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番外 リズヴァーン 3
しおりを挟む腐要素があります、苦手な方はすみません
ーーーーー〈切り取り線〉ーーーーー
《リズヴァーン16歳》
16歳になった俺とアルバート。
俺はこの2年で随分背も伸び、今では大人の男性と変わらない身長だ。
アルバートは、成人したにも関わらず、相変わらず誰よりも美しい。
そんな俺達も、この国の忌まわしき儀式を受けなければならない年となってしまった。
社交界デビューの夜会では、俺たちに近付く年の近い女性はいなかったのだが、アルバートの元を少し離れた時に、中年の女性に声をかけられた。
儀式さえ済ませられるなら相手は誰でもいいので、そのまま誘いに乗ることにした。
ふと見ると、アルバートも十ほど年上の女性に声をかけられている。
きっとアルバートも俺と同じような考えなのだろう。
なんの感慨もなく、儀式を終わらせた。
その冬の長期休暇直前のこと、試験も終わり、帰ろうとアルバートを探しても見当たらない。
黙って先に帰るわけないので、探してみた。
明日から休みなので、学園に残っている人は少ないのに、アルバートが見当たらない。
特別教室のある校舎へ向かい、一つずつ教室を覗いていく。
音楽室を覗き、人がいないので次の教室へ行こうとした時、準備室の扉が開き、服を乱されたアルバートが出てきた。
「っっ!アル!!」
駆け寄ると、服は乱されているけれど、怪我はないようだ。
かーっと頭に血が上り、準備室へ飛び込むと、そこには殴り倒された上級生が気を失っていた。
アルバートに返り討ちにされたのだろう。
だからと言って俺の怒りは治らない。
横たわる男の胸ぐらを掴み、拳を振り上げる。
「リズ、止めろ。
僕が直接やり返したから。
これ以上やると過剰防衛だ。
それにリズが殴ると、お前が罪に問われるかもしれないだろ?
そんなクズの為にお前が責められるのは不愉快だ」
「だが、アル!」
「それにボタンが幾つか外されただけで触られてもいない。
相手は侯爵家だし、これ以上は家にも迷惑がかかる」
言いながら肩に乗せられた手は、震えていた。
俺が震えに気づいたことに気づいたアルバートが、力なく笑った。
「はは……やっぱり少し怖かったのかな」
瞬間俺の頭の中に言いようのない感情が湧き上がり、アルバートを抱きしめていた。
手だけではなく、抱きしめた体も小刻みに震えている。
俺が抱きしめていると、その震えは徐々に治まっていき、止まった。
腕の中のアルバートは、小さく息を吐き、俺の胸に顔を押し付ける。
「女みたいな顔をして僕が誘ったんだって……。
どうせ慣れているんだろうだって………。
こんなの遊びなんだからやらせろって……どうせ女にも嫌われているんだから………そんな顔しているんだか、俺の女になれって……………」
言いながら、また震えてくる。
顔が押しつけられた場所が濡れてくる。
あの横たわる男を殺してもいいんじゃないのか?
俺のアルバートを傷つける奴は許せない。
「…………それにいつも一緒にいる背の高いやつと遊びまくってるんだろうって、リズのことも馬鹿にした。
だから二人分殴って蹴ってやったんだ」
涙の浮かんだ顔を上げ、ザマアミロ、みたいな顔で笑うアルバートを見た瞬間、俺の中の何かが弾け飛んだ。
気づけば俺はアルバートに口付けていた。
「アルバートはなんて男らしいんだ。
危ない目にあったのに、家のことを考えて自分を抑えたり、俺のために怒ってくれたり。
外見だけしか見ずに、自分を律することもできない奴より、断然大人だ」
「……殴る蹴るをしたのに?」
「自業自得だ」
「震えて泣いたのに?」
「泣き喚いたわけでもないし、あれは生理現象だ」
「リズもこの顔好きなのに?」
「うぐっ……」
「知ってるよ、リズは僕が初恋で、僕の顔大好きだよね」
「そ、それは……アルがキレイなのは事実だし」
「でもリズは僕のことを女扱いしたことないよね」
「俺はお前の見た目だけが好きなわけじゃない。
例えうちの父のような見た目でも、アルがアルなら好きだ。
シスコンで、頭が良くて努力家で、負けず嫌いでシスコンだけど、いつも毅然としているシスコンなアルが好きだ」
ずっと心の中にあった想いが口をついて出た。
アルバートはキョトンとした後笑い出す。
「ははは、トーマおじさんクマみたいでかっこいいじゃん。
と言うか、シスコンって言い過ぎ。
キャシーが可愛いんだから仕方ないだろ」
良かった、ちゃんと笑えてる。
「と言うか、今どさくさに紛れてキスしたな」
「うっ……ごめん、気付いたらしてた」
「仕方ないから許してあげる」
良かった、怒っていないようだ。
腕の中に閉じ込められたままのアルバートは、コテンと頭を俺の胸に預けて、俯いて小さな声で言った。
「リズなら拒まなかったかもね」
それから二人の関係が少し変わった。
だが、俺はそう言う目でアルを見ていたわけではない。
ただ、アルの一番近くにいたかっただけだ。
その場の雰囲気に流されたと言うのか、若さ故とでも言うのか、丸ごと包み込んでしまいたかった。
関係が少し変わったからと言っても、お互いにずっと続くとも思ってはいないし、自然とそばにいるだけの関係に戻るだろうと理解している。
ただ、今は、二人してお互いで全てを埋めたかったから。
ある種の依存なのかもしれない。
でもきっと、この流れは自然なことだと思うし、ゆくゆく元の関係に戻ったとしても、距離は変わらないだろう。
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