転生王女の破滅回避プラン90! ~無自覚人たらし王女、アリスが来るまでに美形側近を溺愛モードにしていました~

とびぃ

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第3章:胃袋と現場を掴む(ジャック√導入)(残り75日)

3-1:騎士団のブラックな実態

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庭園での一件から、さらに五日が経過した。
 あの日、リリアがとっさについた嘘と、父クロードの完璧な援護射撃により、哀れな庭師の首は繋がった。だが、リリアの心に残ったのは、理不尽な「死」への強い恐怖と、その場に居合わせたジャックと白ウサギの、あまりにも事務的な態度に対する戦慄だった。彼らにとって、女王の処刑命令は日常。それが、リリアの「破滅回避RTA」を成功させるためには、彼らの日常を破壊し、彼らの心を掴み取らねばならないという、強い決意へと変わった。
 まず手を付けたのは、騎士団詰所だった。
 リリアは、ジャック団長の護衛任務に帯同させる形で、騎士団の詰め所へと足を運んだ。ジャックは、その訪問が女王の気まぐれによるものではないと、薄々感づいているようだったが、職務上、拒否はできなかった。
 詰所は王宮の北棟の隅に位置し、王宮の華やかさとは無縁の、煤けた石造りの建物だった。中に入ると、湿気と汗、そして古びた革の匂いが鼻を突く。
 広大な王宮を護衛するための、武力の要であるはずの場所は、驚くほど手入れが行き届いていなかった。壁には剣の傷跡が生々しく残り、装備品の棚には、所々錆び付いた鎧や、修繕が施されていない盾が並んでいる。
「……ここは、まるで兵舎というより、戦場の休憩所ですね」
 リリアは、思わず率直な感想を口にした。彼女の瞳は、前世で衛生管理と清潔さを極限まで重視していた、オーナーパティシエとしての厳格な目で、その場を査定していた。
 ジャックは、この現状を隠そうともせず、硬い表情で答えた。
「王女殿下。ご冗談を。ここは実際に戦場のようなものです。女王陛下の度重なる命令遂行により、騎士たちは疲弊し、装備品の修繕予算は、すべて陛下のお気に召すバラの管理費用に回されております」
 彼の眉間の深い皺が、彼の抱える慢性的かつ深刻な疲労と不満を物語っていた。
「騎士団員の食事の配給も、簡素な麦粥と乾パンのみ。高カロリーで持久力に繋がる栄養価は、著しく不足している。これが、この国の武力の要の実態です」
 ジャックは、自虐的にそう告げた。彼にとっては、これは「予算不足はどうにもならない」という、諦めの表明だった。女王の暴政という巨大な壁の前では、彼の実直さも無力だった。
 リリアは、一つのテーブルに目を留めた。それは、当直明けの騎士が残していったと思われる食事の残骸だ。皿には、水で膨らんだ麦と、ほんのわずかな野菜の切れ端。そして、横には、くたびれた様子の騎士服が乱雑に置かれていた。
「……これはひどい」
 リリアは、声に出さずに、静かに怒りの感情を覚えた。彼女の怒りは、騎士団に対する同情というよりは、経営者としての純粋な「非効率」に対する苛立ちだった。
(遊戯ではない。これは、一国の生命線です。この状態で、九十日後にアリスが来た時、彼らが私を守れるはずがない)
 リリアにとって、騎士団は、自身の命を守るための「護衛戦力」であり、彼らのパフォーマンスの低下は、自身の死刑執行確率の上昇を意味する。
 彼女は、ジャックを真っ直ぐに見つめた。
「ジャック団長。貴方は、この劣悪な環境で、騎士団を維持していることに、誇りを持っていますか」
 リリアの問いは、冷たい氷のように鋭かった。
 ジャックは、わずかに目を見開いた。リリアが、王族としてではなく、一人の軍の責任者として問いかけてきていることを感じ取ったのだ。
「誇りなど。私は、ただ職務に忠実であろうとしているだけです」
「職務に忠実? それは、無駄な遊戯(女王の気まぐれ)のために命を削り、この国の軍事力を内部から崩壊させることに、手を貸しているだけではありませんか」
 リリアの言葉は、彼の心の最も痛い部分を突き刺した。
 ジャックは、言葉を失い、強く拳を握りしめた。彼の表情に、初めて、冷徹な仮面の下に隠された、深い苦悩と動揺が浮かび上がった。
「貴女は……この現場の苦労を、どこまで理解しているとお思いで?」
 彼の低い声には、怒りと同時に、かすかな期待が混じっていた。
 リリアは、彼の挑戦的な視線から目を逸らさなかった。
「理解など、簡単です。私は、貴方がたと同じく、理不尽な上司と、過酷な労働環境の中で、常に効率と結果を求められてきた、一介の経営者です」
 もちろん、その「経営者」という身分は、この世界では秘匿すべきものだが、彼女の瞳の光は、その言葉を、嘘偽りのない「真実」としてジャックに伝えた。
「貴方がたの最大の不満は、女王の理不尽さではない。貴方がたの献身が、正当に評価されず、生存に必要なリソース(資源)を与えられていないという、経営資源配分の失敗です」
 リリアは、詰所の薄暗い空間を、まるで自分の店のバックオフィスのように見渡した。
「この状況で、騎士団の士気が保てるはずがない。そして、士気の低い騎士団は、私の護衛を全うできない。つまり、貴方がたのブラックな実態は、私の破滅フラグに直結している。私は、貴方がたを救うために来たのではありません。私自身を救うために、貴方がたを、最高の護衛戦力として再構築しに来たのです」
 リリアのその冷徹な宣言に、ジャックの心は、激しく揺さぶられた。
 彼女は、感情的な同情を一切示さない。だが、その論理的なアプローチこそが、彼の心を捉えた。彼女は、騎士団を「道具」として見ている。だが、それは、彼らが望む最高の効率と、最高の待遇を与えられることを意味していた。
 ジャックの口元に、微かな笑みが浮かんだ。それは、諦めではなく、久々に「仕事」の醍醐味を見出した、現場責任者の笑みだった。
「なるほど。王女殿下。面白い。貴女がそこまで仰るのなら、貴女の『再構築案』とやらを、私に示していただこう」
 彼は、初めてリリアを、女王の操り人形ではなく、自身の「協力者」として、あるいは「真の主君」として、迎え入れる決意を固めた瞬間だった。
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