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カケラシティー

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「ケイさんに会いたかったら、ちゃんとお願いしな?そしたら届くから」
「うん。ありがとう」

 夕方近くになって、ハルは用事があるから帰る事になった。

「それじゃあ」
「待って」
「ん?何?」

 玄関を出ようとするハルの背中に思わず飛びつく。ハルは黙ってそれを受け取った。

「来てくれてありがとう。ハルのセックス最高だった」
「…うん。俺もミナの懇願顔最高だった」
「あ!もう…。イジワルなとこは嫌い」
「イジワルの後のご褒美は?」
「……それは、最高……」
「うん!良かった!じゃあ!」

 颯爽と立ち去るハルを見送り、部屋に入る。ポケットからスマホを取り出し祈ってみた。
 ケイに会いたい。ケイともう一度セックスがしたい。
 無意識の内に出来ていた事は意識してしようとするとどうやったら出来るのか分からない。
 ただ思うだけ。そうすればハルとダンに届いたようにケイにも届くはず。そんな思いを込めて祈った。

 夕方5時、ついにインターホンが鳴る。来た。遂にケイが来てくれた。
 そう思いモニターを覗くとそこに写っていたのは夫だった。

「調子悪いって言うから、早退してきたんだ」

 意気揚々と話す夫に殺意が湧く。さっきまでの幸福な時間をいきなりゼロにする存在。

「それにしても、随分散らかってるな」
「そう?」

 そりゃそうだ、さっきまで2人の男にメチャクチャにされてたんだから。リビングはハルだから良いけど寝室なんか入ったらビシャビシャのシーツに卒倒してしまうかも知れない。

「まあ、寝てなよ。俺、片付けておくから」
「…わかった」

 お言葉に甘える事にした。何か残骸はあるかと逡巡したが、あるのはティッシュくらいのものだ。それも本来大概なものだが、自分のオナニー したティッシュも不用意にゴミ箱に捨てるこの人からしてみればそんなの何でもないだろう。

 とりあえず、この人がリビングを片付けている内に寝室のシーツを取り替えてさっさと寝てしまおう。

「あっそれと」
「え!なに?」
「あっいや。ご飯何食べたい?俺作るけど」

 今まで食事なんてろくに作ったことない癖に病気の妻に何食べさせるつもりだ。
 
「ちっ」
「えっ?」
「いや。ゴメン食欲ないの」
「あっそうか。じゃあ、どっかで食べて来ようかな…」
「うん。そうして」
「わかった」

 何でこんなに冷たく当たるのか自分でも分からなかった。ついさっきまで、このリビングで他の男とセックスしてたのは、わたしの方なのに、そんな事にも気付けない夫の側の責任を強く責めた。

 どうせ、この人のスマホには私の思いなんて届かない。どんなに近くにいても届かないんだったら、一緒にいる意味なんて無い。そう思ったら泣けてきた。
 
「お、おい。どうしたんだよ」
「ゴメン何でもない…。少し休むね」
「お、おう」

 何か言おうとした夫を遮りベッドに戻った。シーツを触ると大分乾いており、何だかダンの匂いが残っている気が来たのでそのまま布団に入った。

 リビングから呑気に歌を唄いながら片付けている夫の声が聞こえる。人が寝てると言うのに大音量で音楽をかけてる。
 止めてくれ。と唱えて見ても、やっぱりあの人には届かない。ケイ助けて。会いに来て。布団の中で何度も唱えた。

 大音量の音楽の中に、不規則な音が混じった。渇いた音。板が割れる?壁に当たる?窓を叩く?窓を叩く!

 わたしは飛び起きてカーテンを開けるとベランダにケイがいた。軽く窓を叩いている。慌てて窓を開けるとそこには本当にケイがいた。

「やあ、おまたせ」

 小声で言うケイに私は思いっきり抱きついた。

「ゴメンね。遅くなって」
「ううん、いいの。来てくれてありがとう」
「ずっとメッセージは届いてたんだ」
「うん。わかってた」
「わかってた?」
「うん。わかってたよ?」
「ダンとかハルとのセックスも全部知ってるよ」
「あっ!」
「しっ!声が大きいよミナ」
「…イジワル」
「気持ち良かった?いっぱいイカされてたね?」
「う、うん…」
「ホントなら、僕も今すぐミナをイカせたいんだけど」
「…わたしも…わたしもケイにして欲しい」
「でもご主人が…」
「……」

 布団の中にくるまってケイと2人で話すのは物凄く興奮した。正直あの人に見つかっても構わないとさえ思った。
 でも、それだとケイにも迷惑がかかる。怪我でもさせたら大変だ。

「バレないようにするには…」
「え?」
「ミナ。声出しちゃダメだよ」
「ええ?」

 わたしの心配なんて、ケイは気にしないみたいだった。
 思いっきりキスで口を塞ぐと。両手でキツく抱きしめてくれた。
 身動きが出来ないくらいに抱きしめられて息が出来ないくらいにキスをされるとハルの強靭さもダンの剛力さも形を潜めるくらいの圧倒的な力に包み込まれるような気持ちになった。
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