転生王女の破滅回避プラン90! ~無自覚人たらし王女、アリスが来るまでに美形側近を溺愛モードにしていました~

とびぃ

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第4章:傍観者の興味を引く(チェシャ猫√導入)(残り60日)

4-2:交渉は強気で

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リリアの挑発的な言葉に応じるように、回廊の影から、一人の青年が音もなく姿を現した。
チェシャ猫だ。彼のミステリアスな美貌は、夜明け前の薄明かりのような金色に輝く瞳と、頭頂部にぴょこんと生えた黒い猫耳、そして、いつでも皮肉めいた笑みを浮かべる口元が特徴的だ。黒いマントが、彼の細身の体を覆っている。彼の身に纏う空気は、この陰鬱な回廊の湿気を一瞬で乾かすかのような、鋭い「知」の光を放っていた。
彼は、リリアの正面に立つと、猫が獲物を品定めするように、頭からつま先までを舐めるように視線を走らせた。その視線には、侮蔑と、隠しきれない好奇心が混ざり合っている。
「おや、逃げないんだ。あの融通の利かない騎士を撒いて、俺と二人きり? 随分と、命知らずだね、リリア。あるいは、俺に『殺されに』来たのかな?」
チェシャ猫の言葉には、リリアの行動を「危険な遊戯」として評価し、彼女を恐怖で支配しようという、明確な意図が込められていた。彼は、この城のすべての事象を、傍観者として、そして「退屈しのぎ」のエンターテイメントとして見ている。リリアが抱くべき感情は「恐怖」である、というのが、彼のシナリオだ。
「殺されに来たのではありません。貴方に、『仕事』を依頼するために来ました」
リリアは、彼が求めるであろう「恐怖」や「媚び」を一切見せず、冷徹な経営者の顔で言い放った。その声には、彼の挑発を軽く受け流す、余裕の響きがあった。
「仕事? この俺に? 俺は、女王の命令も、宰相の依頼も受けない。なぜなら、彼らは『退屈だから』」
チェシャ猫は、楽しそうに喉を鳴らした。彼の金色の瞳が、獲物を前にした狩人のように細められる。
「君の言う『仕事』が、俺の退屈を満たせるという保証はあるかい? もし面白くなければ、君が次に何を企んでいるのかを、ジャックや白ウサギに、こっそり教えてあげようかな。君の命がけの『裏工作』のタネをばら撒いて、この城をさらに混乱させてあげるのも、俺の退屈しのぎにはなる」
それは、リリアのRTAを崩壊させる、最も強力な脅しだった。彼の情報網にかかれば、リリアが今までに積み重ねた努力も、無に帰す。
リリアは、敢えてその脅しを無視し、目の前の男の、心の奥底にある「不満点」に触れた。前世、気まぐれな納入業者を「自分の手の内」に引き入れるために使った、交渉術だ。
「貴方は、この城で起こるすべての情報を持っています。女王の悪政、宰相の裏工作、騎士団の疲弊。ですが、その情報は、誰にも価値を理解されず、ただ貴方の脳内で『消費』されるだけ。消費されるだけの情報は、すぐに貴方を飽きさせ、貴方の魂を、再び深い退屈の淵へと突き落とすでしょう」
リリアは、一歩、チェシャ猫に近づいた。その距離は、彼が反射的にマントの裾を握りしめるほど、彼のパーソナルスペースを侵している。
「貴方が本当に嫌いなのは、退屈ではありません。自分の持つ『圧倒的な資源』が、誰の役にも立たず、この腐敗した城の傍観者として終わることでしょう。あなたは、自分の知識と能力を、この国の命運を左右する、最高の『道具』として使って欲しいと、心の底で望んでいる」
チェシャ猫の笑みが、一瞬、ぴたりと固まった。彼の金色の瞳に、動揺と、強い警戒の色が明確に浮かび上がる。彼の表情が、まるで仮面の下から覗いたかのように、冷たくなった。
(この王女は、俺の何を読んだ? なぜ、俺の最も隠したい欲求を、こんなにも正確に言い当てられる?)
彼の存在意義は、城の裏側をすべて掌握することにある。だが、その知識を活かせる「主君」が、今まで一人もいなかった。女王はヒステリーに終始し、王は無力。ジャックは愚直すぎて、白ウサギは過労で視野が狭い。彼は、自分の資源(情報)を投下する「市場」を、飢えた猫のように探していたのだ。
「私の依頼は、貴方が持つ情報網を、この国の『行政改革』という、最高に面白い『国盗り物語』のために使うことです」
リリアは、畳み掛けるように告げた。彼女の瞳は、彼の動揺を見逃さない。
「私がこの城を、腐敗した遊戯の場から、最強の効率を誇る『経営国家』に変えるまでの、最高の『シナリオライター』になりなさい。貴方は、舞台裏で、すべての役者(ジャック、白ウサギ、そして私自身)を動かし、最高のエンディングへと導く、影の主役となるのです」
チェシャ猫は、マントの裾を翻し、わずかに後ずさりした。リリアの提示した「シナリオライター」という役割は、傍観者としての彼のプライドを最大限に満たし、同時に、彼の持つ情報という資源を、最高の形で活用できる立場だった。
「ほう? 国盗り物語、か。君の命がけの逃走劇を、俺のシナリオで彩れと? それは、確かに退屈しない」
「ええ。その対価として、貴方が求める最高の『スリル』と、そして、貴方だけが知る特別な『報酬』を約束します」
リリアは、彼の目を真っ直ぐに見つめた。
「どうです? 傍観者として腐っていくよりも、私が女王になるまでの、この城で一番面白い『役者』になってみませんか? 私の『生存』という最高の物語の結末を、貴方が決めるのです」
チェシャ猫は、長い間、無言でリリアを見つめた。その沈黙は、彼の中で、リリアの提案の「面白さ」が、彼の退屈を打ち破るに足るかどうかの、激しい天秤が行われていることを示していた。彼は、リリアの瞳の奥に、自分と同じ「利己的」で「実利主義」の、冷たい光を見つけていた。その冷たさこそが、彼の心を強く惹きつけた。
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