転生王女の破滅回避プラン90! ~無自覚人たらし王女、アリスが来るまでに美形側近を溺愛モードにしていました~

とびぃ

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第4章:傍観者の興味を引く(チェシャ猫√導入)(残り60日)

4-4:歪んだ独占欲の芽生え

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 リリアとの契約が成立し、チェシャ猫は最高の高揚感に包まれていた。彼の金色の瞳は、喜びに満ちて細められている。それは、退屈な日常を打ち破る、最高の獲物(リリア)を手に入れた、猫特有の歓喜のサインだった。
(面白い。面白すぎる。あの堅物で融通の利かないジャックは、彼女の「献身」というエサに、あまりにもあっさり食いついた。そしてこの俺は、彼女の「知性」と「味」という、最も高次元な刺激に魅了された)
 チェシャ猫にとって、リリアは単なる「悪役令嬢」ではない。彼女は、この腐敗した城のシステムを、彼女自身の命を懸けたRTAという最高のシナリオで書き換えようとしている、予測不能な天才だ。そして、その天才が、自分に最も危険で、最も魅惑的な「役割」を与えた。
「俺の役割は、君のシナリオを成功に導くこと。そして、君の行動の全てを、特等席で眺めること」
 彼は、指先でリリアの頬に触れようとした。その指は、情報屋らしく、冷たく、そして細い。
 リリアは、その触れるか触れないかの瞬間に、すっと顔を逸らした。彼女にとって、この行為は、単なる顧客との「ビジネス上の境界線」を維持するための、反射的な行動だ。
「ええ、その通りです。貴方の任務は情報収集と、私の計画が円滑に進むための裏工作。業務の『対価』は、毎日提供されます。それ以上の接触は、業務外と見なします」
リリアは、チェシャ猫の触れ合いを、即座に「業務外」と規定し、冷たく突き放した。彼女の瞳は、チェシャ猫の感情を、いまだに「顧客満足度」としか捉えていない。
 チェシャ猫の笑みが、一瞬、凍りつく。彼の金色の瞳の中に、明確な「不満」と、「独占欲」の炎が灯った。
(業務外? この俺との接触が、リリアにとって『業務外』だと? 俺の興味をこれ以上ないほど引いておきながら、お預けを食らわせるなんて)
 彼の存在意義は、誰よりも「特別」であることだ。女王の寵愛も、騎士団の忠誠も、彼にとってはくだらない。だが、リリアは、彼を最高の道具として扱いながらも、その一方で、自分に近づくことを許さない。その矛盾こそが、彼の心を激しく揺さぶった。彼は、リリアが自分を「道具」として見ていることを知っているが、その道具に対する「愛着」や「執着」を、誰よりも強く求めているのだ。
「ふうん。君は、自分の魅力を本当に理解していないようだね、リリア」
 彼は、舌打ちをするのをぐっと堪えた。彼にとって、リリアの無自覚さは、最大の魅力であり、同時に最大の苛立ちの種だった。
「俺は、君のシナリオを成功させるためなら、どんな手段も選ばない。だが、その過程で、君の『心』に、俺という存在を、誰よりも深く刻み込まなければ、契約を継続する意味がない」
 彼は、自らの目的を、リリアに改めて宣言した。それは、彼女の無自覚な「経営者」としての視点に、揺さぶりをかけるためだ。
「君は、ジャック団長という最高の『武力』を手に入れた。だが、彼との関係は、所詮、君が与えた『お菓子』と『居場所』という『取引』の上で成り立っている。いつか、君が彼に与えられるものが尽きた時、彼の忠誠が揺らぐ可能性を、君は考慮しないのかい?」
 チェシャ猫は、リリアの論理の穴を、鋭く指摘した。彼の情報屋としての視点は、常に「人間関係の危うさ」に焦点を当てる。
「いいえ。彼の忠誠は、私が彼の『正義』を満たし続けている限り、揺らぎません。それは、騎士団という組織の規律に裏打ちされた、強固な契約です」
 リリアは、即座に反論した。彼女の自信は、ジャックという男の愚直さへの、確固たる信頼に基づいている。
「ふふ、愚直、ね。その愚直さが、いつか『独占欲』という名の毒に変わることを、君は知らない。ジャックは、君という『居場所』を、誰にも渡したくないと、既に強く望んでいる。君が、他の男に目を向けることを、彼は決して許さないだろう」
 チェシャ猫の言葉には、リリアの恋愛偏差値ゼロの視野の外にある、ジャックの隠された感情が、明確に示唆されていた。
 リリアは、眉をひそめた。
「独占欲? それは、業務効率の低下を招く、極めて非効率な感情です」
 彼女の思考は、あくまで「業務」と「効率」という軸から外れない。
 チェシャ猫は、そのリリアの反応に、満足げに笑った。彼の笑みは、リリアの無自覚な反応を「最高の餌」として楽しむ、猫の悪意に満ちている。
「そう。非効率で、予測不能で、そして最高に面白い。だからこそ、俺が君の傍にいる意味がある。俺は、君のシナリオに、その『非効率な感情』というスパイスを、存分に振りかけてあげる」
 彼は、くるりと身を翻し、再び回廊の暗闇へと溶け込み始めた。彼の黒いマントの裾が、リリアの目の前で、音もなく揺らめいた。
「俺は、君という最高のおもちゃを、誰にも汚させない。もちろん、あの融通の利かない騎士にもね」
 彼の言葉は、リリアの心に、一つの明確なメッセージを残した。
(チェシャ猫。彼は、私を『道具』ではなく、『おもちゃ』として見ている。そして、その『おもちゃ』を、誰にも渡すつもりがない。これは、ジャック団長の『忠誠』とは、全く別の種類の、厄介な『執着』だ)
 リリアのRTAは、当初の「破滅回避」という単純なタスクから、予期せぬ「美形側近たちの独占欲」という、難易度を跳ね上げる新たな「フラグ」へと、その性質を変え始めていた。彼女は、目の前に残されたスコーンの温かさを感じながら、背後で潜んでいる、見えない情報屋の、熱い視線に、初めて明確な戦慄を覚えた。
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