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暗室

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高校では写真部でした。
昭和時代の話です、カメラは勿論アナログで、私などは○ルンですでクラブ活動していました。

写真を現像するには、フィルムを現像液などに漬けたり、印画紙に焼きつけたりするのですが、その作業を行う場所を【暗室】と言います。

暗室、光の入り込まない密室で、赤い専用ランプを付けて作業をします。


部室は六畳ほどの暗室があり、廊下側の入り口から入って向かい側がベランダ、右手側が部室、左手側が作業机、真ん中にはテーブルが一つありました。


高校一年のある日、部員の一人が

「私、霊感があるんだ。
心霊写真撮りたいなら撮らせてあげる」

と言い出しました。

興味津々の部員やクラスメイト、七、八人が集まり、暗室に折り畳み椅子を持ち込み、そこで怪談を始めます。

【そう言った話をしていると霊が集まる】

と言われて、皆でいろんな話をしていたのですが、突然その子が

「手を上げてみて」

と言い出したので、皆椅子に座ったまま手を上に……

勿論私も手を上げたのですけど、何も無い頭上の空間に、何かが有るのか、手を前後に動かすと、ボヨンと跳ね返るのです。

何か柔らかい…豆腐を手で押したような感覚でした。


騒つく暗室内、その子がまた言います。

「今なら心霊写真撮れるよ」


カメラを持っていた部員三人と、簡易カメラの私もシャッターを押します。

……押します

……………押すのですが、シャッターが下りません…………



「!!!後ろ!!!!!」


部室へ続く扉を背に座っていた子が叫び、皆の視線が作業机へ向くと、作業机のしたの棚に置いてあるパッドが緑色に光っていました。

赤いランプの暗室なのに、綺麗な緑色の光………


「「「「きやーーーーー!!!」」」」

皆大慌てでカーテンを開け、ベランダへ出る者、廊下へ出る者、隣の部室に逃げる者、パニックです。


暗室から出ると、カメラのシャッターは普通に動きました。

決してカメラの故障ではありません。

赤いランプの中で光っていたパッドは白い塗装の金属製です。

一人なら勘違いや見間違いで済ませられますけど、皆がシャッターの下りない現場、緑の光を見たのです。

あれは一体なんなのでしょう。


そして、私たちは何を触ったのでしょう………



その後、誰もその話をすることなく、卒業までお互いに距離を置くようになりました。


顔も名前も覚えていないあの霊感があると言っていた子は、今はどうしているのでしょう。






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