【王道愛されヒロイン】講座

七地潮

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かーなーり独断と偏見に満ち満ちています

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ここは転生を待つ者の集まる場所。
そこでは【次に生まれ変わった時に上手く生きていく為の講座】が各所で行われている。

その一つを覗いてみよう……



会議室の扉から入ってきた男性は、前面にあるホワイトボードの前の机に手を付いて室内を見回す。

「えー、皆様おはようございます。
今回の講師を務める ナハーシ・ツクルスです。
今日は【王道愛されヒロイン】について講義をしていこうと思います」

狭い部屋に数人の若い女性が席に着いていて、講師に注目している。

「えー、ヒロインにも色々な種類があります。
ご存知かと思われますが、順に軽く説明します。

まずはここ数年で爆発的に増えてきた
【悪役令嬢からのヒロイン】
ですね。

この場合はほとんどの確率で
【転生者】【憑依者】で、
【前世の記憶を思い出し、断罪を回避する為に行動し、最終的にヒロインの立場になっている】
と言うパターンですね。

詳細は省きますが、かなりの確率で
【ヒロインも転生者などで、ストーリー通りに進めようとして、自作自演などをし、色々バレて逆に断罪される】
所謂
【逆ざまぁ】
ですね。

この辺りに関しては、今回は関係ありませんので、詳しく知りたい方は、そちらの講義を受けてください」

席に着いた少女達は真面目にメモを取っている。
ペンの動きがおさまるのを待ち、ナハーシは話す。


「次に多いのが
【モブからのヒロイン】
ですね。

こちらも【悪役令嬢からのヒロイン】と同じく、前世の記憶持ちが殆どで、巻き込まれない様になどと言いつつ、最終的にヒロインになっているパターンですね。

【悪役令嬢】も【モブ】も、【記憶持ち】だからこそ、ヒロインになれると言っても良いでしょう。

但し、【モブからのヒロイン】の場合の元々のヒロインは、転生者ではない場合も多々あります。
そう、物語通りに生きているのにも関わらず、
【私はこの世界の傍観者なのに、いつの間にか攻略対象に愛されちゃった】
と言う、所謂
【鳶に油揚げをさらわれる】
と言っても過言ではない状態に陥るのです。

しかし、元々気の良いヒロインは、普通に祝福をしてしまう。
それがヒロインがヒロインである所以ですね」

うんうんと頷く少女達を見回し、ナハーシは続ける。

「今回はそんな【王道愛されヒロインとはどう言ったものか】を、独断と偏見を持ちお話しさせていただきます」

軽く頭を下げるナハーシ。


「まずは見た目から。
いくつかパターンはありますが、多いのは【タレ目】もしくは【大きなパッチリした瞳】で【童顔】である、ですかね。
【吊り目】【美人顔】は【悪役令嬢ヒロイン】の標準装備のうちの一つです。

髪の色は【金髪】、そして【ピンク】が殆どですね。
【金髪】は種類が多いですし【ピンク】に関しては【ざまぁヒロイン】の代名詞となりつつあるので、【金髪】がお勧めです」

ここで一人の少女が手を挙げる。

「あの、私【銀髪】が好きなんですけど」
「あら、それなら私は【赤髪推し】ですわ」

他の少女達も「黒が好き」「青が良くない?」などと声を上げる。
ナハーシが手をパンパンと叩くと、室内は静かになった。

「そうですね、好みの色はそれぞれですよね。
しかし物語の中では、イメージカラーがありまして、【黒髪】【銀髪】【青髪】は【悪役令嬢ヒロイン】、【茶髪】は【モブヒロイン】に使われることが多いのです。

なので【王道愛されヒロイン】としてお勧めなのは【金髪】ですね。

一言で【金髪】と言っても、バリエーションは多いですから。

そして【赤髪】ですが、こちらは【ヒロインになれない悪役令嬢】【主要モブ】【ヒーローの当て馬】に多いので、お勧めはできませんね」

なるほどと頷く少女達。


「あと外見としては【貧乳】【幼児体型】ですかね。

もうみなさんお分かりでしょうけど、【悪役令嬢】=【容姿端麗、スタイル抜群、高位貴族】などの【ハイスペック淑女】が基本ですから、その反対を行くヒロイン達は【優しくて賢いけど、階級が低く、スタイルが悩みの種】なのです。

そこが【隙】となり、共感を生むことになるのです。
完璧すぎると反感を買いますからね。

ハイスペック淑女と相反する【王道愛されヒロイン】ですが、王家や高位貴族に生まれても、庶子だったり、家族から愛されなかったりすると言うのもありがちなパターンですね。

そこで捻くれることなく健気に生きる、それが【王道愛されヒロイン】なのです」

一人の少女が手を挙げ、質問をする。

「中流貴族の正当なる後継者と言うパターンは無いのでしょうか?」

いい質問ですねと、にっこり微笑んでナハーシは答える。

「中流もしくは上流貴族で正当なる後継者の場合は、いくつかのパターンがあります。

一つは両親が亡くなり、成人するまで親族が代理当主となり、そのまま乗っ取ろうとするパターン。

もう一つが、母親のみ亡くなり、父親が再婚し、その継母と連れ子にいじめられるパターンですね。

どちらにせよ、健気に頑張っていくうちに、ヒーローが手助けして自分の権利を取り戻し、ヒーローとも結ばれめでたしめでたし、と言う流れですね」

あー、あるあると頷く少女達。

「ここで大切なのは、【復讐などを考えず、健気に頑張る】です。
復讐を選べば、【ざまぁヒロイン】になってしまいますからね」

ナハーシの言葉に「ちょっと難しいかも」や「復讐考えちゃいそう」と呟く少女がちらほら。



「さて、続けますね。
【王道愛されヒロイン】のポイントとして、【足腰が弱い】と言うのもあります」

え? と戸惑う少女達。

「とにかく転ぶ、躓く、階段から落ちそうになる、梯子から落ちそうになるなど、体軸グラグラなのが【王道愛されヒロイン】です。

たとえ両手に荷物を持っていなくても、足元に何もなくても転ぶ。
それが出会いのきっかけや、仲を深めるのに役に立ってしまうのです」

あー、確かにそうね、と賛同の頷きがあちらこちらにみられる。

「それと耳が遠い、察しが悪いのも【王道愛されヒロイン】に必要な要素です」

先ほどより戸惑いの声が多く聞こえる。

「大事なセリフを聞き逃す、相手をよく見ていればわかることがわからない、そして話が色々拗れるのだけれど、最終的には良いように収まる、これが【王道愛されヒロイン力】です」

ナハーシがチラリと時計を見る。



「時間が迫ってきましたね。
ここから少し駆け足で行かさせていただきます」

少しばかりざわついていた室内が静かになると、ナハーシは続けた。

「後は物を落とす、思いつきで行動する、表情豊かでよく笑いすぐに泣く、声が大きくて喜怒哀楽が激しい、ですかね」

再びざわつく室内。

「後は頑固で人の話は聞くけど自分の意思を通すですね。

話を聞くのは上手なのだけど、相手の意見を肯定しつつ、自分の意思を通す、その駆け引きめいたことを自然にやってのけるのが、【王道愛されヒロイン】ですね。

とにかく相手の意見を否定しない、賛同する、そうやって相手の心を開き、相手が落ち着いたところで自分の意見を通す、これは相手が同性でも役に立つテクニックです」

なるほどと頷く少女達。


「後は料理上手なのも大きな要素ですね。
この場合【料理】でも【お菓子】でも良いのです。
とにかく手作りで、相手の胃袋を掴むのが大事なのです。

後半駆け足になってしまいましたけど、以上で講習は終了です。

何か質問などはございますか?」

ナハーシが問うと、一人の少女が手を挙げた。

「えっと、私なりにまとめてみたのですけど……
足腰が弱くて耳が遠く、頑固で人の話は聞くけど意思は通す、喜怒哀楽が激しくて料理上手…………つまり【お婆ちゃん】?」

はっ!その通り! とばかりに少女に視線が集まる。
ナハーシは、パンパンと拍手をして頷いている。

「そうですね、若い頃は外見重視になりがちですが、男性は本能では【母性】を求めるものなのです。

その母性の行き着いた先が【お婆ちゃん】なのですよ。

母親には照れ臭くて言えない感謝の気持ちも、お婆ちゃんには素直に言える、それが男性なのです。

皆様も【素敵なお婆ちゃん】になり、【王道愛されヒロイン】として、次の生を楽しんでいきてください。

なお、ここでの講習は記憶には残りませんが、魂に記録は残ります。
潜在意識というやつですね。

今回の生でも、『なんだか聞いた覚えがあるようなないような』と言う事がありませんでしたか?

それは前回受けた講習の【記録】かもしれませんね」

ナハーシは室内を見回し、にっこりと微笑み頭を下げた。

「それではここで今回の講習を終わらせて頂きます。
ご清聴ありがとうございました。

良い来世を………」


ナハーシが頭を下げているうちに、少女達の姿は順に消えていった。




少女達が次の生で【王道愛されヒロイン】になれるかどうかは、誰にもわからないけど、望む生き方をして欲しいとナハーシは思うのであった。







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