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第3章:胃袋と現場を掴む(ジャック√導入)(残り75日)
3-3:団長への直談判
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ジャックの執務室は、昨日の詰所よりもさらに簡素で、機能性に特化していた。
リリアが入室したとき、ジャックは山積みになった書類を片付けている最中だった。彼は、相変わらず疲労の色を濃くしていたが、その視線は、昨日よりも警戒心を増しているように見えた。
「王女殿下。本日はどのようなご用件で。昨日の詰所視察の感想なら、もう結構です」
ジャックは、椅子から立ち上がらず、事務的な声でそう言った。彼の態度は、リリアを「主君」としてではなく、「迷惑な顧客」として扱っているかのようだ。
リリアは、彼の前に、丸めた羊皮紙を音を立てて叩きつけた。
「冗談はよしてください、ジャック団長。私は、貴方のために『土産話』を持って来たのではありません」
彼女は、彼の冷たい視線にも動じず、真っ直ぐに彼の瞳を見返した。
「これは、貴方が長年、無力感に苛まれてきた騎士団の待遇改善。そして、私の命を守るための、貴方への業務改善提案書です」
ジャックは、不審そうな目で羊皮紙の束を見た。王女が徹夜で、何を書いてきたというのか。彼は、嫌々ながらもそれを手に取り、開いた。
その瞬間、彼の冷徹な表情に、亀裂が入った。
彼の指先が、羊皮紙の縁を強く握りしめる。彼の氷のような青い瞳は、一文字一文字を追うごとに、驚愕と動揺の色を深めていった。
(何だ、これは……)
ジャックの脳裏に、リリアが持つべき「王女」のイメージと、目の前の書類の「内容」が、激しく衝突した。
それは、感情論を排した、純粋な数字の羅列だった。コスト、カロリー、欠勤率、そして投資対効果。まるで、この国の行政が、彼の知らぬ間に、高度な商業国家にでも生まれ変わったかのようだ。
彼は、特に『高密度エナジークッキー』の原価計算のページに、釘付けになった。安価な穀物とナッツ類を組み合わせることで、いかに栄養価を最大化するかという、緻密で専門的な分析。それは、軍事学でも、政治学でもなく、彼の人生で最も無縁だった「食」と「経済」のプロの視点だった。
「馬鹿な……。貴女が、ここまで現場の数字を見ていたと?」
ジャックの声は、かすかに震えていた。
彼の最大の不満は、女王の暴政ではない。現場の苦労が、誰にも、特に王族には「理解されていない」ことだった。だが、リリアは、彼の口から何も言わずとも、彼の最大の苦悩を、数字と具体的な解決策をもって示してみせた。
「見ていたのではありません。分析したのです」
リリアは、冷たく言い放った。
「兵士が飢えていては、そのパフォーマンスは半分以下に落ちます。士気の低い兵士に、私の護衛を任せることはできません。これは、私の生存率に直結する、最も緊急性の高いタスクなのです」
彼女は、彼が納得する「論理」だけを、武器として突きつけた。
「貴方がこの案を実行し、騎士団を最高の戦力として維持する。それが、貴方と私の**『契約』**です。もし貴方が動かないのなら、私は別の手段を考えます。例えば、白ウサギ宰相と結託し、貴方を解任し、もっと『話の分かる』人間を後任に据える、とか」
それは、冷酷な脅迫だった。
しかし、その脅迫は、ジャックにとって、長年の諦めから解放される、唯一の「命令」のように響いた。
(この王女は、私を利用しようとしている。だが、その利用の仕方が、結果的に部下たちを救うことになる)
ジャックは、リリアのその冷徹なドライさに、逆に心を打たれた。彼女は、彼を道具として見ている。しかし、その道具を、最高の状態に保つための「投資」を惜しまない。
ジャックは、羊皮紙をテーブルに置き、深く息を吸った。
「……承知いたしました、リリア様。貴女は、我々を、道具として見ていらっしゃる。だが、道具が、その持ち主によって最高の輝きを与えられるのなら、騎士として、これ以上の名誉はありません」
彼の氷の瞳に、初めて、熱い炎が灯った。それは、リリアの「利己的な正義」に、深く共鳴した、騎士団長としての、誇りの輝きだった。
リリアが入室したとき、ジャックは山積みになった書類を片付けている最中だった。彼は、相変わらず疲労の色を濃くしていたが、その視線は、昨日よりも警戒心を増しているように見えた。
「王女殿下。本日はどのようなご用件で。昨日の詰所視察の感想なら、もう結構です」
ジャックは、椅子から立ち上がらず、事務的な声でそう言った。彼の態度は、リリアを「主君」としてではなく、「迷惑な顧客」として扱っているかのようだ。
リリアは、彼の前に、丸めた羊皮紙を音を立てて叩きつけた。
「冗談はよしてください、ジャック団長。私は、貴方のために『土産話』を持って来たのではありません」
彼女は、彼の冷たい視線にも動じず、真っ直ぐに彼の瞳を見返した。
「これは、貴方が長年、無力感に苛まれてきた騎士団の待遇改善。そして、私の命を守るための、貴方への業務改善提案書です」
ジャックは、不審そうな目で羊皮紙の束を見た。王女が徹夜で、何を書いてきたというのか。彼は、嫌々ながらもそれを手に取り、開いた。
その瞬間、彼の冷徹な表情に、亀裂が入った。
彼の指先が、羊皮紙の縁を強く握りしめる。彼の氷のような青い瞳は、一文字一文字を追うごとに、驚愕と動揺の色を深めていった。
(何だ、これは……)
ジャックの脳裏に、リリアが持つべき「王女」のイメージと、目の前の書類の「内容」が、激しく衝突した。
それは、感情論を排した、純粋な数字の羅列だった。コスト、カロリー、欠勤率、そして投資対効果。まるで、この国の行政が、彼の知らぬ間に、高度な商業国家にでも生まれ変わったかのようだ。
彼は、特に『高密度エナジークッキー』の原価計算のページに、釘付けになった。安価な穀物とナッツ類を組み合わせることで、いかに栄養価を最大化するかという、緻密で専門的な分析。それは、軍事学でも、政治学でもなく、彼の人生で最も無縁だった「食」と「経済」のプロの視点だった。
「馬鹿な……。貴女が、ここまで現場の数字を見ていたと?」
ジャックの声は、かすかに震えていた。
彼の最大の不満は、女王の暴政ではない。現場の苦労が、誰にも、特に王族には「理解されていない」ことだった。だが、リリアは、彼の口から何も言わずとも、彼の最大の苦悩を、数字と具体的な解決策をもって示してみせた。
「見ていたのではありません。分析したのです」
リリアは、冷たく言い放った。
「兵士が飢えていては、そのパフォーマンスは半分以下に落ちます。士気の低い兵士に、私の護衛を任せることはできません。これは、私の生存率に直結する、最も緊急性の高いタスクなのです」
彼女は、彼が納得する「論理」だけを、武器として突きつけた。
「貴方がこの案を実行し、騎士団を最高の戦力として維持する。それが、貴方と私の**『契約』**です。もし貴方が動かないのなら、私は別の手段を考えます。例えば、白ウサギ宰相と結託し、貴方を解任し、もっと『話の分かる』人間を後任に据える、とか」
それは、冷酷な脅迫だった。
しかし、その脅迫は、ジャックにとって、長年の諦めから解放される、唯一の「命令」のように響いた。
(この王女は、私を利用しようとしている。だが、その利用の仕方が、結果的に部下たちを救うことになる)
ジャックは、リリアのその冷徹なドライさに、逆に心を打たれた。彼女は、彼を道具として見ている。しかし、その道具を、最高の状態に保つための「投資」を惜しまない。
ジャックは、羊皮紙をテーブルに置き、深く息を吸った。
「……承知いたしました、リリア様。貴女は、我々を、道具として見ていらっしゃる。だが、道具が、その持ち主によって最高の輝きを与えられるのなら、騎士として、これ以上の名誉はありません」
彼の氷の瞳に、初めて、熱い炎が灯った。それは、リリアの「利己的な正義」に、深く共鳴した、騎士団長としての、誇りの輝きだった。
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