた経営者だ。
「二度とバッドエンドは嫌だ!」
私は、床に突いていた両手に力を込め、顔を上げた。
震えは、まだ止まらない。恐怖は心臓を掴んだままだ。けれど、瞳だけは前世の経営者(オーナー)としての、タスク処理能力の高い、強い光を取り戻していた。
「九十日、ですか」
呟いた声は、恐怖に震えながらも、驚くほど冷静だった。まるで、新作コンペの期限を再確認するパティシエのように。
タイムリミットは九十日。やるべきことは、破滅フラグの完全回避。
「私が、このゲームのシナリオを書き換えて差し上げましょう」
私の、人生を懸けたリアルタイムアタック(RTA)が、今、始まった。
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