【完結】アラサーの俺がヒロインの友達に転生?ナイワー

七地潮

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番外 リズヴァーン 5

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5月の半ば、教師に用事があると言うアルバートを待っていた放課後、忘れ物をしたのに気づき、一人教室へと向かった。

その途中、外から聞き覚えのある声が聞こえた気がして、窓を開け下を覗き込む。
校舎の裏にいたのは、キャスティーヌとモースディブス?

知り合いだったのか?と思い、立ち去ろうとしたら、
「やめてください!」
キャスティーヌの悲鳴が聞こえた。
身を乗り出してみれば、壁際に縫い付けられたキャスティーヌの胸元に手をかけているモースディブスの姿がある。

頭の中に二年前の風景が蘇ってきた。
アルバートだけではなくキャスティーヌまで……。
男のアルバートさえあれだけ傷ついたのに、女性であるキャスティーヌなら、どれほどの傷が残ることか………。
俺は階段を駆け下り、校舎裏を目指した。


モースディブスに対して口に出した言葉に、自身に納得した。
そうか、俺はキャスティーヌのことを可愛く思っているのか。

確かに婚約するのはいい考えかもしれない。
まだ先のことはわからないが、両親にも勧められていたし、サリフォル伯爵も、最近はアルバートといることに何か言いたそうにしていたし。
アルバートも他の男の元へやるより、俺なら渋々でも納得するだろう。

以前のままのキャスティーヌなら、助けには行っても、偽装であったとしても、婚約などは口にしなかっただろう。
でも、自然と言葉にしていた。
今まで異性に少しでもそういう考えを持ったことは一度もなかった。

婚約だけではなく、キャスティーヌとなら一緒になっても楽しく暮らせるのではないだろうか。
あの東の端の領地でも、今の彼女なら生き生きと暮らせると思う。

うん、悪くないのではないだろうか。

それに何より、いまこの腕の中で泣いている彼女をこれ以上泣かせたくない。
泣くのはダメだ。
どんなにとぼけたことを言っても、全てを顔に出してて本人が気づいてなくても、令嬢としてどうだろうと言う行動をとっても良いけれど、泣くのはダメだ。

子供のように声を上げて泣く彼女の背中を、落ち着くまで叩き、落ち着いた彼女を家まで送り届けた。


アルバートには有ったことだけ伝えて、相手は伏せておく。
アルバートを犯罪者にしないためにも。
勿論納得してくれなくて、責められ、殴られ、泣かれた……。
妹の仇を討たせろと、なぜ隠し事をすると、自分の気持ちをわかってくれないのかと責められ泣かれた。

それでも彼女は知られたくはないだろう。
今の彼女なら。



キャスティーヌは3日ほど学園を休んだ。
アルバートも休んでいる。

4日目、登校してきたアルバートに、家に来るように言われ、放課後にサリフォル家へ訪れた。

キャスティーヌはまだベッドから出してはもらえないようだ。
礼を言ったキャスティーヌがら
婚約のことを聞いてきた。
彼女の虫除けと、俺への見合いよけなどと理由をつけてみる。
少し考えて話に乗ってきた彼女に、本音は伝える必要はないだろう。

本人とアルバートから許可を得たので、両親に手紙を書こう。
両親から正式に、伯爵へ申し込んでもらうために。

これで俺は、楽しく可愛い婚約者と、アルバートとの一生の縁が手に入るのだ。
………そう考える俺は最低な男なのだろう。
そんな俺に目をつけられたキャスティーヌは、不運なのかもしれない。
だからそのぶん、彼女を幸せにしてあげようと思う。







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